人工地盤による新宿駅南口の大改造

■ 東京駅から皇居をのぞむ行幸通り。車道、植栽、歩道がモラージュとなっている

東京のポテンシャル生かし、日本発展の機関車に

肥大化する首都・東京、その都市インフラの課題は道路整備の遅れに象徴される。環状道路は一つにつながらず、慢性的な渋滞と効率の悪化、アクセスとリダンダンシーにも課題が多い。それはそのまま、災害に脆弱な都市であり、都市間国際競争にも立ち遅れている東京の姿となる。国土学を提唱し、国土学アナリストを自称する大石久和国土技術研究センター理事長は、東京がポテンシャルを発揮し、成長のエンジンにならなければならない、と指摘する。それが日本発展の機関車として経済社会の牽引力となる。そのためには、都市インフラを整え、東京に人を呼び、付加価値を高めなければならないと言う。大胆な都市改造を提示する大石理事長に聞いた。 (図表は(財)国土技術研究センター提供)


森地茂氏

財団法人国土技術研究センター理事長
大石久和
Hisakazu Ohishi

(おおいし・ひさかず)1945年兵庫県生まれ。京都大学大学院工学研究科修了。建設省道路局長、国土交通省技監等を経て現職。 早稲田大学大学院公共経営研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特命教授、東京大学大学院情報学環ユビキタス情報社会基盤研究センター顧問などを兼務。著書に『国土学事始め』(毎日新聞社2006年)、『国土学再考 「公」と新・日本人論』(毎日新聞社2009年)、『日本人はなぜ大災害を受け止めることができるのか』(海竜社2011年)。

――以前から「国土学アナリスト」と名乗っておられますが、その国土学の観点から見た東京の都市づくりでの問題点は 

過重負担の東京、求められる効率ある道路機能

「国内の最大人口圏に、いまだに人口が集まっている先進国は日本だけと言われている。それだけ、東京には過重負担させ、引き受ける必要のないものまで、引き受けさせているのが現状だ。首都・東京は非常に重要な機能と役割を求められているのに、あらゆるものが集積し肥大化している。恒常的な大渋滞、すぐに遅れる通勤鉄道とインフラが効率的に動かないのは、その肥大化の一端である」

「私は、早稲田大学の客員教授も務めているが、講義するため、ここ(国土技術研究センター・虎ノ門)から大学まで車で行った場合、止まっている時間、走行している時間を調べてみた。その結果、停車が17分、走行が14分だった。走っているより止まっているほうに時間が費やされていた。これが都内の道路事情なのだ」

「以前、大臣が閣議に遅れるという事態もあった。東京には、政治、行政、経済、社会のVIPが集まっているが、彼らはセキュリティーもあって車で移動している。その人達の移動や行動が効率的にできないということは、この国の効率性が問われるということを意味する。これに対し、首都機能の移転で対処しようとした。だが、その処方箋では、いくつもの候補地から絞り込む過程で、政治問題化して前に進まなくなった。移転ではなく首都機能のいろいろな機能を各地でバックアップしたり、分散させたりするというのが正しい処方箋だったのだ」

環状道路整備の遅れを取り戻し、ネットワーク網整備

「いま為すべきことは、東京のポテンシャルを生かして成長のエンジンとし、日本発展の機関車とすることだ。そのためには、情報通信と交通をどうするかがポイントになる。特に、東京の環状道路を急いで整備し、ネットワーク網を確立することが急務となると考える」 

――これまでの災害でも道路網が寸断されたことにより、二次災害を大きくしました。一方、東日本大震災では仙台東部道路が陸の防波堤としての機能を果たしました。災害対策からも、道路インフラの重要性が見直されつつありますが、お考えを

「阪神淡路大震災の時、私は国土庁総合交通課長であったが、国道2号線、山陽・中国自動車道、阪神高速道がことごとく寸断され、機能不全に陥ってしまった。その時、われわれは何を理念として道路を造ってきたのか、と反省せざるを得なかった。ドイツの道路(アウトバーン)は、空爆によって国土が破壊されても、道路のネットワークを維持するという国土防衛上の確固たるインフラ理念があって造られたものだ。だから、A地点からB地点までの幹線が寸断されても、州と州をつなぐ迂回路が血脈のように張り巡らされ、防衛機能を果たすことができるようになっている」

