東建月報2010年4月号掲載

4月30日は「図書館記念日」。1950年(昭和25)のこの日、進駐軍下の戦後日本で図書館法が制定された。
4月は入学の季節であり、新たに図書館と出会う時期でもある。私も大学に入ってすぐ、学内の図書館のガイダンスを受けたのを覚えている。調べ物用のレファレンス室を持ち、閉架が主である大学の図書館は、それまでの、「読みたい本を見つける場所」とはまったく別の施設だということを知った。
多くの人が最初に出会うのは、小学校の図書室や区立や市立の公共の図書館だろう。学生時代には卒業論文のために、大学の図書館や専門図書館、国会図書館などに出かける人も多い。最近の図書館は昔の図書館とは違い、時代と共に著しくIT化が進み、インターネットで蔵書検索や予約もできるし、国会図書館や大学の図書館などでは、多くの書籍をネットで公開している。グーグルが世界中の書籍をネットで公開する日も近いという。しかし、施設としての図書館も今だ多くの人を集め続けている。実際、通勤電車のなかで、図書館で借りた文庫本を読んでいる人をよくみかける。電車のなかではケイタイやゲーム機という人が多い中で、それでも「本を読みたい」人がいることを頼もしく思ったりする。
都内の主要な図書館、個性的な図書館を訪ねて、図書館の今を探ってみよう。


明治から平成に至る国会図書館の歴史


▲国際子ども図書館・「子どものへや」

▲国立国会図書館

まずやってきたのは、上野の「国際子ども図書館」。
ここは、今から百年以上前の1906年(明治39) に「帝国図書館」として設立された建物を、建築家・安藤忠雄氏の設計で、2000年にリニューアルした。旧帝国図書館時代は、暗くて陰気と評判があまり芳しくなかったらしいが、今は、クラシックな建物の背面にガラスの箱状の空間が増築され、そこから外光がさんさんと入る開放感のある空間となっている。また内部は、絵本や児童文学の本が子ども向けの背の低い書架に並び、居心地のよい場が演出されている。
この上野の図書館は、以前は、国の中央図書館であり、現在の国会図書館に代わる役割を果たす施設だった。しかし、太平洋戦争後の1948年(昭和23)、国会議員が法案作成のための調査と情報を得るための国立国会図書館が国の中央図書館になり、上野の図書館は、国立国会図書館支部となる。
発足当時の国立国会図書館は赤坂離宮に置かれ、1961年には建物ができて永田町に移転。1968年には全館が完成した。その後も、日本で出版される本を全点収蔵する国立国会図書館の蔵書は日々増え続け、1986年には、さらに新館が建設され、書庫も含めた新館全体が1993年に完成。総収蔵能力は1200万冊となった。
見たところ、とにかく頑丈そうな国会図書館の建物について調べてみると、一般的な図書館建築のモデルとはこのようなものなのかということがわかる。本館の書庫棟は一辺45 メートルの正方形で、17 の層に分かれている。温度は22度、湿度は55 パーセントに保たれ、収蔵書籍を安定的に保管している。
また、新館の建物は地上4階、地下8階。図書館建築で地下に書庫が置かれることは多いが、都心の永田町という国会議事堂至近の立地での土地活用術でもあろう。


それぞれの個性を発揮している公共図書館


▲都立日比谷図書館

▲都立多摩図書館

東京のもうひとつの代表的な図書館というと、日比谷公園内にある都立の日比谷図書館が思い浮かぶ。日比谷公園内には、日比谷公会堂や野外音楽堂、レストランの松本楼などがあり、1908年(明治41)に東京市立日比谷図書館として開館した歴史ある図書館はその文化の殿堂の一翼を担っている存在だった。しかし、ここ数年、図書館の前を通りかかると、建物も老朽化し、いつも閉まっているのが気になっていた。実は、日比谷図書館は、2009年7月に千代田区に移管されていたのだ。現在は休館中だが、2011年夏に新たに「日比谷図書館・文化ミュージアム」として開館が予定されている。どのような形でリニューアルされるのか、期待が高まる。
都立図書館としては、現在は広尾の有栖川公園内にある中央図書館と、立川市にある多摩図書館が機能している。広尾の中央図書館には、「都市・東京情報コーナー」があり、東京関係の雑誌、地図を多く収蔵するほか、江戸東京資料、都政関連などもあり、仕事に趣味にと役立ちそうだ。多摩図書館には全国初の雑誌集中サービス「東京マガジンバンク」があり、1万6000誌の雑誌を所蔵している。そのうち429誌は開架に1年間並んでおり、常に手に取って読むことができる。創刊号コレクションのコーナーもあり、雑誌という書籍文化に幅広く触れることができる場となっている。
最近は区立図書館にも独自の運営・サービスを打ち出しているところが多く見られる。2007年にできた千代田区の新庁舎内には千代田区立千代田図書館がオープン。ここの特徴は、ホテルのロビーのようにコンシェルジュがいることや、神田神保町の古書店街との連携で、どうしても手に入れたい本を古書店で購入する補助をしてくれるなどだ。皇居を見渡すビルの9、10階のフロアは快適で、いつも多くの人々が利用している。
同年に、地下鉄東池袋駅上の「ライズアリーナ」に開館した豊島区立中央図書館は、地下鉄駅直結という便利さもあり、豊島区以外からの利用者も多い。区内の「マンガの聖地」トキワ荘出身のマンガ家の全作品を収蔵するほか、同じ建物のなかに劇場もあるため、演劇書が充実しているなどの特徴がある。
建物として異彩を放っているのは、2009年にオープンした北区の中央図書館。元砲兵工廠の赤レンガ倉庫を利用し、歴史的建物の保存活用にも役立っている。レトロな雰囲気のカフェもあり、利用者に親しまれている。


