当協会は平成25年4月1日から、一般社団法人に移行したが、これを機に支部の発災時における対応体制を整備するため東京都の建設事務所の所管区域に合わせて再編した。これは、災害時の協議を円滑に行うことをねらいとしたもの。本誌では、「地域の防災・減災」と題し、各建設事務所の取り組みを紹介する。第8回は、北多摩南部建設事務所と北多摩北部建設事務所。当協会の土方康志第7支部長(土方建設㈱社長)をインタビュアーに、安部文洋北多摩南部建設事務所長、谷本俊哉北多摩北部建設事務所長に取り組みを聞いた。
――所管区域の特色、特性、防災の歴史・エピソードについてお聞かせください。
所管区域は、多摩地域東部の7市(武蔵野、三鷹、府中、調布、小金井、狛江、西東京)であり、夜間人口は約120万人と、多摩地域の約3分の1を抱えています。区部と多摩地域を橋渡しするエリアであり、多摩地域発展のために重要な役割を担っていると言えます。
主要駅周辺の賑やかな地区もある一方で、緑にあふれた空間もあるなど、区部と多摩の両地域の特性を持った地域です。
防災の歴史としては、最近では平成17年(2005)9月に、調布市内の甲州街道から、狛江市で野川に合流する入間川の中上流部があふれ、浸水した例があります。
発災時に備え独自の取り組み進む
――では防災・減災の取り組みについて具体的にお聞かせください。
緊急輸送道路などを対象にした橋梁の耐震化は、都道全体の401橋のうち管内では15橋が対象となっています。このうちすでに終了したのは12橋で整備率は8割です。残りについても耐震化を進めています。防災関連では、緊急輸送道路沿いの老朽化等により倒木の恐れのある大径木(幹周り90cm以上)の再生に着手しました。樹木診断をして街路樹の回復や更新を行うもので、今年度は新青梅街道で実施し、来年度は青梅街道と井の頭通り等での実施を予定しています。管内では11路線、約3000本が対象となっています。
また、道路啓開効率化の事務所独自の取り組みとして、道路防災データベース化があります。一つの画面上で、緊急輸送道路をベースに協力業者や協力業者保有機材、実施中の工事やその使用機材、さらには防災拠点や防災マップが検索・表示できるものです。発災時に、紙ベースよりも迅速に、対応の優先順位付けや、重機が足りない場合に融通する指示を出すことができるのが大きな特徴です。
事務所発注工事で作業中の重機を発災時に使わせてもらう取り組みも行っています。契約後に各企業の了解を得て行うもので、昨年度から始めました。
氾濫を機に整備、入間川分水路
中小河川については、冒頭の防災の歴史を踏まえた入間川の分水路の整備があります。平成17年9月の台風14号接近に伴って、1時間当たり最大100mmを超える降雨で川が氾濫し、調布市若葉町、三鷹市中原などで101棟もの浸水被害が発生しました。
入間川の中上流部における浸水害を早期に解消するため、近くを流れる野川に放流する地下分水路(バイパス)を建設しました。分水路の延長は1230mで、昨年4月から毎秒10t程度の放流が可能になりました。昨年の夏場には数回程度の取水をしており、バイパス機能を果たしています。
石神井川の改修も進めています。下流から50㎜(1時間当たり降雨量)対応の整備を進めており、管内4㎞のうち1㎞程度が完了しました。護岸改修とともに親水空間の整備もしています。西東京市東伏見地区では、道路(調布保谷線)、公園(東伏見公園)、河川(石神井川)の3事業を連携させて、道路トンネル上部を公園として、園路と川沿いの散策路をつなげるなど、いわゆる「3事業連携」として、水と緑に親しめ歩きたくなる空間づくりに取り組んでいます。
道路防災データベース。緊急輸送道路や協力業者、施 工中工事に関する情報、防災拠点、防災マップ等、災害 時に必要な情報を検索・収集・表示できる。 |
