[シリーズ・東建この人E] 都市機能更新研究会 荒川豊彦氏

■ 東建月報2011年12月号掲載


都市機能更新は責務を持って取り組むべき、
21世紀東京のそして日本のテーマ

「都市機能更新というのは長い時間と大きな努力がかかる21世紀的なテーマであり、同時にそれに継続的に取り組む責務がある。古代ローマ帝国は、世 界各地に巨大な都市を形成したが、実はその後、都市機能を維持していくことをシステム化し一生懸命に取り組み、栄華を持続させていた」と研究会の意義を語る。研究会がスタートしたのは平成19年3月で、以来座長を務めてきた。

都市機能更新研究会では、東京都が掲げた「『10年後の東京』〜東京が変わる〜」への対応、シンポジウム「緑の東京」の開催などに取り組んだ。今年 も、7月にシンポジウム「墨田・江東におけるまちづくりへの挑戦」を開催したが、このシンポの中心となっている陣内秀信法政大学デザイン工学部建築学科教授は、学生時代の仲間とか。

「いいまちづくりとは、緑や水辺やたたずまいなどと、人々の生活とが積み上がってできるもので、それらの歴史的なつながりを重視する陣内教授の取 り組みを生かしていけば、都市も本物のものになる」と語る。

そして研究会は、今年11月に「『首都直下地震』発災時における応急復旧体制を整えるために」と題して提言をまとめた。東日本大震災を契機に、震災 の初動や帰宅困難者対応など新たな課題について、建設業界の立場から明らかにしたものだ。その提言の中の「おわりに」には、荒川座長の考えが織り込まれている。公共投資が減少し建設業が疲弊している現状では、災害対応が後手に回りかねないから、あらためて建設業の存在意義を強調しようというものだ。

その真意をこう語る。

「25年くらい前に仕事で米国の設計事務所に派遣され、東海岸に住んでいた。その当時、マンハッタンをはじめとする東海岸の諸都市は、財源不足で道路はデコボコのまま放置され、耐用年数に近づく橋も十分補強できないという実情を目の当たりにした。いわゆる『荒廃するアメリカ』だった。そのと きの実感が都市機能更新への関心の原点になっている。首都直下地震でも、荒廃する日本、荒廃する建設業にならないことが重要だと考える」と言う。

鹿島建設への入社は1972(昭和47)年。都立戸山高校、東京大学工学部建築学科を卒業しての入社で、建築設計本部でデザインを担当。その後、米国 への派遣を契機に、建築単体から都市設計という大きな分野を手がける。「米国では複合開発の手法を学び、帰国したらバブル経済で、まさに複合開発の波が押し寄せてきた」と振り返る。

その後の数100ヘクタール規模のアフリカでの都市開発プロジェクトや、アラビアでの開発マスタープランづくりに携わってきた経験を生かして、現在 中国の都市づくりにも参画し、海外出張に追われている日々。「3・11も、中国に出張中で、幸か不幸か、巨大地震を体験することはなかった。発災時、 現地空港に足止めをくい、空港ターミナルビルの中でのテレビ画面で津波被災の実況中継を、驚愕する中国の人々とともに視聴することになった」

世界の都市設計に参画する立場から都市機能更新が遅れている東京の課題を聞くと「強力なリーダーシップでやるべき時にドラスチックにやる。また社 会ができるうちに、後世のためにやるという決断が必要だ」とも。

多摩ニュータウンに在住。63歳。

都市機能更新研究会の皆さん
委   員安藤利彦戸田建設(株)
 石橋俊明大和小田急建設(株)
 岡本 博岡建工事(株)
 久保金司(株)久保工
 木村憲一大豊建設(株)
 須田隆生安藤建設(株)