交通量対策の道路から脱却し、新たなインフラ理念を

インフラの理念確立、B/Cからの脱却

「それと比較すると、日本では、どのような国土を造るのかというインフラの理念があまりに希薄である。理念がなくて、あるのはB/C(費用便益比)という手法だけだ。B/Cの、Bとはほとんど交通量で決まる。これは渋滞対策に汲々とし、交通量を処理するための道路整備に追われてきた時の考え方だ。災害時のリダンダンシーや県庁所在地を結ぶことを考える。他の道路のアクセスとの補完や、あるいはミッシングリンクの解消を急ぐ、といったさまざまな「価値」を取り入れながら道路整備の可否や優先順位を決めるということをしてこなかったのではないか」

「東日本大震災で、防災機能を果たした三陸縦貫道にしても、B/Cによる整備方針で進められているため、発災直前の開通区間を含めても、まだ50%の供用開始にすぎない。一本の道路として線になっていない。東日本大震災では、この道路の供用中の区間は被災せず、その後の緊急輸送にも大きな役割を果たした。それが〈たまたま〉でいいのですか、と問いたい。われわれは、計画理念として、交通量と異なる価値を創造できたのかということが、今まさに問われている」

――東京における道路のネットワークにも問題は多いですね

皇居前広場のオープンスペースと大手町建築群。これも東京らしい都市景観
▲図表-1   環状道路の整備 東京首都圏における環状道路の整備率は約47%であり、海外主要都市と比べて整備が遅れている状況。

アクセス悪い練馬、大田区を国際化大改造へ

日本橋にかかる首都高速。都市改造が急がれる
▲図表-2  アクセス性やリダンダンシーの確保における課題 出入口へのアクセス性(H32ネット)

「東京首都圏における環状道路の整備率は47%に過ぎない。ソウル、北京、パリに比べてはるかに遅れている(図表-1)。これでは、来るべき都市間国際競争に勝てるはずがない。それから着目すべきなのは、東京には首都高速や外かんの出入口が都心へのアクセ ス性が悪く、同時に郊外方向へのアクセスも悪い地域があることだ。都心に行くにも、郊外へ向かうにも、二つの幹線高速道に入るまでに3km以上走行しなければならないのが練馬地区と大田区川崎北部である(図表-2)。この地区は、低層住宅が密集し、土地利用面でも問題が多い。都市改造をし、情報、交通、英語環境の三要素を整備し、この地域は海外投資を誘致するくらいの構想力を持つべきだ。この程度の都市改造と、高速道路へのアクセスも同時に解決していくことが必要だ」

――これからの都市づくりにおいて少子高齢化への対応は避けられないテーマであり、東京も例外ではないと思いますが

少子高齢化だからこそ海外呼び込む都市に

「少子高齢化と言えば、人口が減るからもう投資しなくていいという発想がある。わたしは、そのような思考回路に入ったら、この国は転げ落ち、〈荒廃する日本〉になってしまうと言いたい。実は、少子高齢化の問題は日本だけでなく、韓国でも、日本より早く急激に来る深刻な問題となっている。だが、韓国の発想は、人口が減るなら、世界の人々を誘致して、働いてもらい、富を生もうというものだ。もう投資しない、という後ろ向きの発想ではない。日本も観光で外国人を呼び込むという程度の話なのではなく、日本に働きに来てもらい、日本で付加価値を高める仕事をしてもらうということを考えるべきだ。米国、中国から大学教授、研究者、大企業にどんどん入ってもらい、働いてもらう。そのために効率的な道路、鉄道、英語環境などの社会インフラを充実させる。そういう環境になれば、子供たちも自ずから、国際化への対応を身につけ、それに向けて頑張ろうという気持ちが醸成されていく。都市や社会が国際化への対応を欠いているのに、それを来るべき世代に言葉だけで国際化を求めても無理なことであろう。東京には、それだけのポテンシャルがあるはずだ」

