ユニバーサルデザインがまちの魅力へ
―事業を展開するうえで、必要な視点についてお聞かせ下さい。
まちづくりを進めるうえで、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れることは重要です。課題もあるかもしれませんが、率先して取り入れていくことが、まちの魅力につながっていくと思います。
まちの魅力向上を考えなければならない背景には、いま各自治体が脅威に感じている、人口減少問題があります。すでに東京圏でも、減少する自治体が出始めています。対策としては、いまある資源を磨いていくことです。言い換えれば魅力を高めていくことが大事だと思っています。八王子市は、緑が豊かで都心にはない魅力も多く、この魅力をいかに引き出していくかがカギなのです。魅力を高めることで、人口減少は食い止めることができると考えています。
人口減対策のもう一つは企業誘致です。都心では思い切った企業誘致の施策は難しいと思いますが、八王子市では伸びる可能性が高いと思います。企業誘致を進める施策としては、企業が新たに八王子に立地した場合や市内企業が拡張等をした場合のインセンティブ(企業立地支援条例)も用意しています。すでに70数社に条例が適用されています。さらに市内の中小製造事業者が事業拡大などのために市内の貸工場等に移転する場合の経費を一部補助する施策も今年から導入しています。
これらの施策には、新規企業誘致を図ることと、市内にある企業を外に出さないという2つの意味合いがあります。市内には事業所が1万9000程度、製造業も約1600社ありますので、今後も企業支援を行っていきたいと思います。
地域産業が活性化しないと、まち自体が発展しません。ですから産業活性化を通じて、人口減少を食い止めることを追い求めていきたいと思っています。
―市内インフラ整備の今後の取り組みについてお聞かせ下さい。
まず駅と駅周辺の整備が必要です。これは市長就任以来ずっと展開している施策です。今年6月の補正予算では八王子駅周辺整備基金を新たに創設して20億円を積み立てました。基金では3つの事業を想定しています。具体的には、今年3月に駅北口のペデストリアンデッキを東方向に延伸しましたが、今後西方向にも延ばすことが1つ目の事業です。これは歩行者の利便性と安全性向上、さらには街の活 性化を目的にしたものです。
2番目はJR八王子駅と京王八王子駅の間、いわゆる旭町・明神町地区の一体的開発です。ここには東京都が、多摩最大級の展示場を備える「産業交流拠点」の整備を計画しています。この整備と連携した都市型広場の整備などを通じて一体整備を手がけたいと思っています。
3番目はJR八王子駅南口の医療刑務所移転後の用地活用です。医療刑務所は平成28年度に昭島市内へ移転する予定で、移転に伴って広大な跡地が残ります。この跡地を国から取得し、有効な土地利用をしたいと思っています。これから市として、新たな賑わいや集いを創出するため、どのようなサービス(ソフト)を提供すべきかという視点から、何をつくるか検討したいと思っています。この3つの事業は、平成29年度以降にも重なるため、事業費を事前に確保、また資金不足に備えるために基金をつくったわけです。それを活用して事業展開したいと思います。
―拠点開発として今後のインフラ整備ではどのようなものがありますか。
まず、JR八王子駅南口の、日本貨物鉄道(株)(JR貨物)開発事業調整があります。これは、駅南口にJR貨物が保有する土地の民間開発について、市としては中心市街地の活性化に寄与する施設事業です。商業施設を望んでおり、JR貨物と協議を継続しているものです。提案募集の結果、低層階を商業施設、高層階をマンションにする計画の事業者が採用されました。これによって八王子駅南口周辺もま た動き始めたと感じます。
駅の拠点的事業ではもう一つ、JR高尾駅周辺整備があります。高尾駅は長年、入場料を払わなければ駅南北間の通行ができないという懸案があります。今年6月に東日本旅客鉄道(株)と京王電鉄(株)と市が、JR高尾駅を橋上駅化して南北自由通路を整備する協定を締結しました。今後、基本設計・実施設計を経て平成28年度には着工する予定です。橋上駅化のほか北口駅前広場の整備も予定しています。
また今年6月には圏央道が東名高速道路とつながりました。これで東京区間はすべて完了しました。市内で残されているのは、現在ハーフインターである圏央道八王子西インターチェンジのフル機能化です。すでに用地買収に入っており、平成28年にはフル機能化が実現するよう事業を展開しています。
