「社会人・会社人・建設人として」
皆さんは、社会人であると同時に会社人であり、建設業を生業とする建設人としてもスタートを切りました。皆さんの心にとどめておいてほしいことをお話しします。
まずは、思い・志を貫くことです。皆さんは建設業を志して入社しました。そこで何をしよう、何になろう、何をしたいと考えていますか。志を貫くことが、成功につながります。ここにイチロー選手の小学校の卒業文集を紹介します。彼は、小学校の6年生で「必ずプロの選手になる」と書き、それも「年俸1億円以上」と具体的な目標も置きました。全国大会では自分がナンバー・ワンだったというすごい自信もあり、夢の実現に対して冷静に考えています。
思い、志を貫くためにはどうするか。まず一つ目は、信条・目標を持ちましょう。志はできるだけ具体的な目標にして、そして地道に取り組んでください。「マイブーム」だけでは長続きしません。「資格を取る」でも「社長になる」でも良いのです。
二つ目は、あなたの会社の社是、社訓を確認しましょう。会社には必ず、理念、方針があります。その会社の経営方針を見て、共鳴して入った人もおられると思いますが、スタートにあたりいま一度、社是、社訓、経営理念を確認して下さい。
三つ目は、企業は組織だということです。一人ひとりは頑張っていても、連携が取れていなければ、「1足す1」はせいぜい2にしかなりませんが、連携があれば、「1足す1」が3にでも4にでもなるのです。建設業は多くの人が皆で力を出し合ってつくる仕事ですので、連携が不可欠です。
社是・社訓の話に戻ります。社是とは、経営上の方針・主張です。社訓は社員として守るべき理念や心構え、戒め。経営理念は企業行動における基本的な信念や行動基準です。少しずつ違いはありますが、どれも会社の考え方を示しており、何のために経営するのか、どのような社員を求めているのかといった企業・社員の道しるべです。
ではなぜ社訓が必要なのか。理由の一つは、基本的な指針を示しておくことで、経営がブレないための戒めです。社会に対する宣言の意味もあります。二つ目の理由は、精神面の支柱にするということです。モチベーションを高め、安心感を生みます。三つ目は、共通の価値観の醸成です。社員全員のベクトルが合っていないと、成果は上がりません。その価値観を示しており、社員を評価する物差しでもあります。
ここでいくつかの有名な会社の社是・社訓・経営理念を紹介します。大手電器メーカー・ソニーの設立目的は「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」です。技術屋の遊び心を表現しようというのが目的だったのでしょう。このためソニーは、ウォークマンの開発やエンターテインメントへ進出していますが、白物家電は出していないのは、生活をキーワードにしていないからです。人を楽しませる製品を作ることこそが目的だったからです。
永谷園の企業理念は「味ひとすじ」です。食べ物一筋のイメージがこの一言で伝わってきます。「自由でみずみずしい発想を原動力にすばらしい夢と感動、人としての喜び、そしてやすらぎを提供する」。これを企業の使命としているのは、オリエンタルランドです。
次は、ハウス食品の企業理念です。「食を通じて、家庭の幸せに役立つ」。あくまでも、家庭の幸せに役立つ食品。だから、商品のコマーシャルも家庭の食卓が舞台です。イオンの家訓は、「上げに儲けるな、下げに儲けよ」です。買い手が恨むような儲け方をしてはならないと言うことでしょう。
次は、ある建設会社の社訓です。「わが社は建設工事を通じ、国民経済の発展に寄与する誇りをもつと共に、常に企業者に対する感謝奉仕の念を忘れず、全社協力一致、優秀且つ低廉なる工事の速やかなる安全施工を期す」。建設業でも色々な事業を起こしているところもありますが、この会社は建設工事しかしないとうたっています。工事で求められることはすべて盛り込んだ欲張りな感じがしますが、業務に当たる姿勢が分かります。
さて、ものづくりの最前線は現場です。施工の管理で大事な事を、私の経験から4点ほど話します。