建築としてすばらしい、二つの都内の図書館について


▲日野市立中央図書館

▲広々としたつくりの多摩美術大学・図書館

今回、図書館という建物施設について書くにあたり、都内でエポックメイキングと言えるような事例は何かを調べてみた。その一つは、多摩地区にある日野市立中央図書館。1970年代にできた、日本の公共図書館においてモデル的、先進的なものとされている例だ。巨匠・前川國男の弟子であり、図書館建築の大家とされる鬼頭梓の代表作だ。もう一つは、2007年に竣工した多摩美術大学の図書館。日本を代表する建築家・伊東豊雄の設計で、八王子の多摩美キャンパスに竣工したもの。図書館建築としてさまざまな試みに挑戦し、伊東の代表作とも言える。
日野市立中央図書館は、中央線の豊田駅近くにある、市民のための図書館。1970年代、日本の公共図書館運営はまだまだ欧米諸国に比べ遅れをとっていたところ、東京郊外の日野市では、図書館員たちの地道な努力や、「本を読みたい」という熱心な市民の欲求により、移動図書館が根付いていった。この草の根的な読書の広がりは、やがて「動かない図書館がほしい」という声につながっていく。市長や図書館員の努力により、市立図書館が建設されることが決まり、その設計を依頼されたのが鬼頭梓だった。日野市立中央図書館の外観を見ると、落ち着いた、温かみがある、静謐である、明るいなど、図書館として望ましいあらゆる要素が実現されていることがわかる。そして、その根幹にあるものは、市民と図書館員の本に対する愛情だ。
鬼頭梓は、このほかにも全国に数多くの公共図書館を設計している。
伊東豊雄設計の多摩美の図書館は、それとはまた違ったタイプ・性格の建物だ。美術大学のキャンパスのシンボルとしての役割も担いながら、ビジュアル本や映像資料なども多い図書館の機能も果たし、なおかつ学生にとって快適な内部空間を創り出している。
建物の特徴は、傾斜地に建つ形状と、ボールをバウンドさせたようなアーチ状の連続窓。内部にもアーチ状の柱が並び、その柱下には大きな木の下のような空間が創り出されている。建物は、このアーチ状の柱で支えられ、視線をさえぎる壁のない広々とした空間が実現している。これは、図書館という荷重条件の厳しい建物においては稀有なこと。構造、インテリア、外観、空調や照明まで、伊東豊雄ならではの個性的でスマートなアイデアが活かされていて、この場所を日常的に使う学生を羨望してしまうような建築となっている。
図書館という建築物は、荷重や書庫スペースの確保のほか、同時に閲覧室や開架スペースを置く必要があるなど、制約の多い建物だ。しかし今日、建設技術が進化したことで、ビルの高層階に図書館を置くことができるようになり、地下深くの書庫も建設できるようになった。また、本の収蔵としての役割だけでなく、本を読んだり探したりする空間の心地よさも重要視されるようになってきた。
たとえば、六本木ヒルズの超高層階の「アカデミーヒルズ」には、社会人のための学びの場とともに、立派な会員制のライブラリーが設けられている。この六本木のタワーで夜景を見ながらの読書というのも、東京の図書館のひとつのスタイルとなっているわけだ。
何より図書館は、まず知的創造の場。国立国会図書館館内に掲げてある「真理がわれらを自由にする」という言葉は、知性への回帰へと私たちを導いているようだ。


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