入間川分水路の取水施設。平成17年9月の浸水被害を契機 に、水位が上昇した時に流水の一部を野川に流す分水路を整 備し、平成25年4月から放流(毎秒10t)が可能になった。 |
――このほか注目事業としては何がありますか。
主要幹線道路整備では、調布保谷線があります。北多摩地域は五日市街道、青梅街道など、東西方向の街道を中心に都市化が進む一方、南北方向の道路整備が遅れています。そのため都は多摩南北道路主要5路線(調布保谷線、府中清瀬線、府中所沢・鎌倉街道線、立川東大和線、八王子村山線)の整備を重点的に進めています。その一つ調布保谷線は、稲城市、調布市、三鷹市、武蔵野市、西東京市を結ぶ全長14.2㎞の都市計画道路です。昨年2月に三鷹・武蔵野区間(約3.1㎞)の玉川上水付近約570mが開通することで、区間全体が暫定2/車線での通行が可能になりました。西東京区間約3.9㎞のうち2㎞が昨年4月に開通しましたが、この一部は先ほどの「3事業連携」として取り組んだものです。いずれの区間も、一般部は沿道環境に十分配慮するため、幅員36mのうち4車線の両側に緑豊かな街路帯を備え、歩道と自転車走行空間が分離された幅員10mの環境施設帯を設けています。調布保谷線は平成26年度(2014)末の全線開通を目指し、整備を進めています。
南北主要道路の一つである府中清瀬線は、昨年3月に府中市内のしみず下通りから旧甲州街道までの約550mの区間が開通し、これにより全線開通しました。この区間には、府中崖がいせん線の崖下と崖上を結ぶ「しみず下トンネル」と、京王線交差部の「清水が丘立 体」の二つの大型構造物があります。このうち京王線交差部は、直下に流域下水道幹線が近接する難工事でしたが、先行地中梁工法で、既存施設に影響を与えない配慮をしながら進めました。同路線では、多摩川に架かり、稲城市と府中市とを結ぶ長大橋の是政橋も平成23年(2011)に完成しています。
また一昨年12月には、狛江市内の地域幹線道路調布3.4.17元和泉地区が完成しました。これにより生活道路から通過交通がなくなりました。
野川の豊かな自然環境再生も
当事務所だけの取り組みとしては、自然再生事業があります。国分寺崖線から湧き出る水を集めながら多摩川に合流する延長20.2㎞の一級河川の野川で実施中です。周辺の市街化や水枯れなどによる希少で身近な自然環境の衰退を防ぐとともに、昭和30年代の水田・ため池などの風景を取り戻すため、野川第一・第二調節池で、平成18年度(2006)からの5年を第一次事業として、田んぼやため池、湿地、雨水貯留施設などを整備しました。湿地等の水管理、補修作業は市民が主体となって実施しています。引き続き今年度から3年かけ第二次事業を進める予定です。
また、東八(とうはち)道路(航空宇宙研究所交差点から前原交番前交差点5.5㎞)では歩道を拡幅して自転車走行空間を整備するとともに、合わせて電線類の地中化を行っています。
2020年東京オリンピック・パラリンピックでは、所管区域で自転車ロードレースと近代五種、サッカーの3競技が開かれます。多摩地域で唯一の競技開催地です。関係機関と連携しながら、円滑なアクセス確保と来訪者へのおもてなしに向け魅力的な都市づくりに取り組み、地域を訪問するリピーターを増やしていきたいと思います。
平準化、担い手の確保・育成が重要
西東京市東伏見地区の3事業連携。道路、公園、河川 の3事業を連携させて、水と緑に親しめ歩きたくなる 空間づくりに取り組んだ。 |
府中清瀬線は、平成25年3月、清水が丘550m区間の開 通で全線が開通した。開通式典の通り初めには約600名 が参加し、開通を祝った。 |
――災害時の地元建設業との連携や期待についてお聞かせください。
東日本大震災では地元建設企業の皆さんが自主的に対応されたということを聞いています。地域をよく知る地元建設企業の皆さんと私たちとが、連携して活動していくことが不可欠です。そのためには、常日頃からの情報交換や連携が必要だと思っています。