まず「顧客の立場に立つ」こと。携わる工事の目的、条件、施主、発注者のこだわりを十分確認してください。二つ目は、「現場で考える」ことです。トラブルの原因分析や技術的検討は、必ず「現場」で考え対応してください。事務所の机上や電話だけでは、本当の解決策は打てません。三つ目は、「自分の役割を認識」することです。それには一つ上の上司の目線や立場で考えることが必要です。上司は自分より経験も深く、周囲の状況を考えて指示を出すはずです。上司に反発する人、不平の多い人に成長はありません。素直に聞く耳を持つことが、その人自身を成長させます。四つ目は、「組織で動く」ことです。現場は日々刻々と変わります。情報を密にして組織として動くことが建設業には不可欠であることを肝に銘じてください。以上の4点をしっかり心にとどめてこれから進んで頂きたいと思います。
次に「不言不実行」のすすめです。組織として動くことの重要性を説く例え話としてお話しします。一般的には、有言実行が最も良いとされています。約束したことは必ず実行するということです。次に良いとされるのは、不言実行です。やるべきことを黙々とすること。日本ではこれが最も好まれます。三番目は、有言不実行です。これは約束したのに何もしないこと。四番目は不言不実行です。思いもなく実行もしません。一般的には、一番ダメなタイプとされます。
しかし、建設業では、異なります。
最も良いことは有言実行であり、これは他産業と変わりません。ただ、最も悪いとされることは不言実行です。力を合わせてやるのが建設業です。黙って何かをすると事故につながり、工程に支障が出ます。トラブルのもとです。次に悪いのは、有言不実行です。指示されたのに、何もしないのも大問題です。二番目に良いことが、不言不実行です。できないなら最初からやると言わないことです。やっているハズが、やってイナイと、工程にも支障が出るほか多方面を裏切り、信頼関係をなくしてしまいます。みんなで決めたことは、ヤルということです。ミスやロスの原因はすべてがこれです。できないときは上司に相談しましょう。
そして皆さん、必要な資格を取りましょう。仕事で忙しくなりますが頑張って取ってください。土木、建築、事務など職種が違うので、目標となる資格を確認してください。業務を進める上で必要な資格もあるし、より高度な仕事を任されるために取るべき資格もあります。業務の幅も広がるし、お客様や社内からの信頼を得てスムーズに仕事ができます。何より自信につながります。仕事以外にも誘惑は多いでしょうが、思い、志を貫くためはチャレンジしてください。
次に「脱皮しない蛇は死ぬ」という言葉を紹介します。蛇は脱皮しないと大きくなれないし、繰り返すことで成長します。人も成長することが大事です。社会人になり環境が変化しますが、まずは環境に順応してください。ワガママは個性ではなく、真の成長にはマイナスとなります。重要なことは、イノベーションを続け、たゆまぬ努力をすることです。真剣に何かになりたい・やりたいと思っている人は、どうすればできるかを常に考え、動こうとします。しかし思いの薄い人は実行の難しさから考え、結局、途中で投げ出します。つまり"不足"の多い人は原因を誤解し、自分以外の周りの原因にすることが多いのです。ひとは「足るを知る」ことも大事です。
最後に、3Kの誇りについて話します。世間では建設業は「きつい・きたない・きけん」の3Kと言われていますが、ここにいる皆さんは、希望を持って建設業に入って来られたんだと思います。大変うれしく、頼もしく思います。私は今からここに示す3Kが、建設業の3Kだと思っています。一つ目は、建設工事には『協力』して作り上げる喜びがあります。二つ目は、できあがった作品がわれわれに『感動』を与えます。三つ目は、できあがったものは社会への『貢献』そのものです。わたしはこれを誇りの3Kと読んでいます。「きつい・きたない・きけん」は、外部の人から見た偏見ではないでしょうか。一日も早く誇りの3Kを実感してくれることを期待しています。
今日、皆さんに色々お話をしましたが、私自身も、いままで話したことを社会人として最初からできたわけではありません。幾度も失敗しました。皆さんのスタートに当たり、少しでも失敗を少なくして前向きに、積極的に、社会人・会社人・建設人としてスタートすることを祈っています。