――次世代のためになにができるか、ということをこれまでも指摘されておりますが

次世代にどんな東京を残していくのか

「そうです。われわれが先輩の造った社会資本の恩恵を受けてきたように、今度はわれわれが次世代に何を贈るのか、どんな東京を残していくのか、ということを考えるべきだ。だから、国や地方自治体の予算も現世代向けが○兆円、次世代向けが△兆円と組み替えて計上し、発表すべきだと主張している。いかに次世代への投資が後手にまわっているかが明白になるだろう。次世代のためには、教育、科学、公共事業の充実が不可欠だし、日本が世界に貢献できるのも、それらの分野であり、予算も投入していくべきだ」

――災害に強い、高度防災都市づくりの機運が高まっていますが、防災面での東京に求められることは

▲図表-3  東京都区部の火災の際の延焼の危険性が高いとされる地域

「東京都区部の火災による延焼の危険の高い地域が予測されている(図表-3)。これだけ広範囲に延焼するわけで、不燃領域率70%未満の地区での幹線道路整備や沿道建築物の不燃化などを進め、延焼遮断帯の形成を急ぐ必要がある。首都直下、東海、東南海、南海の大地震が今後30年間に高い確率で発生すると言われている。その三つが同時に発生する可能性も考えられる。そうなれば東京は大空襲を受けたと同じ悲惨な被害すら予想され、日本が世界史から消えてしまう懸念がある。わが国が災害大国であることを自覚し、国土計画や都市計画づくりをしなければならない」

災害アセス法、社会資本の複合化を 考える時

「以前、仲間とインフラ問題を検討した時、災害アセスメント法を作り、災害を事前想定して、建築基 準、都市計画、国土計画に織り込むことを義務づける ことを考えた。東日本大震災が起きた今こそ、『災害アセスメント』という考えに立って社会資本を考え直 してもいいのではないか。また災害を考えれば、一つ が機能不全となっても、その代替路線が必要となる。 社会資本の複合化を急がなければならないし、それは 東京においても同様だ」

「発災時には、初動や救援には周辺の自治体との連携が不可避となる。首都圏の各自治体からの60分到達面積(図表-4)を見ると、横浜西部・相模原・多摩地域、千葉県北部地域は到達面積が小さく、この地域での道路アクセスやリダンダンシーを高める必要があることが明らかになっている」

渋谷駅周辺も森地提案により改造スタート
▲図表-4  アクセス性やリダンダンシーの確保における課題
        各自治体からの60分到達面積(H32ネット)
渋谷駅周辺も森地提案により改造スタート
▲図表-5 課題解決のために必要と見込まれる候補路線案

第3の首都環状と千葉北部貫通のネットワーク

「こうした課題解決に考え出したのが、新たな首都圏の道路ネットワーク構想である(図表-5)。これは平成19年に、知友の学識者や行政経験者で、首都圏の将来道路のあり方を内部検討した時にまとめたものである。ここで特徴的なのは、圏央道と外環道との間にもう一本、第三京浜、東名、中央道、関越、東北道につながる第3の環状道路を通すことと、外かんから、アクセスに課題のある千葉県北部を貫通して東関東につなぐ路線を想定していることだ。これによりミッシングリンクが解消し、郊外と都心、それに成田と羽田空港を結ぶネットワークは飛躍的によくなる」

「私はJAPIC(日本プロジェクト産業協議会)の国土委員長も務めているが、ここでは羽田空港と成田空港を、都心経由でリニア鉄道で結ぶ構想をまとめて提案した。リニアで結ぶとわずか10分でつながり、一つの空港として機能できる。こうなれば、羽田が4000m級滑走路を持つことになり、国際ハブ空港としての機能性を増すことができる。日本が成長するには、東京湾エリア、伊勢湾エリア、大阪湾エリアが、それぞれのネットワークを形成して、その3気筒エンジンが経済社会を牽引しなければならない。中でも東京湾エリアは一番の馬力を持っているはずだ」

――大胆な、元気が出るお話、ありがとうございました。



表紙の築地本願寺は、敬愛する伊東忠太の設計で、一般的なお寺のデザインは木造の良さを表現するものなのに対し、RCコンクリート造のお寺を追求した独特のデザインになっている。その挑む心意気から生まれた意匠は素晴らしく、私は好きだ。東京駅から皇居をのぞむ行幸通りの景観も大好きだ。あの広い道路は車道、歩道、植栽がそれぞれを自己主張しているモジュール道路だからだ。まず車道ありき、の道路構造令を超えたものである。