都市機能を進化させるインフラ整備として、東京都内で鉄道の連続立体交差化事業が動き始めている。実現に大きな期待が集まるのは、踏切による渋滞を解消するだけでなく、鉄道によって分断されていた市街地の一体的なまちづくりが、鉄道の立体交差化で可能になるからだ。東京都は2016年度予算原案で盛り込まれたのは、「鉄道の連続立体交差化推進事業」のうち、都施行事業個所(6路線8カ所)として、①京王京王線(笹塚駅~仙川駅間)②小田急小田原線(下北沢駅付近)、③京成押上線(四ツ木駅~青砥駅間)などのほか、区施行事業個所(1路線2カ所)として東武伊勢崎線(竹ノ塚駅付近)など明記し339億円を計上した。京王線、京成線いずれの鉄道連続立体交差事業も、2022年度の事業完了を目指しており、東京オリンピック・パラリンピック後も東京都内の街は変わり続けることになりそうだ。
2014年度に完了した駅周辺連続立体交差事業に伴い12年に地下化された京王線・調布駅。1日平均11万5000人を超え新宿駅に次ぐ乗降客数を誇る同駅地上部などで、京王電鉄(株)の調布駅周辺開発が始まった。シネマコンプレックスなど複合商業施設建設は3棟総延べ約3万7300㎡。2017年の完成へ向け工事が進む。駅南口東地区と駅北第1A地区・B地区では市街地再開発が相次いで完成。さらに、「調布駅南口中央地区街づくり協議会」や駅北西の「調布銀座街づくり協議会」が再開発に向けた勉強会をスタートさせるなど、連立事業は駅周辺開発の大きな"起爆剤"になっている。
京王線と井の頭線が交差する明大前駅は、利用者は多いがほとんどが乗換え利用にとどまる。南北分断の解消、駅前広場の整備による発展の可能性が期待される |
2月、東京都と京王電鉄が計画する京王線(笹塚駅~仙川駅間)連続立体交差事業の施工者が決まった。笹塚駅から仙川駅まで8工区に分割。第1工区から順番に、(株)大林組、大成建設(株)、清水建設(株)、鹿島建設(株)、(株)鴻池組、東急建設(株)、(株)安藤・間、戸田建設(株)をそれぞれ代表とする2、3社JVが施工する。用地取得が完了した側道部分の準備工事から順次着手し、約7.2㎞の高架化工事は2016年度以降に本格着工し、2022年度の完成をめざす。事業費は、鉄道付属街路整備も含め、1701億円と大規模工事となる。
同事業は2012年10月に都市計画変更決定し、2014年2月に都市計画事業認可を取得していた。今回、鉄道を高架化することによって、井ノ頭通りなど25カ所の踏切をなくし交通渋滞を解消する。交通渋滞解消のほか事業効果として期待されるのが、鉄道で隔てられている南北地域がつながることによる効果だ。安全性や防災性向上だけでなく、地域一体化によって新たなまちづくりにつながる可能性がある。すでに今回の連続立体交差事業沿線自治体も、世田谷区で明大前、千歳烏山駅で駅前広場を中心とした駅周辺まちづくりを計画。他の駅含め、鉄道高架化が新たなまちづくりをけん引する役割を担うことになりそうだ。
一方、東京都と京成電鉄が計画している、京成電鉄押上線(四ツ木駅~青砥駅間)連続立体交差事業も4工区に分け、約2.2㎞の高架化事業が2016年度に着工する。東京都を事業主体に、四ツ木駅から順番に第1工区を戸田建設(株)、第2工区を鹿島建設(株)、第3工区が大成建設(株)、第4工区を京成建設(株)が代表となる2、3社構成JVで施工する。用地取得など準備が整った個所から順次着工し、2022年度の事業完了を予定している。
同事業は、2001年に都市計画決定し、2003年に事業認可を取得していた。鉄道の高架化で、平和橋通り(補助140号線)など沿道にある11カ所の踏切がなくなり、交通渋滞が解消される。また京王線同様、鉄道で分断されていた市街地を一体化し、側道や駅前広場整備といった新たなまちづくりも進むことになりそうだ。
一足早い小田急線連立事業受け、世田谷区は路線跡地計画で指針
すでに連続立体交差事業と、複々線化事業による鉄道地下化工事が進む小田急線(代々木上原駅~梅ヶ丘駅間)。世田谷区は、高架化と鉄道地下化によって生まれる路線跡地に計画している駅前広場や上部利用施設などの全体デザインに関する指針となるデザインガイドを「北沢デザインガイド」として策定した。
世田谷代田、下北沢、東北沢の3駅に連続した空間を形成し、連携したまちづくりと調和の取れた都市空間創出をめざすもの。駅前広場は、世田谷代田駅を2018年度、東北沢駅は2019年度、下北沢駅も2021年度までにそれぞれ整備する予定で京王線、京成線よりも一足先に新たな都市空間が誕生することになりそうだ。