道路整備が進むことで、管理延長も延びています。一方、発災時に点検・見回りを担う地元建設企業の数が減っています。経営基盤の強化や、技術力の向上に努めていただき、質の高い後世に残るインフラづくりや災害対応に貢献していただける企業が増えればと思います。私たちも優良工事や地域貢献などを適切に評価したいと思っています。
発注者側としては、発注時期の平準化に向け取り組まなければならないと思っています。担い手の確保・育成も重要であり、オリンピック・パラリンピックや国土強靭化の機会を活かし、建設分野の魅力をアピールする必要があります。
最後に、建設局では現在、高度防災都市づくり、戦略的メンテナンス、インフラの多機能利用に重点的に取り組んでいます。皆様方のご協力をよろしくお願いします。
――確かに企業数の減少は業界内でも問題意識を持っています。どうしたら我々ももっと協力できるか考えていますが、工事の平準化には取り組んでいただきたいと思います。また私は土木屋として土木のすばらしさを分かっているつもりですが、具体的なPRが苦手です。発注者の皆さんもインフラ整備についてもっとPRしてほしいと思います。
――所管地域の特色、特性についてお聞かせください。
所管区域は、北多摩北部に位置する立川市、昭島市、小平市、東村山市、国分寺市、国立市、東大和市、清瀬市、東久留米市、武蔵村山市の10市です。管内は、JR中央線、青梅線、南武線、西武池袋線、新宿線、国分寺線、多摩湖線、拝島線など多数の鉄道網が整備されていますが、一方で数多くの踏切が存在し、交通渋滞や防災上の課題とともに道路整備での障害ともなっています。
鉄道交差する都道に雨水冠水対策
――防災の歴史について教えてください。
道路については、都道と鉄道の交差部で鉄道下を潜る形の道路立体施設が管内には9カ所ありますが、豪雨時に雨水が集中しやすいため冠水対策が重要になっています。昭島市内の松原立体では、都道220号線がたびたび冠水し、車両が水没するケースもありました。そのため現在、昭島市では平成26年度(2014)末の完成を目指し、当該地域の下水道整備を進めており、当事務所においても、松原立体の排水系統を変更し、新たな市下水へ接続すべく事業を進めています。完成すれば管内道路立体施設での最大の懸案個所が解消されます。
また河川については、多摩川水系2河川と荒川水系6河川の計8河川(約47km)を所管しています。このうち6河川は中小河川整備事業として、1時間当たり50㎜程度の降雨に対応するため、河道の拡幅と護岸を整備する河川改修(50mm改修)を進めています。平成24年度末時点の護岸整備済み延長は32.469kmで、整備計画延長に対する整備率が約82%となります。
現在の50mm改修を実施する以前の河川は、昭和40年代以前に構築されたものが多く、川幅も3-7mと狭く、護岸の老朽化が進んでいるほか、洪水を流下させる能力も不足しています。また近年の急激な都市化によって流域の遊水、保全機能が著しく低下するなど、治水安全度が年々低下する一方、洪水量は増え続け、水害が発生しやすい状況になっていることが問題です。
防災基地も抱え、災害時の課題は道路
――防災・減災の取り組みや注目プロジェクトとして何がありますか。
東日本大震災のような大きな地震発生時、まず必要なのが避難や救助・救援の初動を行うための道路確保です。避難の視点では、火災放射熱の影響を考え、一定程度の幅員が必要です。これは過去の阪神・淡路大震災でも幅員12m以上の道路によって火災の延焼を遮断したことを教訓にしています。さらに救助・救援についても、大量の放置自動車が障害になる可能性を考えると、4車線以上の道路ネットワーク構築が必要です。
