今年度、国土交通省が中小・零細建設企業向けのICT施工導入支援へ、新たな技術基準策定など本腰を入れ始めたのは、2024年4月からの時間外労働時間の上限規制適用といった働き方改革への取り組みに必要不可欠な生産性向上と担い手確保・育成にデジタル化を含めたICT導入は避けて通れないからだ。さらに昨年末に政府がまとめた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」、言い換えると日本の脱炭素化への取り組みが、中小・零細建設企業のICT化を否応なく決定づけた。
製造業や電力、大企業などに関心が高いとみられるカーボンニュートラル(脱炭素)だが、昨年末に打ち出され、今年6月に更新されたグリーン成長戦略のうち「物流・人流・土木インフラ産業」のなかで示された「建設施工におけるカーボンニュートラルの実現」の主役は、中小建設企業だ。
建設施工におけるCO2排出量は、産業部門排出量の1.4%の約571万t。そのうえで、「ICT活用により建設現場の生産性が向上すれば、作業時間の短縮によりCO2排出量の削減に寄与でき、将来的には電気、水素、バイオマス等の革新的建設機械の開発・導入が図られれば、一層のCO2排出量削減が期待できる」とした。
さらに、「現状、直轄の建設現場におけるICT施工(土工)の実施率は約8割に達しているが、地方自治体における実施率は約3割にとどまっており、今後、地方自治体の工事におけるICT施工の更なる普及が必要となる」とした。
そのうえで今後の取り組みとして、「まず、地方自治体の工事を施工している中小建設業へICT施工の普及を行い、2030年において3万2000t-CO2/ 年の削減を目指す」と明記した。
脱炭素へ向け各産業ごとに取り組みや具体的削減量が明記されたグリーン成長戦略が策定されたことで、建設施工における脱炭素への取り組みの主役は、実際に建設機械を保有・稼働させている建設企業となった。さらに今後の取り組みとして、工事件数や施工企業数の多さとICT施工が進んでいない「中小建設業」を名指しし、ICT施工普及で2030年に年間CO2排出量3万2000t削減を工程表に盛り込んだ。
ただ建設施工の脱炭素で主役となった中小建設業は戸惑いを隠せない。現場を含め業務の効率化や生産性向上の必要性は理解していても、目前の時間外労働時間上限規制への対応など働き方改革と担い手確保が悩みの種として消えていないのが理由だ。
物流・人流・土木インフラ産業の成長戦略「工程表」 |
出典:2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 令和2年12月25日 経済産業省 |