当協会は平成25年4月1日から、一般社団法人に移行したが、これを機に支部の発災時における対応体制を整備するため東京都の建設事務所の所管区域に合わせて再編した。これは、災害時の協議を円滑に行うことをねらいとしたもの。本誌では、「地域の防災・減災」と題し、各建設事務所の取り組みを紹介する。第6回は、第六建設事務所。当協会第6支部長の小野敬語氏((株)小野組社長)をインタビュアーに、小野恒夫第六建設事務所所長に聞いた。
23区の木密整備地域の約3分の1は管内に
――所管区域の特性、防災の歴史、エピソードについてお聞かせください。
所管区域は、文京、台東、北、荒川、足立の5区に横断的にまたがっています。そのなかで管内の北西部は武蔵野段丘東端の洪積層にあたりますが、それ以外は利根川と荒川とに形成された三角州であり、荒川・東京湾低地の平坦な土地です。つまり洪積層と低地の段差によって町の成り立ちから文化・歴史まで多様であり、異なる住民意識や地形が混在しているのが特徴です。
具体的には、江戸時代に浅草や上野は商業・観光の中心地で繁華街だったが、足立区などは水田地帯であった。このように町の成り立ちが違えば、住民の意識も地域文化も違ってきますし、当然まちづくりの歴史も違ってきます。これが管内の特徴でもあり、仕事の面白さだと思います。
また所管区域は台東、文京区などに、東京大洪水(1910年)や関東大震災(1923年)など大被災の歴史を持ち、その経験から防災意識が早くから根付いてきた地域だとも言えます。
また木造住宅密集地域(木密地域)のうち、特に甚大な被害が想定される地域(整備地域)は東京都内全体で7000haありますが、その約3分の1を当所管区域で占めています。さらに足立区では、綾瀬川が住宅軒高よりも高い天井川となっています。集中豪雨に弱く、震災時には甚大な火災に見舞われる危険性を抱えている地域なのです。
延焼遮断帯の形成、河川の耐震化
その意味で当事務所の眼目の一つは、防災対策だと言えます。具体的には木密地域不燃化事業である特定整備路線や河川の護岸などが挙げられます。木密地域改善の特定整備路線事業は、全体28路線のうち管内で5路線6区間を対象に、いずれも2020年完成を目指しています。河川護岸では、綾瀬川の耐震護岸事業に取り組んでいます。従前の護岸の前面に鋼管矢板を打ち込んで補強するものです。
また木密地域や天井川以外の防災対策では、急傾斜地が崩れないようにする崩壊防止施設事業があります。急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律で、傾斜度30度・高さ5m以上のがけ地を、急傾斜地崩壊危険区域に指定し、擁壁や排水施設など崩落防止工事を行い、管理するものです。北区赤羽で5ヵ所が指定されています。
23区のなかで木密、河川、急傾斜地の3点防災事業が揃っているのは、とても珍しいと言えます。
インフラ更新は高規格化に軸足
もう一つ重視する事業は、施設の高規格化です。例えば台東、文京区などの地域は、すでにまちとして完成されていますが、早くから整備されたが故に、どういう形で施設・インフラを更新していくのかという課題が問われています。例えば隅田川に架かる橋はすべて更新時期にあり、更新の際には長寿命化と耐震補強化が求められています。つまりインフラ施設の更新に合わせて、高規格化をするという発想です。用地買収をしないで、新しい公共事業を再構築することが高規格化だと理解してもらってもかまいません。
この既存施設の高規格化として、道路では無電柱化、既存道路のなかでの自転車走行空間、道路のバリアフリー、住民参加の道路緑化などがあります。
自転車走行空間整備事業では東京都が昨年9月に「東京都自転車走行空間整備推進計画」を策定し、新たに100kmを整備し、車道を活用する計画をまとめました。これを受け当事務所では、浅草通りのシンボルロード事業と合わせて自転車道の整備を進めています。一車線を潰して歩道を拡幅し、歩道と自転車道を分離するようにしています。次のステップとして白山通りの千石から水道橋までの約3kmの区間で、交通管理者や関係機関と協議を行いながら、新たな自転車走行空間の整備を考えています。社会実験として交差点で、自転車が歩道に入らないように車道へ誘導する「ナビライン」という誘導レーンも導入しています。また言問通りの一部では、車道を削り歩道内の電柱も民有地に入れて歩道拡幅とバリアフリー化をしている事業例もあります。