東日本大震災の際は、一部鉄道で踏切が閉まりっぱなしとなり、道路交通が長時間にわたって遮断されました。このようなことから防災上の観点からも、道路と鉄道の立体交差を促進することが求められています。
また管内の立川市にある広域防災基地は、発災時に物資運搬の拠点になるため、輸送路を確保する道路啓開が重要な課題です。すでに東京都では平成18年(2006)に「多摩地域における都市計画道路の整備方針(第三次事業化計画)」を策定し、10年間で優先的に整備すべき路線を選定し、事業化推進を図っています。管内では第三次事業化計画で優先整備路線に位置づけられた約83kmのうち、約37kmを整備する計画です。
黒目川黒目橋地下調節池工事(地下2階鉄筋組立て)。 | 国分寺3・2・8号府中所沢線整備工事(JR交差部) |
当事務所では、多摩地区の骨格を形成する多摩南北道路5路線のうち、4路線を所管しています。これまでに八王子村山線、府中清瀬線が完成、現在は府中所沢線の整備を推進しています。残る立川東大和線についても課題を解決し、早期に着手したいと思っています。さらに、東西方向についても、新青梅街道の拡幅事業を推進するほか、新五日市街道についても、地元市や関係機関と連携し、早期の事業化を図りたいと思います。
緊急輸送道路網整備で橋梁耐震化
橋梁の耐震化では、昭和30年代から50年代に架設された15橋の耐震補強が完了しています。現在は、緊急輸送道路ネットワークの整備へ向け、平成15年度(2003)からの二次交通規制路線の耐震化対策として、国分寺市の泉町陸橋、昭島市の和田橋で整備を進めており、平成27年度には完了する予定です。
一方、河川については所管する管理河川の多くは、河川の上流部を管理していることから、下流部の整備状況の影響を直接受けます。具体的には、下流部が未改修(埼玉県管理)となっている柳瀬川、黒目川の整備促進が当面、最大の課題です。荒川水系・黒目川については、下流の埼玉県と整備の整合を図りながら、黒目川と落合川の合流部の県境に黒目橋調節池を設置し、下流の洪水被害軽減と上流の河道整備促進を進めています。
東建の人材増強と組織力に期待
――災害時の建設企業との連携のあり方と、企業への期待についてお聞かせください。
災害発生時の道路啓開作業を速やかに進めるために、地元建設業の皆様の協力は不可欠です。これは、昨年の伊豆大島土石流災害での対応でも、改めて強く認識されたところです。道路啓開対象路線が増える一方で、協力企業の廃業や辞退もあり、担当区間の割り振りに苦慮しているのも事実です。
また初動対応として巡回点検を主体とした協力を、造園業者や建築業者の皆様にも要請しています。発災初期は被害状況把握などの情報収集が重要であり、その戦力としても期待しています。東京建設業協会とも良好な関係を今後も続けてもらえればありがたいと思います。
河川については、大型台風や局地的集中豪雨などによる水害と河川管理施設の老朽化対応でも、地元建設企業との連携がますます重要になっています。そのため官民相互理解によって、単価契約による巡回・点検や、維持・補修の業務契約を一層確実に推進できるよう期待しています。
ただ一方、建設業界全体の問題としては、公共事業が縮小するなか、団塊世代の大量退職が進んだほか、先行きが不透明のなか、若手の採用が進まず、十分な人材補充が出来ないまま今日を迎えていることがあると思います。
そのため東京建設業協会に対しては、ぜひ将来の建設業界を担う人材をしっかり採用し、会員企業を着実に増やし、協会の組織力を活かして、われわれと一緒に協力して防災対策に取り組んでいただきたいと思います。いざという時に頼りになるのは、やはり地元の建設業界であり、その組織力が発揮されることが重要です。
私達も若者が魅力を感じる建設業界になるよう、連携・協力していきたいと思っています。
初動対応訓練の様子(平成26年1月29日) | 空堀川高木橋~下砂橋区間の親水護岸(東大和市) |