―少子化、成熟社会のなか、今後インフラ整備への取り組みに求められるポイントは何ですか。
ポイントは3つあると考えています。その1つが「高度防災都市づくりの実現」です。少子高齢化が進む中で、人口減少が過度に進む前に実現しなければなりません。2点目が「施設整備のパッケージ化」です。例えば、道路を自転車道や憩いの空間として使う考え方もあります。また、駅と開発地域の連続性を保つ役割も考えられます。さらに観光地と河川、道路などの空間の回遊性を高める仕組み・施策を一体的に考えていくことも必要だと思います。
この他にも豪雨対策には、下水貯留管と河川の調節池の連結、消防水利や応急給水槽の整備と雨水貯留槽の総合利用など、施策を統合して対策を実施することも必要です。従来の目的ごとの事業、いわゆる縦の事業を横につないで、パッケージにして進めることで、効率化や効果を高めるべきと考えています。
3つ目に、人口減少によって(税収などの)収入が減ることから、整備段階で「メンテナンスフリー」の考え方を組み込むことが必要でしょう。例えば、照明では電球の寿命を伸ばすLED化への取り組みを進めていますし、道路では、供用期間を長くできる、轍や摩耗の少ない高強度の舗装も出てきています。スカイツリーのように長期間塗装のいらない施設など、設備的なものについてメンテナンスフリーの考え方は広がってきています。
それが長寿命化につながるかもしれないし、予防保全型になるかもしれませんが、土木の分野でも、設計段階からメンテナンスフリーの考え方を取り入れていくことが、発注者として必要だと思います。維持管理費が余りかからず、施設が長くもつということを、造る段階から念頭に置くことが大事です。そのためには、こうした分野についての技術開発を進めることも必要だと思います。
度合いの違うバリアフリー化の課題
―今後のまちづくり整備で必要な視点を挙げてください。
高齢化社会に入り、まち全体のバリアフリー化が必要です。東京都は平成12年の交通バリアフリー法施行以前から、福祉のまちづくり条例に基づいて先駆的にバリアフリー化を進めてきました。しかし、交通バリアフリー法施行以前と後では、バリアフリー化の度合いが違います。例えば平成12年以前の基準で作られた道路の段差処理では、車いすを利用しにくくなっています。
東京都は、年2回歩いて現地の安全性を確認していますが、これまでこのような箇所全てを把握していませんでした。このため、今年度から平成12年以前にバリアフリー化したものについて全量調査し、改善していくこととしました。今年度予算でこの調査費を計上しています。
少なくとも、2020年東京五輪までには、(五輪競技が集約される)8㎞圏内のバリアフリー化を図る方針です。
またユニバーサルデザインの視点で言いますと、(標識などサインの)多言語化が必要です。昨年、国土交通省や東京地下鉄㈱等と連携して、国会議事堂前周辺の標識から、英語表記を開始しました。2020年東京五輪を契機に、もっと人が移動しやすい観点から、標識といったソフトの取り組みをさらに進めていきます。
少子高齢化の中での多機能利用
またバリアフリー化と同時に、「既存インフラの多機能利用」を、今後のまちづくり整備の重要な視点として挙げたいと思います。
―インフラの多機能利用とは、どのようなものですか。
多機能利用とは、すでに整備されたインフラを単に、平面的に利用するだけでなく、道路や河川などの空間の地下や高架などを立体的に活用して、コンパクトで効率的な都市構造にしていくということです。少子化と高齢化が進む中で、誰もが活動しやすくするためには、コンパクトで効率的な都市とする視点から、インフラを多機能利用しようということです。
一方、ソフト面からは、道路空間におけるオープンカフェの設置等、インフラの利用によるにぎわいづくりを展開していこうというものであり、警視庁とも連携して進めていきます。既に「東京シャンゼリゼプロジェクト」として打ち出しており、要綱に合致したものについては、公共空間にオープンカフェや施設を設置できるという仕組みを作りました。3月に舛添東京都知事が環2(都市計画道路幹線街路環状第2号線)への適用を表明し、環2を第1号として進めていきます。他にもいくつかの候補を選定し、地元と連携しながら進めたいと思っています。同様の動きは、河川でも「かわてらす」として進めています。