そこに近接して物流拠点整備も進めています。約172haの計画地のうち約30haを開発して、物流企業を中心に誘致したいと考えています。川口土地区画整理事業と呼ばれるもので、25年度から環境アセスメントの手続きを実施しており、28年度の組合設立認可へ向け関係機関と協議中です。すでに埼玉県内や神奈川県内で拠点整備が進んでいますが、物流事業は、まだまだ伸びていく市場だと私は考えています。ですから川口土地区画整理事業は、東京都内にあることやインターに近接していることなど、ポテンシャルが高いので、企業誘致も可能だと 思います。
理念を反映した子育て支援、市道整備
―企業支援などを通じたまちづくりで、ユニバーサルデザイン面での具体的な配慮は。
例えば今年1月に国土交通大臣から、「バリアフリー化推進功労者大臣表彰」を受賞した、「赤ちゃん・ふらっと」の整備推進があります。これは、子育て世代が、赤ちゃんと一緒に気軽に外出できるよう整備する、授乳やおむつ替えができるスペースです。公共施設だけでなく駅ビルやスーパーなど民間施設にも市が補助をして、市内81カ所に設置しているものです。
また一昨年、「障害のある人もない人も共に安心して暮らせる八王子づくり条例」(障害者差別禁止条例)も施行しました。障害者に対する理解を深め、差別をなくしていくという趣旨です。物理的障害だけでなく心の壁を取り除き、障害のある人と障害のない人が共に、安心して暮らせるよう、障害者団体と連携して施行したものです。施行以降、協議会を設置して定期的に障害者団体の関係者と意見交換し、その声をまちづくりに反映できるよう、常に意識しています。政令市を除けば市町村としては全国初の条例制定です。障害者の方達への市民の理解が進むよう、我々も努力していきたいと思います。
また中心市街地の市道整備でも、協議会の意見を踏まえ、誰もが使いやすいまちを基本に、電線の地中化や段差解消、サイン表示など、ユニバーサルデザインの理念を反映した歩行空間づくりをめざしています。
―2020年東京五輪開催を控え、海外から訪れる外国人の方達への対応についてはいかがですか。
八王子市には、ミシュラン三つ星の「高尾山」を始め多くの観光資源があります。近く、京王電鉄高尾線の高尾山口駅は駅舎改修に入りますが、現在、屋外にある市の観光案内所を、駅舎の中に移転し、外国人に対応するスタッフを置き、情報発信をしていきたいと思います。八王子市内には21もの大学が立地していて、3000人を超える留学生がいます。さらに外国人で住民登録している方も9000人以上います。その点では八王子市はもともと国際色豊かな都市と言えます。
しかし今後は、海外からの観光客がさらに増加する可能性を踏まえ、観光という視点に立った整備も必要です。情報を提供するサイン(案内板)などでも、多言語化やピクトグラム表記(絵文字による視覚記号)の充実を進めていきたいと思います。
地域づくりは行政が投資率先
多くの観光客が訪れる明治の森高尾国定公園・高尾山。 ミシュランガイドで三つ星を獲得して以来、海外から高尾山を訪れる観光客も増えている。 |
―市長が考える、今後のまちづくりと将来像についてお聞かせ下さい。
まず行政課題として考えなければならないのは、人口減少問題です。住民が減少することは税収減につながり、そうなれば今まで通りの行政サービスが提供できなくなるという課題に直面するからです。ですから、住民が増える施策を実施していくことが必要です。八王子市は昭和の大合併などを経て面積も大きく、それぞれの地域により異なる特徴や魅力があり、地域ごとの要望にも細かく応えていく必要があります。例えば南部の八王子ニュータウンは、人口が増えていますが、その他の地域は横ばいもしくは微減傾向になっています。ですから人口が減少している地域のてこ入れが必要だと思っています。例えば、高尾は観光の視点で活性化を図り、西方面は圏央道が出来たので、企業誘致を図りながら人口を維持したいと思います。また北方面(八王子インターチェンジ付近)はイオンの商業施設が完成しますから、広範囲から人を集めることができると思います。このように地域の特徴を踏まえ地域ごとの拠点整備に力を入れることが人口減少防止になると思っています。
八王子は未利用地も多く、まだ伸びていくまちだと思っています。ですから職員に対しても、施策遂行の「スピードを意識しろ」とはっぱをかけています。
最後に行政と民間企業の関係と地域づくりについてですが、一番大事なことは行政が施策を動かすことで、民間対応が加速するということです。高尾山を例に取れば、博物館機能を持った「高尾の里拠点施設」(来年度開館予定)整備を市が進めています。これに呼応するように、京王電鉄も駅舎リニューアルや日帰り温浴施設整備などを高尾山口駅に設置しますし、市と京王電鉄が連携して観光案内所と駅前広場を整備します。
行政が将来に向け投資をすることが非常に重要だと思っています。