政府が6月24日に閣議決定した、「骨太の方針2014」と、新成長戦略である「日本再興戦略改訂」、そして規制改革会議が安倍晋三首相に答申した「規制 改革第二次答申」は、これから建設産業界にも影響を与える改正公共工事品質確保促進法(改正品確法)など、いわゆる担い手三法の運用や、防災・減災工事、インフラの維持・修繕、更新市場を担保するもので、それぞれ非常に深い関係にあります。
予算編成や経済再生について議論する経済財政諮問会議は、毎年6月に「骨太の方針」を決めます。財務省が7月に、各省庁に対して予算要求の基準を設ける 「概算要求基準」を設定、この基準に沿って各省庁は8月末に財務省に対し、予算要求を提出する。これが公共工事予算など、国の次年度予算編成の基本的な流れです。
まず、安倍首相が座長を務める経済財政諮問会議が、予算編成の基本方針を「骨太の方針」として打ち出しました。次に財務省の概算要求基準を定める前に、閣議決定として政府方針が決められました。このように先んじることで、骨太の方針は財務省の概算要求基準、各省庁の来年度予算要求の基本になるわけです。
安倍政権の経済政策「アベノミクス3本の矢」の、最後の矢にあたるのが新成長戦略です。この戦略を現実化させる産業競争力会議の「日本再興戦略改訂」も、予算要求の基本になる点では同じです。産業競争力会議の座長も安倍首相が務めており、安倍首相自らが経済成長と財政運営方針の旗振り役となって、行政を動かそうとしている構図です。
社会資本整備の位置付け
骨太方針2014には、社会資本整備について「国際競争力の強化、地域活性化、国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)、防災・減災対策、老朽化対策など諸課題について一層の重点化」との文言が盛り込まれています。また、「人口減少・高齢化、財政制約の下、民間活力の最大限の発揮などによる効率化を図りながら、公的資本のマネジメントや非常時と平常時における施設の効果的な共用を重視した社会資本整備へとその在り方を大きく転換することも求められる」ことが明記されました。
これは、PFIなど民間活力を拡大する一方で、国際競争力強化・地域活性化、国土強靱化、防災・減災対策、老朽化対策については今後、予算を重点的に配 分していく考えを打ち出したものと言えます。
実際、今回閣議決定された「日本再興戦略改訂」には、具体的事業として「首都圏空港・国際コンテナ戦略港湾の強化、圏央道の整備推進」や、地域活性化につながる「コンパクトシティ+ネットワークの形成推進」、「都市の競争力の向上と産業インフラの機能強化」など、経済財政運営方針である「骨太の方針2014」で示された政策と連動する成長戦略が挙げられています。
行政政策・予算編成の一般的流れ |
---|
●「経済財財政諮問会議」経済財政運営方針を骨太の方針として6月に策定 |
●「産業競争力会議」アベノミクス3本の矢の3本目である成長戦略を策定。 6月に前年戦略を改訂した新成長戦略である日本再興戦略改訂 |
●財務省が骨太の方針などを踏まえ、各省庁の来年度予算要求のための「概算要求基準」を7月にまとめ |
●各省庁、8月末に来年度概算要求を財務省に提出 |
●12月、予算折衝経て来年度予算要求案を決定。同時に来年度税制改正も決定 |
●2015年1月から予定されている次期通常国会に来年度予算案を提出、国会審議 |
一方、政治は国土強靱化基本法、首都直下地震と南海トラフ巨大地震に対するそれぞれの特別措置法、さらには改正品確法を議員立法として成立させました。 このうち国土強靱化基本法では、国と地方自治体それぞれに、防災・減災のハード・ソフト合わせた具体的事業を盛り込んだ計画づくりを義務づけており、政府はこの国土強靱化基本法に沿って対応を進めていると言えます。
発注行政の呼応
また改正品確法では、すべての公共発注者に「中長期的な担い手確保・育成」と「適正利潤確保」について、公共工事を施工する元請け・下請け・職人までを 対象にした取り組みを求めることを盛り込みました。改正品確法は国直轄だけでなく、市町村を含めた全公共発注者を対象にしていますから、今後はすべての公共発注者が、積算や予定価格算出、多様な入札方式導入、ダンピング防止、歩切り根絶などで、具体的な担い手確保・育成と適正利潤確保への配慮をしていかなければならないことになります。
国土交通省も、インフラ長寿命化基本計画、国土のグランドデザイン策定のほか、改正品確法を受け、建設業法と公共工事の入札及び契約の適正化の促進法 (入契法)を改正しました。インフラ長寿命化については今後、さまざまな既存インフラで維持修繕・改修が必要になるとして、引き続き積算基準や入札・契約方式の改善が行われる見込みです。また、国土のグランドデザインで地方都市維持のために新たに打ち出した考え方「コンパクトシティ+ネットワーク」が、アベノミクス3本の矢の3本目である新成長戦略でも採用されました。
国土交通省の様々な動きは、政府会議、政治の動きに呼応していると言えます。呼応した動きをすべて詰め込んだのが、国交省の産業活性化会議が示した、「中間とりまとめ」という位置づけかもしれません。建設業界で今、大きな課題となっている「担い手不足」に対する国交省や厚生労働省の助成・補助制度などを活用したさまざまな支援施策も、安倍政権が骨太の方針2014や、新成長戦略である日本再興戦略改訂で強調する、人口減少問題に対応しているものと言えます。
当然と言えば当然ですが、行政施策は政府方針に沿って行うものです。また国土強靱化基本法や改正品確法のように政治が立法化し政府・行政の施策を加速化 させることもあります。
建設産業界に対して予算や制度がどのように動くのか。今後、経済財政諮問会議や産業競争力会議や規制改革会議といった政府会議の内容が、国交省や東京都 など発注行政・産業行政の羅針盤として、参考になるでしょう。
経済財政諮問会議や産業競争力会議は政府会議体ですが、実はこうした政府会議に影響を与えているのが、各省庁が設置する審議会です。特に所管大臣に答申・建議する機能を持っている審議会での決定は、その後の省庁施策だけでなく政府方針にも大きな影響を与えます。
例えば国土交通省の場合、答申・建議機能を持っているのが社会資本整備審議会です。入札・契約制度や産業行政政策を議論する中央建設業審議会が、社会資本整備審議会と合同で行われるのは、社会資本整備審議会が答申・建議機能を持っていることが理由です。
一方、財務省で同様の機能を持っているのが財政制度等審議会です。過去の公共事業大幅削減や投資判断として採用のきっかけをつくったのも、財政制度審議会でした。
その意味で、来年の財政制度等審議会の議論の内容を見れば、来年度以降の公共事業予算に対する財務省の考えをいち早くキャッチできることになります。また通常は、審議会の下に分科会など実際の議論を集中的に行う会議体を設置しますから、分科会や部会レベルからチェックしていくことも必要かも知れません。