当協会は平成25年4月1日から、一般社団法人に移行したが、これを機に支部の発災時における対応体制を整備するため東京都の建設事務所の所管区域に合わせて再編した。これは、災害時の協議を円滑に行うことをねらいとしたもの。本誌では、「地域の防災・減災」と題し、各建設事務所の取り組みを紹介する。第4回は、第五建設事務所と江東治水事務所。当協会第5支部長の布戸哲太氏(東起業㈱代表取締役会長)をインタビュアーに、藤田雅人第五建設事務所長、新谷景一江東治水事務所長に聞いた。
――所管区域の特色や特性、防災の歴史、エピソードをお聞かせください。
所管区域は東京の一番西に当たる、青梅市、福生市、羽村市、あきる野市、瑞穂町、奥多摩町、日の出町、檜原村の4市3町1村です。面積は東京23区全域にほぼ匹敵し、そのうち東側の3割、福生市や瑞穂町などが平坦な地域で、残り7割が山岳地域という大きな特徴があります。7割の山岳地域の中には、秩父多摩甲斐国立公園指定地域も含まれております。かなり急峻な地形状況にあります。
災害対策では、何と言っても毎年のように発生している土砂災害です。直近では道路脇からの土砂崩落で起きた、7月の檜原村樋ひ ざと里での都道通行止めです。8月下旬にようやく片側通行が可能になりました。また昨年6月にも奥多摩町日にっぱら 原で大規模な落石が起き一般開放まで1カ月かかりました。落石があって、車が通行できる片側通行回復まで1,2カ月かかりました。
こうした言い方が適切かどうか分かりませんが、広い面積を所管し急峻な山岳道路を管轄する私たちや、古くから住んでいる住民にとって、災害は身近なものという意識があるのも事実です。
危険先回り。斜面2121カ所常に監視
――防災・減災への取り組みとして注目すべき事業には何がありますか。
山岳道路が多く災害が起きやすいという管内最大の特徴を踏まえれば、日常の点検・維持管理業務こそが地味かも知れませんが、防災・減災への第一の取り組みとして挙げられます。その意味では事業の大きな柱の一つとして、今あるものをいかに大事に使うかという視点に立った「補修」があり、これがベースです。山岳道路では、集落の先は行き止まりで、市街地と集落をつなぐ道路が1本しかない所が多く存在します。その道路が斜面崩落すると、孤立集落が発生し生活にも支障と困難を来たしますので、日常から斜面が崩落しないための道路維持管理が重要です。
管内の山岳道路には2121カ所の斜面があり、それぞれ番号をつけて管理しています。5年に1回、全路線全斜面(2121斜面)を対象にした点検を行っています。点検の結果は3ランクに分けて評価し、その評価結果を東京都の斜面台帳の更新時に反映させています。
ランク1が「対策が必要と判断」、ランク2は「防災カルテを作成し対応」、ランク3が「特に新たな対応が必要ない」というものです。ランク1,2については毎年1回、民間企業の力を借りながら特別点検を行っています。このほか、3日に1度の頻度で道路巡回も行っています。山岳道路では2時間に1回の割合で落石が発生しており、巡回ですぐ取り除けるものは取り除いています。
そして、点検により斜面の危険度を判断し、優先度の高いところから道路災害防除事業など必要な対応を図っています。石積み擁壁への対応を完了し、現在は、「2020年の東京」への実行プログラムにも位置づけられているモルタル吹付斜面への対応を進めているところです。当所では道路災害防除工事だけでも年間30件以上の工事を発注しており、道路維持や路面補修など補修関係の工事は発注件数も年間200件程度と最も多いと思います。過去の災害を踏まえ、斜面対策などを進めるとともに、さらに点検や日常パトロールなどによってなるべく事前に危険を察知できるようにしていることが、通行止めを余儀なくされる構造物の被害はあっても、人的被害にまでつながっていない要因だと思っています。
重点は防災道路バイパス3事業
――補修以外の防災・減災事業として何がありますか。
地域の防災性向上(孤立集落化を防ぐ)、観光シーズン時の交通渋滞の緩和や、地域経済の活性化を図ることを目的としたバイパス整備事業があります。都の2020年計画では、多摩川南岸道路や秋川南岸道路などが防災道路として位置づけられ、重点的に整備を進めています。
このうち多摩川南岸道路は、国道411号のバイパスとして多摩川沿いに奥多摩町丹三郎から小こ とずら留浦まで延長7kmの道路を整備するものです。道路のほとんどがトンネルと橋梁で整備され、斜面の崩落などの影響を受けにくく、通行止め基準の連続降雨量140mmの雨量でも通行止めをしなくて済む、災害に強い道路と言えます。平成5年度から整備を開始しており、現在は城山トンネル、将門大橋などの城山工区が佳境で、供用開始へ向けて準備を進めています。この工区までの約5kmが完成すると、かなり安全度が高まります。
道路災害防除工事(黒沢地区) | 急傾斜地崩壊防止事業(檜原村藤原地区) |
