当協会は平成25年4月1日から、一般社団法人に移行したが、これを機に支部の発災時における対応体制を整備するため東京都の建設事務所の所管区域に合わせて再編した。これは、災害時の協議を円滑に行うことをねらいとしたもの。本誌では、「地域の防災・減災」と題し、各建設事務所の取り組みを紹介する。第7回は、南多摩東部建設事務所と南多摩西部建設事務所。当協会の土方康志第7支部長(土方建設㈱社長)をインタビュアーに、星野宏充南多摩東部建設事務所長、渡邉治平南多摩西部建設事務所長に取り組みを聞いた。
神奈川県と境界を接して事業・整備
――所管区域の特色、地域特性、防災の歴史についてお聞かせください。
所管区域は町田市と、山を隔てた多摩市と稲城市の3市です。以前は八王子市などを所管する南多摩建設事務所が所管していましたが、事業量の増大によって東部と西部に分割し、昭和60年(1985)に3市を所管する事務所として発足しました。
所管する区域が神奈川県に隣接しており、特に境川では、河川の氾濫などを踏まえ東京都と神奈川県とが管理協定を結んで整備・管理しているのがこの地域の特徴です。
さらに多摩、稲城、町田の3市にまたがる多摩ニュータウンも管轄しています。このように多摩ニュータウンのような大規模な開発地域と、昔ながらの街並みが混在しているのも特徴です。
防災対策については、町田市と神奈川県との都県境を流れる境川や、町田市上小山田町に源を発し、多摩丘陵を大きく蛇行しながら神奈川県へ流下する鶴見川で、1時間当たり50mmの降雨に対応した整備水準の確保を目指して護岸の整備・改修を進めています。
ただ、下流域を神奈川県が管理している境川では、下流の神奈川県での整備が遅れているという課題もあり、東京都が1時間50㎜の降雨に対応できる護岸を整備しても、結局は対応降雨が東京都より少ない神奈川県の整備水準に合わせざるを得ないのが実状です。境川は、過去に幾度となく氾濫も起きていることから、都では、町田市内に調節池を設置して一時的に洪水を貯留し河川氾濫を防ぐという方針に基づき、今後、整備を実施する予定です。
また境川は、右岸・左岸別に管理するのではなく、根岸橋を境にして都県境まで、上流部が神奈川県、下流部は東京都がそれぞれ一括管理するという管理形態を取っています。特に今年は台風も相次いでおり、町田消防署と連携してパトロールを強化して防災に努めているところです。
――防災・減災への取り組みや注目のプロジェクトについてお聞かせください。
防災・減災への取り組みとして、橋梁の耐震補強や河川の護岸改修があります。橋梁の耐震化では、稲城大橋に取り組み、今年度は稲城側の橋脚補強等を行い、平成27年度(2015)に完了する予定です。
また河川の護岸改修については、大栗川と乞こったがわ田川で護岸の老朽化が進んでおり、大栗川では平成元年度(1989)から護岸の改修・再整備を進めています。そのほか散策路設置や堤防緑化工事も進め、昨年度まで に約1.1kmの整備が完了しました。乞田川も防災工事と緑化工事で、すでに約1.9kmが完了しています。
ソフト面の対応では水防活動があります。東京都の水防計画に基づいて、市役所など水防管理団体と連携して台風時の情報連絡や支援などを行っています。管内には水防倉庫が4カ所あり、いざというときには資機材を提供する拠点となります。
ハードとソフトの土砂災害対応
また、近年多発している土砂災害への対応では、通常のハード対策に加え、ソフト対策として災害が起きそうな地域を土砂災害警戒区域、あるいは土砂災害特別警戒区域として指定することも進めています。管内では、平成22年度(2010)から調査を開始し、平成24年度(2012)に所管区域で初めて町田市内で167カ所を指定しました。今年度も12回にわたって住民説明会を開催して地元の皆様に周知を図りながら400カ所程度を指定する予定です。
――災害時の建設企業との連携のあり方についてどうお考えですか。
緊急輸送道路の啓開作業は協定を締結した建設企業に、道路障害物除去や応急復旧を依頼するものですが、これは緊急車両の通行を確保するものです。
もう一つは雪害対策があり、あらかじめ路線の範囲を決めて、協定締結企業に除雪作業を要請する仕組みになっています。
管理者の立場を超えて道路啓開を
ただ、道路啓開については課題があると思っています。そもそも、道路啓開の目的とは緊急車両の走路・経路確保に尽きます。ですから、国道、都道、市道の道路管理者がそれぞれ別個に考えるのではなく、マクロの視点に立ち一体となり、どの道路を優先して啓開するかを、もう一歩踏み込んで考える必要があります。
私どもの管内で言えば、仮に都市機能や人口が高密度に集中する都心部で大きく被災した場合、多摩地区は近県からの応援や避難のための中継地として、救援活動や救援物資輸送を支える道路をいかに確保するかが最大の任務になります。都心部が被災した場合には、その対応拠点が神奈川県内の自衛隊基地になることを考えれば、神奈川県に隣接している当管内が都心部と神奈川県とを結ぶアクセスの役割を果たすことが一番重要です。だからこそ、所管区域内の道路においても町田街道や鎌倉街道などに特化した道路啓開計画が必要です。
