多田 二三男(大豊建設(株) 代表取締役執行役員副社長)
当協会と東京土木施工管理技士会が共催した、平成26年度建設業新入社員研修会(4月2、3日開催)では、基調講演として 多田二三男大豊建設㈱代表取締役副社長が「経営者が感じる現在の建設業と若手への激励」をテーマに、49社176名の新入社員を前に語った。建設投資額の推移を分析しながら、建設業界の出来事と変化を明らかにし、さらにご自身の海外工事での体験を踏まえ、「建設業は一生を賭けるに値する仕事である。自信を持って仕事に邁進し、失敗を恐れず、思い切ってやれ。失敗から学ぶことができれば、失敗は成功となる」と熱いエールを送った。
建設市場は大幅な縮小を経験
建設投資はバブル景気が終焉して2年後の、平成4年度に84兆円とピークを迎えました。しかし、それ以降、減少の一途を辿り、平成22年度にはピーク時の、ちょうど半分の42兆円まで減少しました。減少の一途と言いましたが、例外もあり、それが平成7年に発生した阪神・淡路大震災で、平成8年度に83兆円に増加しました。しかし全体の建設市場は、どんどん減少し、20年間で半分になってしまったのです。これが建設投資の大きな流れと言えます。
もう少し詳しく見てみましょう。民間の建設投資は、平成2年度の56兆円がピークでした。それ以降は、(10%増となった平成8年度を例外に)平成22年度の24兆円まで減少し、ピーク時と比べて60%近くまで落ち込んでしまいました。この、ちょうど20年間の減少が、日本経済の長期低迷を如実に表しています。民間投資における平成8年度の増加は、消費税が3%から5%に引き上げられる前の、駆け込み需要が集中したためです。直近の平成25年度は、アベノミクスの影響で28兆円へと回復しており、建設業も経営回復の兆しが見えてきました。アベノミクスのさらなる前進に期待が集まっていると言えます。
一方の政府投資は、平成2年以降、民間投資が減少することの下支えもあり、平成8年度までは増加してきました。だが、それ以降、15年間にわたり減少を続け、23年度には、ピークである8年度のちょうど半分にあたる17兆円となります。
この政府投資の15年間の減少は、20年もの長きにわたる日本経済の低迷に起因しています。企業の収益が落ち込み、それが国の税収の減少となったからです。それまで建設国債を発行して政府投資の財源を確保してきたことに対し、高齢化対策の財源を確保するためにも、将来の借金となる建設国債は抑えるべきだという意見が強まります。平成13年に発足した小泉内閣は財政再建のため、郵政や公団の民営化を推し進めますが、この頃、建設業にとっては悲しむべき世論が出てきます。公共事業は無駄使いで、談合している建設業界はそれを食い物にしているという建設業悪玉説が世論の大勢を占めることになりました。
しかも、こうした流れの中で、建設業の経営基盤を揺るがす事件が2つ起きます。一つは平成17年12月に、大手ゼネコン4社が行った談合訣別宣言です。悪玉論、談合罰則強化への対処でしたが、ちょうど工事発注量が減少する中での宣言であり、それ以降、受注競争が激化し、ダンピング受注を招き、自らの首を絞めることになりました。低下していた企業収益は、さらに悪化していきます。
もう一つの事件は、平成20年9月のリーマンショックです。いわゆるサブプライムローン問題を抱え、米国の証券会社・投資銀行リーマンブラザーズ社が倒産し、それが米国だけでなく、百年に一度と言われた世界不況へと波及していきます。東京証券取引所の平均株価は1万2000円から7000円まで急落しました。民間建設投資も平成20年度の31兆円が、21年度には25兆円へと大幅に減少し、建設市場は冷え込み、保有資産価値が低下し、銀行の貸し渋りも起き、建設業の倒産が急増します。建設業は、生き残りを賭けてリストラを断行するなど、たいへんな苦しい歴史を経験することになります。
期待の声、いまが正念場
その転機は、平成23年3月11日の東日本大震災の発生であり、平成23年度に17兆円に落ち込んでいた政府建設投資は、震災復興予算が計上され、25年度に22兆円となります。
壊滅した沿岸部の、復旧へのアクセスを確保するために国土交通省東北地方整備局は、櫛の歯のように中央の陸部から道路を切り開き、困難な復旧の初動を可能にします。これを「櫛の歯作戦」と名付け、道路啓開をしていくのです。
この作戦は成功します。櫛の歯作戦は「啓開」という馴染みのない言葉が一般的になったほど知られていますが、実は、作戦の担い手は建設業者です。その使命感と自発的な行動により櫛の歯作戦の最前線を担い、作戦を指揮した東北地方整備局始め被災地から賞賛の声が上がります。
その賞賛の声は大きな期待へと変化しています。災害に強い国土づくり、国土強靱化の推進、公共インフラの維持管理更新を担う役割への期待です。リニア中央新幹線、東京五輪など、明るい未来が待ちかまえています。だからこそ建設業界は、今が踏ん張りどころであり、間違いなく、一生を賭けるに値する仕事です。そして建設業界の明るい未来を確実なものにするためには、建設業に入社された皆さんの力が必要なのです。今、少し先を見越せる余裕のある時に、皆さんにたくましく成長してもらい、大きな戦力になっていただきたい。そのための心構えは、失敗を恐れず思い切ってやれ、ということであり、これを私からの皆さんへのエールとしたい。仕事に向かう時は、チャレンジしてほしい。そして挑戦には失敗がつきものです。この時、「失敗から学ぶことができれば、失敗は成功である」ということが大事です。
工場の総力でセグメントをつくる | セグメントの品質をチェック |
台湾・高雄市の下水道トンネルシールドマシン |
失敗から学ぶということは、私も体験してきました。それが台湾南部の高雄市での、シールド工事です=写真。今から33年前、 昭和56年に、入社5年目の私は径約4mのシールドマシンで、延長2㎞、うち800mが海底下の、下水道トンネルを掘進する仕事に従事しました。シールドの中で組み立てるセグメントをつくる工場がなく、自前でつくろうということになり、私がセグメントの設計、工場探し、現場搬入のすべてを任されました。会社にも私にもセグメント製作の経験がなく、日本の現場で見学し、それを見よう見まねで取り組むわけですが、見るとやるのでは大違い。ほとんど手探りで、最初は失敗の連続でした。コンクリートの強度が出ないし、鉄筋の被りがバラバラという有様で、失敗しては改良し、また失敗しては改善するという繰り返しでした。
工場に来てくれる現地台湾のエンジニアも泊まりがけでよく頑張ってくれ、知恵を絞り、取り組んでくれました。おかげで、シールド工事の着工に間に合い、セグメントを納入することができ、その後の工事にも経験が生かされ、下水道トンネルを無事完成することができたのです。会社にも、優秀な現地の技術者にも恵まれ、しかも30年前の海外工事だからこそできたのかも知れません。失敗を成功につなげることができた貴重な体験でした。
失敗に向き合い、自信を持って
皆さんも、これから向き合う仕事において数多くの失敗をすると思います。その時、大事なことはミスを見逃したり、無視したり、隠匿することではなく、真っ向から取り組み、解決策をルール化することです。奢るな、隠すな、我が身を正せ。これが失敗を繰り返さないための心構えです。
自信を持って仕事に邁進して、失敗を恐れず思いっ切りやれ。これを皆さんへのエールとしたいと思います。最後に皆さんはここまで来るまでに多く方々にお世話になってきました。その感謝の心も忘れないようにしていただきたい。