延長14.5kmの秋川南岸道路が2つ目の事業です。起点が東京サマーランド前、檜原村役場付近が終点です。これもやはり防災道路として整備を進めているところです。
3つ目が梅う めがやヶ谷(地元では「うめがた」と呼ばれている)トンネルです。青梅と五日市を結ぶ都道238号線に梅ヶ谷峠があり、冬季は降雪に悩まされ、雨による土砂災害も発生するため、238号線と184号線を結ぶ「梅ヶ谷トンネル」として整備する計画です。生活道路が1本しかない場所にバイパスが整備されることで、昼間通行止めにして斜面対策や耐震補強などの補修工事も可能になり、防災道路としての機能も目に見えて効果が出てくると思います。
これらの重点プロジェクトの他、当所では38カ所あるトンネルは直営で毎年秋に点検をしていますが、今後、都としてトンネルの予防保全計画を策定する予定であり、当所としてもその計画に沿う対応を図っていく予定です。都全体の数の四分の一を占める橋梁についても、耐震補強と長寿命化対策など、予防保全型管理を推進しています。
災害への適切な対応や市街地の整備も重要に
管内の7割を山岳地が占めていることもあり、当所では砂防事業や急傾斜地崩壊防止事業など土砂系事業 の比重が高いのも特徴で、重要な事業になっています。
例えば、台風による土砂崩れの被害が発生した檜原村藤原地区では、急傾斜地崩壊危険区域に指定し、集落を土砂災害から守る斜面対策を行っています。また、奥多摩町塩ノ沢でトンネルとトンネルの間の道路が土石流で埋まってしまった災害がありました。そのため土石流を食い止めるための高さ15mの砂防堰堤などを整備する砂防事業を実施中です。これらのハード対策と並行し、ソフト対策として土砂災害警戒区域等の指定及びそれに基づく警戒態勢の整備等を進めており、当初想定していた管内約4800カ所の土砂災害警戒区域の指定は今年度で完了する予定です。
このほか、水害に対する安全性を向上する中小河川整備事業を進めています。幸いなことに最近は床下や床上浸水などの被害が起きていませんが、近年は短時間で局所的に大量の雨が降るケースもあり、今後河川が氾濫する可能性もあることから、平井川については下流から護岸整備を、霞川については都県境に調節池を整備後、上流部の改修を進めているところです。こうした事業は地味ですが、大きな災害を招かないよう粛々と進めています。
また、奥多摩周遊道路を管理する当所は、都建設事務所の中で唯一除雪機械を2台保有しています。周遊道路は、観光道路としても有名ですが、奥多摩町と檜原村を結ぶ生活道路でもあります。道路の最高標高は1146mあり、冬季にはマイナス15度程度まで気温が下がります。降雪も多く(昨年度の降雪は年間26日程度)日陰が凍結することから、きめ細やかな対応が必要です。
堰堤が完成した塩ノ沢砂防工事 | 奥多摩周遊道路における直営の除雪作業 |
さらに、管内の7割が山岳地なので、そこが注目されがちですが、同時に私たちは3割の市街地でも着実に都市基盤整備を進めています。不足している地域幹線道路については、新青梅街道、千ヶ瀬バイパス、産業道路、吉野街道等の整備を進め、雨間(JR五日市線)・志茂(JR青梅線)・箱根ヶ崎(JR八高線)など鉄道との立体交差、電線類の地中化、歩道の拡幅・交差点改良の安全施設事業等、各種事業を推進しています。
建設業の魅力、誇りをともに考える
――防災道路整備などでパートナーである建設企業に対してどんな期待がありますか。
地域特性も踏まえれば、緊急時の対応は、地元の企業にお願いするしかありません。特に管内は災害も多く、頼りは地元の建設業というのが本音です。公共事業が減少し経営が厳しい中で、災害対応などの依頼が難しくなっている状況は理解していますが、やはり頼れるのは地元の企業の皆様であり、今後も緊密に連携していきたいと思います。
――東京建設業協会への期待としては何がありますか。
一つは公共事業など基盤整備を担っていただくことへの期待です。実際の施工は私たち行政が行うのではなく、技術力や労働力を持った建設企業の皆さんの役割です。今後も西多摩建設事務所の所管区域内の基盤整備を円滑に進めるために、パートナーである建設企業の皆さんには頑張っていただきたいですし、協会加盟企業の増加も期待しています。
――協会加盟数も減少しています。このままいけば、企業数だけでなく技術者の数も減っていくかもしれません。これは業界内だけでは解決できません。
建設業が魅力のある業界・仕事であるというイメージを持ってもらうために、私たち発注者が出来ることとして何があるか、考えることが必要です。どうしたら若い人が集まり、仕事に誇りを持ってもらえるのか、互いがパートナーとして考えていかなければなりません。今後も一層良きパートナーとして切磋琢磨していく、お互いがウィンウィンの関係を作っていくというのが、東京建設業協会への期待だと思います。
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