公共空間を交通や水の流れを中心とした単一の利用だけに止めるのはもったいない。まちとインフラ施設が一体となって、イベントや日常的な賑わいを創出するために、オープンカフェなどに利用されることで多様に親しまれる空間にしていきたいと考えています。
―インフラ多機能利用のハード面からの対応についてはどのようにお考えですか。
海外では、ドイツのデュッセルドルフでのライン川沿いの道路やアウトバーンの地下化、フランス・パリのモンパルナス駅上空の公園化、フィリピン・マニラの道路上空の大規模看板広告など、インフラ空間を複合的に利用した実例は数多くなされています。また、日本でも環2の立体道路、下水処理場の土地利用なども行われています。
私は20年前に研修で、3カ月間ヨーロッパの諸都市の社会資本整備状況を調査しました。すでに当時、ドイツやオランダの各都市やパリでは、道路の地下化により、道路・河川とまちづくりを一体化させた賑わいづくりを始めとする、インフラの多機能利用が進められていました。またオランダのデン・ハーグでは、1つの駅でライトレールとバスと鉄道を3段構造にして、それらの結節点として利便性を高めている例もありました。
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海外と比較して日本ではこうしたコンパクトシティ化が進んでいるとは言えません。もともとヨーロッパの各都市は城塞に囲まれた中で、まちが完結するコンパクトシティの構造でしたから、このような取り組みが進んだのでしょう。
日本でも少子高齢化社会を迎え、歩いて暮らせるようなコンパクトで利便性の高いまちづくりを進める必要が高まっています。このためにインフラの多機能利用が必要であると考えています。
―多機能化を生かすために必要な対応は何ですか。
まず視野を広くするための人材教育が必要です。道路担当者は道路だけ、河川担当者は河川だけ、ではだめです。それぞれ専門を持ちながら、まち全体を見て専門を発展させることが大事です。全国各都市のまちづくりの状況を見て感性を磨いてもらいたいと思います。
様々な視点でまちを見る
また海外へ行って、異文化を体験することも必要です。机の上での勉強だけではだめです。生きた感性でまちを語れるようにならないと、新しいまちづくりのイメージは湧いてきません。
まちづくりを広域的な視点から見る人材を育成することが、行政に必要だということです。河川や道路といった専門性を持った職員が、様々な地域に出向き様々な視点でまちを見ることで、施設整備のパッケージ化などの施策・取り組みに反映してほしいと思います。
このことは建設産業界についても同じです。例えばコンサルタントも、まちづくりコンサルタントと、建設コンサルタントとは分かれていますが、これからは融合して建設企業も含めて、まちづくりの提案をしてほしいという思いがあります。例えば、河川の設計をしながら、パッケージ化やメンテナンスフリーなど様々な視点を取り込んで提案してもらいたいということです。
―2020年東京五輪に向け、東京のまちづくりに今後何が必要ですか。
東京五輪は通過点です。五輪までに一定の水準へ防災機能を高め、海外から安心して訪れてもらうこと、滞在して満足してもらうために、おもてなしの心を持ってまちづくりを進める。そのために賑わいづくりの仕組みづくりが必要です。可能な規制緩和についてもメニューを出しながら公共空間の活用を推進していきたいと思います。
また、まちが良くなるだけでなく外国企業が参入したくなるビジネス環境づくりも大事です。そのために国際戦略特区などを活用していくこともよいでしょう。外国からのビジネスマンが多くなれば、ホテルや長期滞在型施設、海外ビジネスマンの家族に対応した学校や病院、マーケットなど居住空間を提供することも必要となります。標識の多言語化などを代表にしたソフトのバリアフリー化だけにとどまらず、外国人の日常生活やライフスタイルを意識してまちづくりを進めていくことが、私たちに求められていると言えます。