「働き方改革関連法」が今国会で成立した。中でも多くの企業の注目を集めているのが、長時間労働を是正するため打ち出した「罰則付きの時間外労働(残業)の上限規制」だ。これまでも上限規制はあったが罰則がなかった。また建設企業は時間外労働の上限規制が適用されない適用除外対象だったが、5年の猶予期間を経て2024年4月から罰則付き残業の上限規制の対象となる。大手から中小企業まで、規模と部署には関係なく建設企業すべてが2024年4月から対象となる。適用除外がない一般的産業で罰則付きの残業時間上限規制が適用されるのは、大企業では2019年4月1日から。中小企業は1年遅れの2020年4月からとなる。建設産業界でも、測量や地質調査、建設コンサルタントや設計事務所などは、技術サービス業に分類されるため、一般的産業と同様の扱いになることに注意が必要だ。コンサルや設計事務所の場合、資本金5000万円超か従業員100人超は大企業扱いで2019年4月から、それ以下の規模は2020年4月からとなる。また中小企業にとって大きな影響を与えそうなのが、「月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)」の、中小企業への猶予措置の廃止だ。施行は2023年4月。割増賃金率を低く抑えることができた中小企業も、今後、時間外労働時間削減を進めなければ、確実に人件費・管理費支出の増加につながる。
一方、建設現場で時間外労働増加の大きな要因とされてきた課題については、「働き方改革関連法」成立に合わせるように、解決へ向けさらに大きな一歩を踏み出した。政府が7月2日に開いた「建設業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」で「適正な工期設定等のためのガイドライン」改訂を決定したからだ。
改訂されたガイドラインでは、時間外労働の上限規制適用に向け、これまで大手から地方中小建設業までの建設業界から指摘されてきた民間発注者との関係、また公共発注者の場合は都道府県だけでなく市区町村の対応について、細かく明記したのが最大の特徴。今後は時間外労働の上限規制への対応だけでなく、生産性向上と担い手確保・育成を進めるうえでも、発注者とともに、改訂された「適正な工期設定等のためのガイドライン」の浸透を進めることが必要になりそうだ。
労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的に推進するため、長時間労働の是正、 多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講ずる。 | |||||
Ⅰ | 働き方改革の総合的かつ継続的な推進 | ||||
働き方改革に係る基本的考え方を明らかにするとともに、国は、改革を総合的かつ継続的に推進するための「基本方針」(閣議決定)を定めることとする。(雇用対策法) ※(衆議院において修正)中小企業の取組を推進するため、地方の関係者により構成される協議会の設置等の連携体制を整備する努力義務規定を創設。 |
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Ⅱ | 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等 | ||||
1 | 労働時間に関する制度の見直し(労働基準法、労働安全衛生法) | ||||
・ | 時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。 | ||||
※ | 自動車運転業務、建設事業、医師等について、猶予期間を設けた上で規制を適用等の例外あり。研究開発業務について、医師の面接指導を設けた上で、適用除外。 | ||||
・ | 月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する。また、使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする。 | ||||
・ | 高度プロフェッショナル制度の創設等を行う。(高度プロフェッショナル制度における健康確保措置を強化) | ||||
※ | (衆議院において修正)高度プロフェッショナル制度の適用に係る同意の撤回について規定を創設。 | ||||
・ | 労働者の健康確保措置の実効性を確保する観点から、労働時間の状況を省令で定める方法により把握しなければならないこととする。(労働安全衛生法) | ||||
2 | 勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法) | ||||
・ | 事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこととする。 | ||||
※ | (衆議院において修正)事業主の責務として、短納期発注や発注の内容の頻繁な変更を行わないよう配慮する努力義務規定を創設。 | ||||
3 | 産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等) | ||||
・ | 事業者から、産業医に対しその業務を適切に行うために必要な情報を提供することとするなど、産業医・産業保健機能の強化を図る。 | ||||
Ⅲ | 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保 | ||||
1 | 不合理な待遇差を解消するための規定の整備(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法) | ||||
短時間・有期雇用労働者に関する同一企業内における正規雇用労働者との不合理な待遇の禁止に関し、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化。併せて有期雇用労働者の均等待遇規定を整備。派遣労働者について、①派遣先の労働者との均等・均衡待遇、②一定の要件※を満たす労使協定による待遇のいずれかを確保することを義務化。また、これらの事項に関するガイドラインの根拠規定を整備。 ※同種業務の一般の労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金であること等 |
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2 | 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法) | ||||
短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化。 | |||||
3 | 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備 | ||||
1の義務や2の説明義務について、行政による履行確保措置及び行政ADRを整備。 | |||||
施行期日 Ⅰ:公布日 | |||||
Ⅱ: | 平成31年4月1日(中小企業における時間外労働の上限規制に係る改正規定の適用は平成32年4月1日、1の中小企業における割増賃金率の見直しは平成35年4月1日) | ||||
Ⅲ: | 平成32年4月1日(中小企業におけるパートタイム労働法・労働契約法の改正規定の適用は平成33年4月1日) | ||||
※ | (衆議院において修正)改正後の各法の検討を行う際の観点として、労働者と使用者の協議の促進等を通じて、労働者の職業生活の充実を図ることを明記。 | ||||