境川では、1時間50㎜の降雨に対応できる護岸を築造 することを目的として、河川改修事業を実施中。 |
水防活動は、関係市への気象情報、洪水予報及び水防 警報等の情報連絡とともに、浸水被害への対応のた め、排水ポンプ車の出動訓練を行っている。 |
率直に言って、被災者の命を守る目安である発災後72時間内に、全ての道路啓開をすることは不可能です。ですから近県との調整のなかで、さらに絞り込みをして動脈となる道路を最優先して短期間で啓開することが重要だと思っています。そこに戦力を集中したあとで、啓開道路を順次拡大させていくべきで、その時間軸を間違えてしまうと、戦力が分散してしまい効果的な道路啓開ができなくなります。
それに、発災は時と場所を選びません。常に行政が万全の態勢で臨めるかというと、必ずしもそうではないわけですから、協定締結企業はそれぞれの守備範囲の道路をいち早く確認して、自力で啓開できる個所については行政からの要請を待つことなく速やかに対応していただきたいと思います。
もう一点は、道路啓開については各行政単位で対応しているのが現状ですが、道路管理者間の連携も極めて重要です。啓開した道路を使って近県と到達すべき地点まで、どの道路を最優先にして、一本につなぐかを考えるべきだということです。最も効果的な道路なら国道、都道、市道に関係なく、道路管理者の立場を超えて判断すべきだと思います。ここに道路啓開についての本質的な論点が内在しているのだと思っています。ですから行政がまず考え方を明確にすることで、協定締結企業が迷うことなく対応できるようにすることが私たちの役割でもあり、一番の課題でもあります。
これは、「鳥の目」と「虫の目」をもって見ることが必要だと言うことです。「鳥の目」とは、大きな被害を受けた都心部での災害対応を、隣接県とも連携してどう行うかという広域的な視点です。「虫の目」とは、行政で言えば所管内の、地元企業なら地域内の、個人ではまず自分自身の安全確保という視点です。つまり行政には、広域的役割と地域住民の安全確保をしたうえで復旧につなげるという二段階の役割があり、これも「鳥の目」と「虫の目」の視点だと思っています。
――東京建設業協会に対してはどのような期待がありますか。
多摩地区と区部ではこれまで企業の思いが微妙に異なることもあるかと思いますが、発災時には多摩、区部に関係なく都内の地元企業が助け合うことが必要だということを強調したいと思います。東京都内で23区が困っているときに、多摩地区が助けなくてどうするのだという思いが強くあります。都内地元企業として大同団結して取り組んでいただきたいと思います。その意味で、東京建設業協会には、都内地元企業の助け合いと大同団結のためにリーダーシップを発揮していただきたいと期待しています。
道路啓開とは雪かきと同じです。目の前の道路をみんなで掃けば、道は通れるようになります。だから発災時には、とにかくみんなでやれば、まず車一台通れるぐらいの道は必ず啓けるはずです。
緊急輸送道路に指定されている鎌倉街道(旭町)。現 道2車線を4車線に拡幅。写真は、新設道路側に車線 を繰り替え、旧道のかさ上げが完了した状況。 |
都市防災機能の強化に寄与する電線共同溝の整備 (多摩市乞田地内「多摩ニュータウン通り」) |
――事務所の特色や特性についてお聞かせください。
所管区域は南多摩の西部にあたる八王子と日野の2市です。3方を山に囲まれ東に関東平野が開ける地形であり、山岳地域と市街化地域との両方を所管しているのが特色です。道路関係では、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)が今年度末に東名高速道路から関越自動車道までつながる見込みで、地域の利便性が飛躍的に高くなります。その関連で、我々が整備を進めてきた、圏央道へのアクセス道路にもなる新滝山街道が今年3月16日に全線開通しました。この開通は、地元住民の方たちから、利便性だけでなく安全面からも高い評価を受けています。今年度は、その新滝山街道で電線共同溝設置工事を進めています。
写真:握手を交わす渡邉治平 南多摩西部建設事務所長(前列左から3人目)と、土方康志 当協会第7支部長(左から2人目) |
また河川では、多摩川水系の浅川(下流部は国管理)など18河川を管理しています。
山岳道ならではの災害に対応
――防災対策でご苦労され、エピソードも多いのではないでしょうか。
管内の陣馬街道(上野原八王子線)など急峻な山岳道路では、冬季の積雪に気を使いますし、落石もあります。実際、今は復旧していますが、2年程前に高尾山線では斜面の崩壊や倒木の被害が発生しています。 山岳道路は、市街地とは違う防災対応が必要であり、そうした事業が事務所の特徴の一つになっています。
