「変革期にある建設業は、みなさんにとってのチャンス」
この春めでたく社会人になられたみなさんおめでとうございます。例年であれば、直接お会いしてお話をするところですが、コロナウイルスの感染を防止するため、オンラインでの講演といたします。
最初に自己紹介させていただきます。昭和55年に鹿島建設(株)に建築系社員として入社しました。東京建設業協会の副会長は3年前から務めています。
フジテレビ本社ビル |
入社以来、建築現場に二十数年従事し、約10の建築物を造りました。最も印象深かったのは丹下健三さんが設計されたフジテレビ本社ビルです。そこではビル上部に設置する球体のリフトアップを担当しました。
これまでの現場経験を通して思うことは、「ものづくりは楽しい。やりがいがある」ということです。私はたまたま大型の工事を多く担当させていただきましたが、重要なのはその大小ではありません。設計者が図面にしたクライアントの想いを、施工する我々がいかに形にするかということです。
技術や事務という範囲を超えて、組織に所属する人たちが知恵を出し合って、ものを造っていくことが我々の仕事です。建物が完成し引き渡す際、クライアントに感謝の言葉を掛けられたときに感じる達成感は、建設業に関わった者しか味わえない喜びです。
みなさんに対して会社の方々は、即戦力ではなく、未来の戦力として期待を寄せています。明るく、元気にこれからの建設業を創っていくために日々の業務に挑戦していってください。
私も四十年前はみなさんと同じ新入社員でした。会社に入って最初に思ったことは、「学校で習ったことがほとんど通用しない」でした。学校で習った学問が役立ってくるのは実務での知識・技術が高まってからです。それまでは「習うより慣れろ」です。一から勉強し直す気持ちで、焦らずに少しずつ力を付けていってください。
建設業の特長として、一つ目は「受注生産」であること。クライアントからの注文を受けて、造り始めます。お客様はまだ見ていない商品を購入することになります。設計図書や見積書に詳細を記載しますが、それらで全てが説明できるわけではありません。最終的には造り手を信頼して契約していただきます。我々はその信頼に応えることが最も大切です。
二つ目は「現地生産」であることです。雨や風、猛暑や極寒の中、お客様と約束した期日までに建築物を造り上げなければなりません。周辺環境にも配慮することが必要です。
三つ目は「一品生産」であることです。基本的には二つとして同じ建物はありません。
この三つがものづくりの難しさですが、造り手の腕の見せ所でもあります。
建設業は大きく変わろうとしています。その理由の一つが労働力、担い手の不足です。若手の建設業離れとそれに伴う高齢化が原因です。それを解消するため、建設キャリアアップシステム、働き方改革による処遇改善に取り組んでいます。また、魅力ある建設業の実現には生産性の向上が不可欠です。コロナ禍を受けて、自動化、省人化を始めとする新技術の導入は大きく進んでいくとみています。長い目でみれば働き方改革、生産性向上にもつながります。
みなさんは建設業の変革期に入社しました。この変革はみなさんにとって大きなチャンスです。若くて柔軟な発想を日々の業務に生かしてください。失敗を恐れずに挑戦してください。改善への努力は将来の実力となります。
さらに、コンプライアンスが重要です。日本語に訳すと「法令遵守」ですが、企業やそこで働く社員一人一人が法律や社会規範を守って行動することを指します。法令や社会規範を犯すはずがないと思っていても、コンプライアンスを守れずに社会問題となっているケースがたびたび見られます。
工期に間に合わせる、利益を確保するなど、我々が仕事を続けていく上で重要な事項がいくつかあります。その中でも「不正の発覚」は、お客様や社会からの建設業に対する信頼を一夜にして失います。その信頼を永続的につなげていけるように頑張っていきましょう。
加えて、いまから心掛けてほしいことが健康です。「健康第一」という言葉がありますが、健康が第一ではありません。仕事をする上でも、生活をする上でも「健康が全て」です。そのことを絶対に忘れないでください。
建設業でも心の病を発症される方が増えています。私は専門家ではありませんが、ストレスを感じた時にどうするか。一つは「相談できる相手を見つけて、相談する」ことです。うれしい話を話せば喜びは倍になり、悲しい話を話せば苦しみは半分になります。もう一つは「オンとオフを明確にする」ことです。仕事の時は一生懸命働いてください。逆に仕事を離れた時、仕事のことはできる限り忘れて、自分の時間を過ごしてください。心と体の健康が最も重要です。
みなさんに期待することは「可能性」です。将来の建設業を支えるため、またみなさん自身の将来のためにも失敗を恐れず、労力を厭わず、新しいことに挑戦してもらいたいと思います。
建設業は社会の安心・安全の一助となれる産業です。先ほどから申し上げているように難しい条件をいくつも克服する必要がありますが、皆で力を合わせてそれを乗り越え、良いものが出来た暁にはクライアントの心からの感謝を受け取ることができます。そして何より素晴らしいのは、苦労して造ったものが長く残り、そこで働いたすべての人が「これは自分達が造ったんだ!」と誇れることだと思います。ぜひものを造ることに楽しみや誇りをもって、日々の業務に取り組んでください。建設業のますますの発展と、これからその発展を担っていくみなさんが、将来輝かしいものを造っていけるよう祈っております。