最終回 街は大きな野外博物館

■ 東建月報2011年2月号掲載


寒くなってきました

冬になると景色までもが寒々しく見えてしまいますが、寒風吹きすさぶ中でも、古い民家などを見たときには、なんとなく温かみを感じることができるような気がします。木造であったり茅の厚い屋根といった外観や、内部の囲炉裏の火の存在が温かみのイメージを想起させるのかもしれません。でも実際は底冷えがして寒いのですけどね。こういったイメージが世代間で共有できるのは一体いつまでなんだろうか? と危惧してしまいます。

都内に残る古民家

杉並区立郷土博物館 旧篠崎家住宅主屋
▲杉並区立郷土博物館 旧篠崎家住宅主屋

今回は野外博物館という体裁をとっていなくても、古民家などの建築物を保存している事例を紹介します。

建築物は古来より人の生活に欠かせないもので、人の暮らしを振り返るときそれは貴重な建築史資料としてはもちろんのこと、さらに歴史・民俗資料そのものです。日本各地の地域や生業などを反映したさまざまな建築様式や住まい方が見て取れます。それらは私たちに生活文化を伝えてくれます。

表は都内に残る古民家や歴史的建造物を保存活用した事例です。都内各地に残る、後世に伝えるべき建築物を歴史資料として、博物館や公園に移築保存したり、現地保存し後に周辺整備をした好例です。こう見てみるとそれほど少なくない数が身近にあります。

さらにその多くは、ただ単に建物として移築保存されているだけでなく、囲炉裏に火をいれたり、体験学習をしたり、展示施設としていたりと、内部を有効に活用していることが注目されます。

南関東の古民家は、古くは内軒高が低く閉鎖的で、内部は広い土間と床上に3つの空間を持つ3間取り広間型から、時代を経るにつれ軒高が高くなり、内部は4間取り、さらに富裕農民層における6間取りと変遷していきます。また猪しし窓まどと呼ばれる縦格子の窓を設けたり、屋根材を茅だけでなく杉皮を用いたりしています。

生活文化の伝承のために

  ▼都内に残る建築資料としての保存例
区・市名称・所在施設形式
板橋区板橋区立郷土資料館古民家を移築
江戸川区一之江名主屋敷古民家を現地保存
葛飾区葛飾区教育資料館校舎の活用
北区北区立ふるさと農家体験館古民家を移築
江東区江東区立仙台堀川公園古民家を移築
渋谷区旧朝倉家住宅住宅を現地保存
新宿区林芙美子記念館住宅を現地保存
杉並区杉並区立郷土博物館古民家を移築
世田谷区岡本公園民家園・次大夫堀公園民家園古民家を移築
豊島区雑司ヶ谷旧宣教師館住宅を現地保存
目黒区宮野古民家自然園・旧栗山家住宅
(すずめのお宿緑地公園内)
古民家を移築
あきる野市あきる野市五日市郷土館古民家を移築
青梅市青梅市郷土博物館古民家を移築
国立市国立市古民家古民家を移築
小平市小平ふるさと村古民家を移築
狛江市むいから民家園古民家を移築
立川市川越道緑地古民家園古民家を移築
多摩市旧富沢家住宅、旧有山家・旧加藤家古民家を移築
羽村市羽村市郷土博物館古民家を移築
日野市日野宿本陣建物を現地保存
檜原村旧小林家住宅古民家
府中市府中市郷土の森博物館建築物8棟を移築
三鷹市山本有三記念館住宅を現地保存

複数の建築物を移築保存する野外博物館の存在意義も大きいですが、地域においてその地域の歴史資料を保存活用することは大きな意義を持つと考えます。先人たちの生活文化は、身近に感じること、日常の延長として認識すること、それらによって、世代を越えて伝わり続けていくのではないでしょうか。考えてみれば、私たちが暮らすこの街は、過去と現在が混在する博物を収める大きな館(フィールド)なのかもしれません。

府中市郷土の森博物館 旧越智家住宅
▲府中市郷土の森博物館 旧越智家住宅