また、平成20年(2008)8月の集中豪雨では、JR高尾駅付近で時間最大83㎜を記録しました。このため、八王子市初沢町地区で大きな土砂災害が発生し、住宅が被害を受けました。その後、急傾斜地崩壊危険区域として、八王子市と日野市合わせて9地区が指定され、急傾斜地崩壊対策事業を行っています。その集中豪雨では、斜面崩壊以外でも管内18河川のうち7河川で36カ所の被害を受けました。18河川のうち、整備中の2河川に加え、今年度新たに川口川と城山川の2河川で護岸整備に着手しています。
一般都道高月楢原線(第186号)での道路災害防除工事(八王子市高月町) |
道路については、都市計画道路整備や歩道設置などに取り組んでいます。さらに橋梁では、高まる交通需要と老朽化への対策として、浅川を渡る高尾街道(八王子あきる野線)にある松枝橋の架替工事を行います。また、橋梁の耐震補強も、管内の緊急輸送道路等のうち橋長15m以上のものを対象に進めています。対象になる14橋のうちすでに3橋が完了し、残り11橋も平成27年度(2015)までの竣工を目標に進めています。
――注目されている事業を教えてください。
今注目の事業としては、松枝橋架替事業のほか、JR横浜線と北野街道(八王子市と日野市を結ぶ主要幹線道路)の平面交差を立体化する打越立体事業があります。また、川崎街道や北野街道の拡幅も数カ所で事業化を進めています。この道路は緊急輸送道路として防災効果が高く、さまざまな手法を使って早期整備に努めています。
また、土砂災害対策では、土砂災害防止法に基づく警戒区域の指定を八王子市の西側から始めて、現在までに1100カ所を指定しています。今後も年間700カ所程度を指定していく予定です。指定区域は、一定の開発行為の制限や、建築物の構造規制を行い、ソフト面からの防災対策としています。山岳地帯の土砂災害の危険性が高いことは誰もが理解しますが、宅地造成地など住宅の密度が高い所でも災害発生の危険性について周知していく必要があります。
勤務時間内の災害対応取り決め
日頃の防災への取り組みとしては、小さなことかもしれませんが、勤務時間内の具体的対応を取り決めています。建設局が定めている震災対策の手引きでは、勤務時間外の対応を主とし、勤務時間内の対応については本来組織の立ち上げが明記されているだけです。現実に勤務時間内に誰がどう対応すべきかを決めておくことは大切だと考えます。
例えば、事務所内の各課は災害が起きた場合、対策班として機能します。その時、課長が不在の場合は、誰がリーダーになるか、リーダー不在の時には、誰が代替者になるのかをあらかじめ決めて、所内に周知しています。勤務時間内の各自の対応を常日頃から注意し、備えておくことが必要だと思っています。
また、水害対策や雪害対策などの体制では長期化することも想定されます。そのため、長期化した場合の職員交代や工区事務所への応援体制を事前に決めています。要は、勤務時間内でも事前に体制を整備し、意識しなければならないということです。
主要地方道稲城日野線(第41号・川崎街道)での電線 共同溝整備工事(日野市高幡) |
湯殿川中小河川整備事業(八王子市館町地内) |
協会員の迅速な対応に期待
――災害対応で、地元建設企業や東京建設業協会にどのような期待をお持ちですか。
地元建設企業が、いざ災害となると、直ちに駆けつけてくれるのは、誠に頼もしい存在です。常日頃から連絡を取り合って、連携を密にしていきたいと思います。積雪時の雪かきは、迅速さが勝負です。また道路の雪かきをする場合の効率的・効果的な手順を熟知しているのも、地元の建設企業です。周辺を含め地域の道路や環境を知り尽くしている、地元建設企業の役割は大きいものです。
契約関係では、東京都が災害協定締結などを施工能力評価に加える試行を始めました。これも災害対応での地元建設企業への期待の表れだと思います。
――長年要望していますが、防災対応をする地元建設企業をもっといろんな形で評価してほしいというのが業界の本音です。
防災協定締結企業への評価は今のところ、東京都建設局での試行ですが、これが良い成果となれば、もっと広がると思います。
東京建設業協会の役割については、協会が地元企業の組織加入をさらに進めたうえで、協会が広域的に災害対応のハンドリングをしてほしいという気持ちがあります。
建設業の魅力伝え若者定着を
――第7支部のエリアは広いのですが、区部と違い会員企業数は少ないのが現状です。そのなかで、支部としてどう災害に対応していくかが課題だと私たちも痛 感しています。
確かに、多摩地域でも技術者だけでなく職人の数も減るなど厳しい環境にあることは理解しています。実際の現場工程で、職人の勘というか技やノウハウは、機械化が進んでもきめ細かく対応できない部分があると思います。ですから若い人や中堅社員に対して、建設業の魅力を伝えて定着を図ることは大事なことです。
そのうえで繰り返しになりますが、東京建設業協会に対しては、多摩地域でも会員企業を増やしてもらい、その組織力を生かして私たちと一緒になって災害への対応に取り組んでいただくことを期待しています。また、私たちもインフラの重要性や災害対応のPR努力は続けますが、さらに建設産業の役割や魅力アピールなど、出来ることは是非とも協力していきたいと思います。
谷地川中小河川整備事業(八王子市宮下町地内) | 中の沢砂防堰堤(八王子市裏高尾町地内) |