当協会は平成25年4月1日から、一般社団法人に移行したが、これを機に支部を発災時における対応体制を整備するため東京都の建設事務所の所管区域に合わ せて再編した。これは、災害時の協議を円滑に行うことをねらいとしたもの。本誌では、「地域の防災・減災」と題し、各建設事務所の取り組みを紹介する。第 1回は第一建設事務所。当協会第1支部長の坪井晴雅氏(坪井工業(株)社長)をインタビュアーに、相場淳司所長に聞いた。
――所管区域の特色や特性、防災の歴史、エピソードをお聞かせください。
行幸通りは「人が集まる場所」に
所管は千代田、中央、港の都心3区です。管内には1から4号までの環状道路があるほか、多くの放射線状の主要道路の起点にもなっています。河川では、隅 田川や神田川、日本橋川、亀島川などに囲まれており、これら道路・河川の整備や維持管理を行っています。また区部27河川の浚渫や、30河川の水面清掃も幅 広く手掛けています。
第一建設事務所が所管する都心3区は、昼間人口が非常に多いことが特徴です。近年夜間人口も急増していますが、加えて昼間人口は夜間人口の約6倍となっ ています。現在、管理する道路は38路線、延長は9万3978mに達しています。橋梁については一般橋梁が69橋、歩道橋が39橋です。
主な事業のうち道路について言えば、幅員73mと都道のなかで一番広い東京駅前の行幸通りがあります。 これまで中央分離帯の部分は、天皇陛下が東京駅へ行幸される際や、各国大使を馬車でお迎えされる道路として利用され、通常は閉鎖管理をしていました。この 空間を一般の方々にも広く利用していただくため再整備し、地下駐車場の上にイチョウ並木も復活させました。昨年は東京駅舎復原もあり、多くの人が集まる都 市の拠点になっています。
また、首都東京の顔となる道路整備としてシンボルロード整備事業を実施しており、皇居前の内堀通りや六本木通りの歩道は、街並みに合わせ、グレードを高 めた再整備をしています。例えば、内堀通りではアスファルト舗装から自然石によるブロック舗装に代えたところ、利用者の方々からご好評をいただいております。
道路・橋梁等の維持管理では、環境対策型舗装として路面の温度上昇を抑制する遮熱性舗装の実施や、首都直下地震等へ備えた橋梁の耐震補強等を実施してい ます。また全国初の取り組みとして、警視庁と連携し、歩道と路上パーキングゾーンの間に自転車専用レーンを整備しました。さらに管内には地下自動車道や共同 溝等といった道路施設が多数あり、各種電気・機械設備の維持管理を多く所管しているのも特徴です。
――防災の歴史についてお聞かせください。
靖国通り、昭和通りは地域防災の骨格に
第一建設事務所が所管する都心3区は、日本の政治経済を支えている中心地区でもあります。特に我々が担っている道路、河川は、その活動を支える大切なイ ンフラです。インフラを責任を持って支えることが、この地域の強靱性を高めることになり、ひいては日本全体の強靱性を高めているのだという気持ちで取り組 んでいます。
防災の歴史は古く、現在利用されている道路の多くが、関東大震災の復興時に作られた道路で、震災復興の影響が色濃く残っているとも言えます。
当時作られた靖国通りや昭和通り、隅田川の橋梁群は、今なお地域防災の骨格となっており、きちんと守っていかなければなりません。
また、現在整備を進めている環状第2号線は、戦災復興のなかで計画されたものです。言い換えれば、現在の都市計画の骨格は戦災復興によって作られたとも 言えます。多くの先達の遺産を守りながら、防災対策となるインフラ整備をさらに進めていかなければならないと思っています。
一方、河川でも過去に台風などで大きな被害を受けたことを契機に、日本橋川や神田川の整備、高潮対策が精力的に進められました。昭和40年代には、1時間 当たり50mmの雨量に対応する方針が示され、昭和43年(1968)から平成11年(1999)まで長期間にわたって神田川の分水路が整備されました。
近年は、局地的大雨いわゆるゲリラ豪雨などへの対応も必要になっています。具体的には、東京都豪雨対策基本方針のこれまでの降雨強度50㎜基準を昨年末に 75㎜としており、今後管内の河川整備でも75mmに対応していくためのインフラ整備を進めていかなければなりません。
東日本大震災の際には、管内では帰宅困難者が車道まであふれてパニックになるということはありませんでした。その理由として歩道が広い幅員だったことも あると思います。ただ震災の教訓から、例えば道路を占有してしまう放置自転車や置き看板撤去も重要です。特に東京駅周辺では放置自転車が大きな問題に なっており、地元区や警察署等とも連携して取り組んでいます。
震災教訓を生かすために実施した通信手段の再点検では、ビルの谷間で無線が使えない場所が一部あることが明らかになりました。それを補うためデジタル無 線も新たに導入しています。
――防災・減災の取り組みについてうかがいます。
防災・減災への取り組みでは、千代田、中央、港の3区や警視庁、東京消防庁とも連携しています。もちろん大災害だけでなく、風水害・雪害にも備え、私達は、365日24時間、いつでも対応できる体制で取り組 んでいます。
内堀通り皇居外苑地内のシンボルロード修景整備。修景前(左)と修景後 |
その前提を踏まえてですが、重要施設である道路は、昭和50年(1975)に応急災害対応協定を東京建設業協会と締結し、震度6以上の地震が起きた場合、自主的に出動要請に応じてもらうことで、災害時でも対応できる体制を整備させていただきました。皆様のお力添えに感謝しますとともに、緊急時の技術力には大いに期待しています。