また、幹線道路の舗装では低騒音舗装が重視されてきましたが、これからはそれに加えて遮熱性舗装が中心になると思います。
一方、河川では隅田川テラスなどの親水施設や、首都直下地震に対応した護岸整備が挙げられます。
橋梁の長寿命化と耐震補強ですが、東京都全体で1200橋を管理し、このうち管内には51橋あります。耐震補強対象橋梁はこのうち36橋に及び、28橋で完了しています。残り8橋も、設計中または工事を進めているところです。また長大橋や著名橋など耐用年数を100年以上に延命する長寿命化対象は都全体で212橋あり、このうち当管内には28橋もあります。そのうち関東大震災後の震災復興橋梁は、蔵前橋、厩橋、駒形橋、吾妻橋、白鬚橋と5橋あります。また神谷陸橋では全国初とも言われる異種構造のゲルバーヒンジの連続化による長寿命化をしています。
急傾斜地崩壊危険区域(北区赤羽地区) | 綾瀬川耐震護岸事業 |
欠かせない地元企業育成の視点
――災害時の建設業界との連携対応についてはどのように進めますか。
道路の被害状況を把握する場合、最初に私たちが知りたいのは、道路啓開作業を行う前の道路状況です。正確な情報がなければ、啓開作業も出来ません。私たちや地元区と地元企業との日常的関係を強化し、普段から情報交流できなければ、いざという時の連携も、絵に描いた餅に帰すると思います。
そのために昨年度から、各区から参加する地元企業との意見交換会を始めました。また以前から行っている46社の災害協定締結事業者との連絡会も継続して行っています。
本音で言わせもらうと、企業も単なるボランティアで防災協力をするわけではないはずです。建設企業として自立して持続的に取り組むためには、仕事として成り立たせなければならないことを私たちも考えなくてはなりません。こうした視点も含め、優良な地元企業を育成することは必要なことです。災害対応と地元企業育成の視点は区も共通して持っており、災害発生時の対応は、区とも一緒に考えるべきことです。
――東京建設業協会に期待することは。
支部再編によって各建設事務所とコンタクトが取りやすい地区割りになったことはありがたい。魅力あるまちづくりについては、2015年の第三次事業化路線の全線着手、20年には防災都市づくりの特定街路整備として5路線約6kmを完成させ、橋梁の長寿命化・耐震化もほぼ完了する予定です。さらに護岸再補強も一部22年になりますが、20年には概成させなくてはなりません。
2020年には東京オリンピックが開催されますが、工期が長い土木事業にとって7年間は目と鼻の先です。ですから基本的には50年、100年先を見据えた魅力的なまちづくりに寄与できる公共事業を効果的に実施することを考えていきたいと思います。
第六建設事務所の姿勢は、住民に顔を向けたまちづくりを重点に進めていくことです。そのためには住民と地元区との連携も必要ですし、供用開始後だけでなく、工事中の利便や快適性の追求も考えています。東京都建設局の出先というよりは、都の公共事業の顔でありアンテナであるという意識を持ちたいと思っています。
長寿命化工事を施工中の吾妻橋 |
――これから建設業に求めるものは。
2020年特定整備路線の完了へ、これから管内の事業量も大幅に増加することが想定されます。それをどのように円滑に執行していくかは、当面の、大きな課題です。メンテナンス事業や災害対応の担い手として、地元企業の役割には期待があります。
災害対応では、地元企業から「ボランティアじゃない」、「気が進まない」とはっきり言われることもあります。地元企業は区との関係が強く、区に顔が向いているわけで、きれいごとではなく、これが実態なのです。そのことを踏まえて、本音でWin-Winになるためにどうするのか。その難しい問題に取り組まなければなりません。だから、適正利潤を確保できるような措置もその一つだと考えています。われわれは、どのように仕事をしてもらうか強くお願いしますが、一方で業界側もどしどし本音の要望をしてほしいと思っ ています。
協力会社が携帯しているパンフレット |
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シンボルロード事業(浅草通り)工事前 | |
シンボルロード事業(浅草通り)工事完成後 |