当協会と東京土木施工管理技士会が主催した、令和7年度建設業新入社員研修会(4月2日、3日開催)で基調講演した、当協会の乘京正弘会長は、「建設の基本」となる人間力とコミュニケーション能力を身に着け、イノベーションマインドを持ち続けながら「失敗や変化を恐れず、果敢に挑戦してほしい」と、新たな一歩を踏み出した246名の受講者に呼び掛けた。
新社会人の皆さん、入社おめでとうございます。振り返ると私は45年前の新入社員です。土木の現場育ちで、合計20年近くダムの現場にいました。現場経験は偏っていますが、4つのダム現場で何を学んできたのかを紹介したいと思います。
私が建設業を目指すきっかけは昭和39(1964)年の東京五輪にさかのぼります。当時は小学校低学年でしたが、新幹線や高速道路が整備され、社会が大きく変わる状況に衝撃を受けました。「日本を変える仕事に就くのもいい」という父の後押しもあり、この道に足を踏み入れました。
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入社後、最初に配属されたのが、当時建設中のダムでは国内最大級の規模を誇る山形県の寒河江ダムでした。当時、私は大阪弁丸出しで、東北出身の作業員の方々からは「監督さんの言うことは半分しかわからない」と言われショックを受けましたが、懸命に努力した結果、円滑にコミュニケーションを取ることができました。昼夜分かたず一緒に働いた作業員の方々から丁寧に指導を受け、日々の仕事で得た経験が自らの血となり肉となりました。工事を円滑に進めるために重要な作業員の方々とのコミュニケーションを学びました。
次に配属された長谷ダム(兵庫県)の現場では、発注者の関西電力と工期短縮に向けてのアイデアを出し合い、予定より早く完成させることができました。受発注者双方の活発なコミュニケーションが実を結びました。3つ目の日吉ダム(京都府)は、水没するエリアでの「湖底コンサート」が印象に残っています。地元と連携したイベントは当時、画期的な取り組みでした。地域とのコミュニケーションについて多くを学ぶことができました。
業界ではダムを3つ手掛けたら定年と言われていましたが、幸いなことに4つ目の摺上川ダム(福島県)の現場に所長として配属されました。地元の名士の方々と自由に議論し合い、地域への貢献を実感することができたのは貴重な経験です。
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4つの現場を通じて学んだことは、発注者や地元住民、実際に作業する皆さんとのコミュニケーションの重要性です。関係者が心を一つにして初めてダムは完成します。「一肌脱ぐ」という気概で関係者の利害を調整し、プロジェクトをマネジメントすることが重要です。
私はここ数年、当社グループの入社式で「コミュニケーションを大切にしよう」「人間力を身に着けよう」「イノベーションマインドを持ち続けよう」の3点をお願いしてきました。
先輩や同僚とのコミュニケーションによって多くのヒントを得ることができ、逆に発信することもできます。より多くのコミュニケーションが自らを成長させます。
人間力とは、目標に向かって自分自身を常に高め、相手を思いやることができる能力です。自分一人でできることは知れています。工事はさまざまな関係者と複雑に絡み合って完成します。関係者の働きを理解、尊敬し感謝する「建設の基本」となる人間力を磨き、仕事に生かしてください。
時代の流れがますます早まり、いままでの当たり前が当たり前でなくなっています。建設業でもDXがますます進展する中、今後、デジタルネイティブの皆さんが中心的役割を果たすことが期待されています。失敗や変化を恐れず、「われわれが変える」という意気込みで果敢に挑戦してください。
建設業は災害発生後、直ちに被災地に駆け付けて緊急対応する地域の守り手です。また、再生可能エネルギーの普及促進や住み続けられるまちづくりなどに貢献するSDGs(持続可能な開発目標)の担い手でもあります。
さまざまな壁にぶつかるかもしれませんが、コミュニケーション能力を高め、人間力を身に着ければ何も恐れることはありません。誇りをもって仕事に取り組み、魅力あふれる建設業の未来を切り開いてください。