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はじめに−−「火事(災害)と喧嘩(議論)は江戸の華」を終えて

 

 「江戸・東京は、火災、震災に何度も見舞われた災害多発の大都市だ。近代的な都市計画がなかった江戸時代はともかく、関東大震災や戦災のあとなど、素晴らしい復興都市計画が立案されるが、財政難などの理由から規模縮小あるいは中止のやむなきに至っている。だが東京の町は、その時々の経済情勢に対応しながら、エネルギッシュに膨張し変貌を遂げている。それは多分に建造物の活発なスクラップ・アンド・ビルドによるところが大きいといっていいだろう−−」(東京建設業協会編『東京をつくった話』より)

 この東京を造ってきた旺盛なエネルギーが減衰しています。戦後幾つかの波はありましたが、経済大国・日本の中心として秩序だったとは言えませんが、活き活きと成長し続けてきた東京は、その活動を支えてきた経済の低迷と社会・経済構造の大変革に直面して閉塞状況にあります。また、環境面からも構築物の長寿命化が求められ、街・建物づくり手法の見直しも要請される時代となっています。では、どうしたらいいのでしょうか。

 私たち建設専門家は「東京を、このままにしておいていいのか−−」という危機感を持っています。確実に到来が予測されている大震災への備えが、遅々として進まないことへの危機感が第一です。さらに、既に一部都心部で散見されだしたスラム化による都市環境の悪化です。そして、公共投資の不公平配分に対する社会的不満の増大です。幸い、経済的エネルギーは減衰していますが、その一方で東京の街づくりを阻害してきた最大の要因であった地価=用地不足は緩和されています。また、大都市における所有から賃貸への土地保有意識の変化もあります。永年の懸案だった「安全、安心できる東京づくり」の絶好の機会だと考えます。

 既に、東京・首都圏地域の整備については、多くの報告・提言がなされています。その骨子は、運用面を含めた徹底的な規制緩和と戦略的投資による公的基盤整備による民間活力の活用が基本となっています。街づくりの理想は、公的基盤が先行的に整備されていることが望ましいことですが、既存都市においては事実上困難ですし、必ずしも絶対的条件ではありません。都市開発事業と同時平行的に進められた方が効率的であったり、事業のスピード化が図られることもあります。既存都市の公的基盤整備に際しての最大の課題は「現に住んでいる人々」を中心とした関係住民との調整にあります。

 この難問に正面から取り組む必要があります。この場合、最も肝要なことは、これまでの街づくりが行政を中心とした専門家の手に委ねられ、住民の参加が事実上皆無であったことを反省することだと考えます。参加が許されないゲームが魅力を失うのは当然のことなのです。

 幸い、行政サイドにおいてもアカウンタビリティ(説明責任)の重要性が高まり、事業関係者のみとの調整に偏重していた事業説明を広く情報提供し、意見・提案を受け入れ、協議・検討するという気運が強まっています。提供される情報が正確であり、かつ柔軟な選択肢を備えたものであるならば、アカウンタビリティは各種事業で垣間見られる「感情的何でも反対者」から「判断材料を持った賢い市民」を数多く生み出し、「意見を言う賛成者」を顕在化させることになります。従来は、声高き反対者の意見のみが表面化するため客観的な判断がなされないまま、時間を費やすことが数多くありました。そろそろ、賛成者と反対者が同一の土俵の上で意見を出し合い、民主主義のルールに乗っ取り合意形成の促進を図っていく必要があると思います。

 「火事(災害)と喧嘩(議論)は江戸の華」の時代に終わりを告げ、「新しい東京づくり」を開始する時期だと考えます。

 それには住民の一人ひとりが真剣に東京の街づくりに参画すること。こうした地域住民の意識が何より有効であり、東京を再生させ、安全で安心な、いつまでも住み続けることのできる魅力ある都市の実現へと推し進める強力な力ではないかと思うのです。私たち建設業に携わる者も、都民の一員としての役割・責任を担うべきと考え、これからも積極的に「提言」を続けてまいりたいと思います。

 本誌は、本文である「提言」のダイジェスト版です。イラストを中心に、分かりやすく本文をまとめ、気軽に読んでいただけることをねらいとして制作したものです。本誌によって、本文の理解がより深まり、広く東京の活性化を考えるきっかけとなれば幸いです。

社団法人 東京建設業協会「東京の活性化に関する研究会」


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