また都では、日常的な巡回点検に加え、定期的に点検や調査を実施することで、道路の状況を的確に把握し、各種点検等の結果に基づいた応急対策を実施する とともに、計画的に補修・補強工事を行うなど予防保全型管理を実施しています。特に橋梁では「橋梁の管理に関する中長期計画」を策定し、耐震補強工事に加 え、長寿命化事業を実施しています。またトンネルについても、現在詳細健全度調査を実施しており、今後具体的な修繕計画を立てる予定です。
――防災・減災の取り組みで注目プロジェクトはありますか。
優れた日本の技術が支える都市防災、東建の企業が支える都市インフラ整備
管内の注目プロジェクトとしては、環状第2号線と古川地下調節池があります。
環状第2号線は、起点の江東区有明から、中央区晴海、勝どき、港区汐留、虎ノ門を経て、終点の千代田 区神田佐久間町に至る全長約14㎞の都市計画道路です。現在工事中の豊洲から虎ノ門までの間は、橋梁や地下トンネルで構成されるのが特徴です。また有明か ら豊洲までは、すでに供用しているほか、虎ノ門から神田までは、以前より外堀通りとして利用されています。
環状第2号線の全線完成により、臨海部では新たな避難ルートとなり防災対策の向上につながります。また並行する晴海通りの渋滞緩和など地域交通の円滑化 を図るとともに、臨海部と都心の連絡を強化する上でも重要な道路となります。
環状第2号線全線の開通は平成27年度(2015)ですが、新橋・虎ノ門間は先行して平成25年度(2013)末の交通開放を予定しています。
一方、古川地下調節池は、古川の直下に洪水を貯留するトンネルを設け、水害を軽減するものです。地元の皆様からは効果を期待する声はもちろん「こんな狭 い場所にトンネルができるとは日本の建設技術はすごい」との声も寄せられています。建設業界の技術力が都市を支えている好例といっても過言ではなく、日本 の建設技術が都市防災に役立っていることを地元の方々にも理解していただけると思います。今後も積極的にPRしていきたいと思っています。
――インフラ整備の重要性とパートナーである建設企業について、お考えをお聞かせください。
繰り返しになりますが、環状第2号線、古川地下調節池等の必要性は言うに及ばず、既存橋梁の耐震補強も待ったなしです。永代橋、清洲橋といった著名橋でも今 年度から長寿命化の工事に入ります。また電線類の地中化など共同溝や日々の維持管理を含め、防災の視点からもインフラ整備はますます重要になっています。
こうした整備を支えているのが東京建設業協会の皆さまであり、かけがえのないパートナーだと思っています。
新橋・虎ノ門間のトンネル躯体完成(新橋付近) | 朝潮運河部で橋梁の桁架設工事が進む(朝潮運河付近) |
――災害時の建設企業との連携について課題はありますか。
緊急道路障害物除去では会員企業との、より深い連携も
道路、河川の応急復旧について言えば、今回東京建設業協会の支部を再編成され、われわれの管内と合わせていただいたのはとてもありがたいことと感じてい ます。
しかし緊急道路障害物除去については、東京建設業協会さんと締結している「災害時における応急対策業務に関する協定」に基づき、東建会員企業と承諾書を 交わしていますが、その数は少ないのが現状です。今回の意見交換を機会に、私たちの趣旨に賛同していただき、より多くの会員企業の皆さんと、ぜひ承諾書を 交わして、より連携を深めさせてもらえればありがたいと強く思います。
われわれは路線ごとに管内の企業にお任せしていますが、1社に限らなくてもいいと思っています。ぜひ新たな締結を検討していただければと思います。
――東日本大震災では、道路啓開などで発注者ごとの要請が錯綜する、指揮命令系統の課題が浮かび上がりました。
確かに都道のほか、国道や区市町村道もあり、重複の課題はあると思います。ただこれはある程度、行政側がリードして、国だけでなく地元区を含めて優先順 位をつけていくことが大切です。本当に災害が起きた場合、優先順位は大事ですがその場合、この都心3区は単に千代田、中央、港という3つの区ではなく、東京の中心であり日本の中心でもあることも考える必要があります。
3区の機能がストップすると日本全体が機能停止することにもなりかねない。ですから最優先で道路啓開をしていかなければならないと思っています。ただ、 われわれも区との連携もまだまだですし、国とも十分ではありません。私たちも努力しなければならないし、そうした情報交換を今後も密にさせてもらえれば と思います。
実際の災害対応では、発災時に投入できる企業の重機がどの程度あるかに関心があります。災害対応で国、区との連携もありますし、他の都建設事務所もそれ ぞれの所管区域を抱えており災害対応が必要です。そうすると、都心3区以外から重機がなかなか届かないのではないかという心配もしています。また都心と多 摩を比べると、都心はリースが多く、多摩は保有が多いとの調査結果もあります。
また第一建設事務所管内で協定締結している45社のうち、重複せず東京都だけと締結しているのは9社と2割にとどまっており、8割は他機関と重複していま す。水道や下水道と関係が深い企業の皆様もいらっしゃるでしょうから、そのあたりが課題かもしれませんね。
――最後に、魅力ある都市づくりについてどうお考えですか。
防災だけでなく都心の顔でもあるので、そうした視点からもインフラの整備を進めていきたいです。行幸通り等では、イベントに道路を使ってもらうという新 しい取り組みも進めています。道路を中心に賑わいができるといった、明るい話題に繋がるようなインフラ整備に取り組んでいければと思います。
古川地下調節池 | 行幸通りの賑わい |