一般社団法人 東京建設業協会副会長 寺田 光宏 (東急建設株式会社 代表取締役社長) 当協会と東京土木施工管理技士会が共催した、令和6年度建設業新入社員研修会(4月2日、3日開催)で基調講演した、当協会の寺田光宏副会長は、仕事そのものが社会貢献に直結する建設業の役割や魅力、働き方改革への対応をはじめ大きな転換期にある業界の現在地と将来展望などを、新たな一歩を踏み出した244名の受講者に語りかけた。 |
社会人として新たな一歩を踏み出した皆さんを建設業界は心から歓迎します。建設業には多様で挑戦的な仕事が待っています。大きなやりがいや皆さん自身が成長する機会がたくさんあります。是非、期待してください。
私は静岡県磐田市で生まれました。磐田市出身の有名人には長澤まさみさんなどがいます。また、土木技術者の青山士あきらも同郷です。
青山は、日本人としてただ一人、パナマ運河の建設に従事した技師で、帰国後に内務省(現国土交通省)に入り、荒川放水路建設の指揮を執りました。青山が人生のモットーとしたのは「I wish to leave this world better than I was born.(私はこの世を、自分が生まれて来た時よりもよくして残したい)」という英国の天文学者、ジョン・ハーシェルの言葉です。
荒川放水路工事に続き、信濃川大河津分水工事を完成させ、現地の石碑には「万象に天意をさとる者は幸なり」、「人類のため 国のため」という言葉が刻まれています。私利私欲なく生涯をかけてこの言葉を実践した青山の志を、頭の片隅に残していただければ幸いです。
私は1979年に東急建設に入社し、東急池上線戸越銀座~旗の台駅間連続立体交差工事や東急田園都市線二子玉川駅改良工事など、主に鉄道工事に従事してきました。
建設業は社会インフラの構築や都市の発展に直接関わる非常に重要な分野です。人々の生活を支え、安全で快適な環境を提供し、仕事そのものが社会貢献であり、誇りを持てることが一番の魅力です。
一方、労務不足、生産性向上、働き方改革などの課題も山積しています。4月1日からは時間外労働の上限規制がスタートしました。各社がさまざまな対策を試行錯誤していますが、これが絶対という対策は難しく、4週8閉所がどこまで浸透できるかにかかっています。
また、環境や人権、DX、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)などへの対応も一層求められています。さまざまな環境変化を脅威としてではなく、成長の機会、チャンスと捉えていただきたい。
具体的な課題を3つお話します。まず1つ目は、人材不足と高齢化です。建設業界では高度な技術や専門知識を持った人材の不足が深刻化しており、プロジェクトの遅延や品質低下を引き起こす可能性が危惧されています。
2つ目は、技術革新とデジタル化への対応です。技術革新の進展により、建設業界でも新たなトレンドや手法が生まれており、古い慣習やシステムに固執せず、新たなツールの積極的導入などが求められています。
3つ目は持続可能性と環境への配慮です。環境保護やSDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まる中、建設業にも省エネルギーや再生可能エネルギーの活用や廃棄物のリサイクルなどの対応が求められています。これらの取り組みを積極的に推進することで、建設業も持続可能な未来の構築に貢献しなければなりません。
BIM / CIM、IoTなどがすでに広く普及しており、今後も設計から保守まで一連のプロセスが効率化され、生産性、品質の向上やコスト削減も進んでいきます。多様な人材と働き方の受容もさらに進展していきます。また、今後もよりグローバルな産業として発展し、国際協力がますます重要になります。皆さんには、こうした取り組みの中心となって活躍してほしいと思っています。
建設業では、安全な職場環境が第一です。まずは自らの安全と仲間の安全を片時も忘れず事故防止に努めていただきたい。また、常に誠実な行動を心掛け、失敗を恐れず何事にも挑戦してほしい。成功することはそう簡単ではありませんが、多くの挫折や失敗が人を成長させます。自らのアイデアや行動が建設業の未来を変えるはずです。
青山士(あおやま・あきら) 日本を代表する土木技術者の一人。1878年9月23日に静岡県豊田郡中泉村(現磐田市)に生まれ、1903年に東京帝国大学(現東京大学)工学部土木工学科を卒業して単身渡米し、パナマ運河開削工事に唯一の日本人土木技師として参加した。
1912年に内務省に内務技官として入省。同省土木局東京土木出張所(現国土交通省関東地方整備局)で荒川放水路の建設工事を指揮した。同放水路完成後には、同省土木局新潟土木出張所長(現国土交通省北陸地方整備局長)として、自在堰の陥没で機能が停止していた信濃川大河津分水路の改修工事に従事した。
1934年に内務技監に就任。土木学会の第23代会長も務めた。