野村 昇(戸田建設㈱代表取締役専務執行役員)
当協会と東京土木施工管理技士会が共催した、平成25年度建設業新入社員研修会(4月2、3日開催)は、当協会の副会長を務める野村昇戸田建設代表取締役専務執行役員が「経営者が感じる 現在の建設業と若手への激励」をテーマに行った。参加した約190人を前に、東京都内の社会資本と建築物の整備状況と災害への対応を説明したうえで、「新入社員は鉄鉱石。不純物を取り除きながら、何度も打たれることで立派な刀になる。打たれることから逃げずに、立派な社会人として社会に貢献してほしい」と鉄鉱石から鉄製品に至るまでの過程を例に、エールを送った。
整備されたインフラが支える皆さんの快適な生活と環境
首都東京のインフラ整備の状況がどのように推移しているか、まず説明したいと思います。
皆さんが今、当たり前だと思っている下水道は、昭和40年(1965)に東京区部でも人口890万人に対し普及率は35% でした。世帯から見れば、(トイレの)水洗化も3軒に1軒の割合です。
皆さんが生まれる前後の平成2年(1990)の普及率は93%で平成7年(1995)に100%に達しました。皆さんの両親が生まれた昭和40年には3軒に1軒しかなかった水洗化も、皆さんが生まれた頃には100% 近く整備され、快適な環境で育ったことになります。
下水道整備は環境とも密接に関係していることも強調したいと思います。例えば、下水道普及率と、隅田川の水質(BOD)との関係です。下水道普及率が46%(隅田川流域)だった昭和48年(1973)まで隅田川の水質は環境基準をクリアしていませんでした。時代とともに環境基準も厳しくなっていますが、下水道普及率アップに連動する形で、隅田川の水質も改善し続け、一部例外の年はありますが、昭和50年代以降はずっと環境基準を下回る水質になっています。これは、下水道というインフラ整備が、生活の快適さにつながっているばかりでなく、環境にも良い影響を与えていることの表れです。
首都東京の大動脈である首都高速道路(首都高)についても触れたいと思います。昭和37年(1962)、最初の開通区間は4.5㎞でした。これが東京オリンピック開催の昭和39年(1964)には32.8㎞まで広がりました。皆さんが生まれた平成2年には220㎞まで延伸、現在は300㎞あります。首都東京の大動脈である首都高も建設会社が発注者と協力してつくってきたものです。
建築のなかで東京の高層ビルの推移についても触れたいと思います。昭和39年に高さ72m のホテルニューオータニから、昭和43年(1968)には156m の霞が関ビルが誕生。これが100m を超える超高層ビルの幕開けです。地震に対応する構造についても説明したい と思います。具体的には、大きく分けて、「耐震構造」「制震構造」「免震構造」の3つがあります。いずれも大地震時に人命は保護されますが、耐震構造は什器・備品の転倒や移動による機能低下も否定できません。
コスト的には、耐震構造を基準とした場合、制震構造が5% 増、10% 増が免震構造ですが、免震構造は什器・備品の損傷を受けずに維持出来るメリットがあります。
インフラ建設後半世紀迎える維持・再生対策は我々の使命
一方、これまで着実に整備が進んだインフラも、建設後50年以上経過する「インフラの老朽化」という課題に直面しています。下水道を例にすると全国で管路延長は約43万㎞ありますが、50年経過したものが約1万㎞、30年経過で約8万㎞に達しています。今後、老朽化対策、維持・修繕をしなくてはならない時期がくるでしょう。首都高でもコンクリートの劣化への対応が必要です。こうしたインフラ再生に対応するのも建設会社であり、我々の使命です。
これまでの大災害で、下水道、道路、鉄道、建築物などが被害を受けているのも事実です。そのための対応として事前に行政が取り組んでいるのが、防災計画に基づいたさまざまな取り組みです。
東京都の防災計画を例にすると、上下水道、橋梁、建築物の耐震化があります。また木造密集地域(木密地域)で道路を拡幅して延焼防止をする、木密地域の不燃化対策も東京都が進めています。
他人から打たれ自らをも打ち 社会に貢献する立派な刀になれ
皆さんは建設会社の社員として、これまで説明した防災・減災やインフラ再生などをこれから進めていくことになります。そこで私が皆さんに激励の言葉として言いたいのは、「鉄は熱いうちに打て」ということです。
鉄の原材料は鉄鉱石です。新入社員の皆さんは、まだ会社で使い物にならないという意味で、「鉄鉱石」です。鉄鉱石からさまざまな鉄製品になるまでの過程を言うと、鉄鉱石は溶鉱炉で不純物を取り除きながら、鉄製品の元となる段階になります。そのうえで、強く圧縮しながら伸ばす圧延工程を経てさまざまな製品が出来上がります。刀で言えば、この圧延に相当する作業として、何度も刀鍛冶が打ち続けて強い強度のある刀となるわけです。
皆さんは会社に入って、これから失敗もするでしょ う。失敗を通して、また先輩・上司から叱られて、新 しいことを覚えます。ただ社会や会社から打たれるだ けでなく、自分で打つ(努力)ことをしなければ、(役に立たない)〝なまくら刀〞にしかなりませ ん。
伸びる人間とそうでない人間の差は、人から打たれるだけでなく、自分で自分を打つことができるかどうかです。言い換えると皆さんが、これから打たれるなかで、自分が奮起し学ぶということが一番大事です。
皆さんが、立派な刀となるか、なまくら刀になるかは、自分自身の姿勢次第です。是非、自らを打って立派な社会人になって、社会に貢献してください。