各世代の課題に目を向け施策展開
―少子高齢化が言われるなか、区内の状況はいかがですか。
実は今、港区の人口は増加しています。外国の方を含め23万7000人いらっしゃいます。バブル崩壊後、人口が一番減少した平成7、8年ころ、当時の住民基本台帳には外国人が入っていませんが、15万人を割り込んでいました。当時から外国籍の住民は大体1割程度です。外国籍住民を加えても16万人強でしたから、約20年で10万人弱増加した計算です。
港区では独自の人口推計を行い、平成37年までに毎年2%、約5000人ずつ増加すると見込んでいます。平成37年には28万9000人と30万人に迫ります。子どもから高齢者まで各世代でまんべんなく増加すると見られます。推計の精査は今後も必要ですが、色々な要素を考慮に入れても、年少人口を含めて増加基調にあるのは確実だと言えます。
虎ノ門・愛宕地区などで人口が減少し、小中学校の統廃合が進んだ時代もありました。しかし今は、区内で子育て世代が増えていることもあって、右肩上がりで伸びてきた老年人口の割合が17%程度と横ばい状況になっています。このような状況の中、年代的にバランスがとれたうえで人口が今後も増加するという推計を踏まえて、現在は各世代にわたった課題を幅広く解決していく方向で計画を練り上げ、細かく目配りした施策を進めているところです。
―具体的にはどのような施策を進めておられますか。
近年は待機児童問題に力を入れています。今年は久しぶりに待機児童数が二桁台まで減少しましたが、解消までには至っておりません。人々の働き方が多様化していますので、働き方に合わせて、サービスの内容を深めた提供が求められていると感じています。つまり、多様化に対応するということです。パートタイムの方たちが保育所を利用しにくい側面もあるので、保育サポートサービスの提供も始めています。施設設置と保育需要がミスマッチにならないようにしていくことが重要です。
―高齢者に対する施策についてはいかがですか。
高齢者は4万2000人程度いらっしゃいます。人口に占める割合・率としては横ばいですが、数は確実に増えています。現在、特養ホームの整備率は23区で最も高いと思われますが、それでもすぐには入所できない状況です。今後施設需要がどれだけあるか、推計をもとに計画を立てる予定です。また在宅サービスの充実も必要で、施設と在宅サービスの組み合わせが大事です。病院など医療機関とも連携し、医療や看護も含めて地域のなかでネットワークを構築していくことが必要です。これは高齢者だけでなく、がん緩和ケアでも同様です。
多言語対応 さらに先へ
―外国人観光客や外国人居住者の増加に対する対応についてはいかがですか。
港区は元々、外国人居住者割合が高い地域です。国籍も130カ国、約1万8000人の方が区内で暮らしています。82カ国の大使館が区内にあります。民間の国際交流が従来から活発に行われてきた土地柄でもあります。
区では、外国籍の住民の方たちが、地域のなかにいかにとけ込まれるのか、またどのような不便を感じているのか、アンケートや懇談会などを通じて把握し対応しています。また大使館とも連絡会議を設けており、その意見交換を施策につなげています。その一環で例えば、情報の多言語化対応として、区が発行する刊行物も、日本語、英語の2カ国語、必要に応じて、ハングル、中国語を加えた4カ国語で発行しています。
また外国人観光客向けには、インフォメーションセンターをモノレールの浜松町駅に設け、日本語、英語で案内していますし、ハングル、中国語でも応対が可能です。電話で対応ができる態勢も整えています。さらに観光案内板を設置し、トイレ表示などはピクトグラム(絵による表示・案内)を採用し、誰にでも分かるように配慮しています。災害対応でもピクトグラムによる安全確保のための誘導策が必 要ですが、それは同時に外国からの訪問者に対する大きなサービスになると思っています。ですから他のサイン(表示板)も日本語と英語で表記するようにしています。
ただ多言語化といっても表示にも限界はあります。そのためにも、まずやさしい日本語表記も必要です。やさしい日本語表記と日本語の理解にこれから力を入れていく必要を感じています。
外国人居住者が多いのは、強みでもあります。居住者が外国人観光客対応での支援をしてもらえる可能性があるからです。そのため今、外国人の方達を対象に、携帯メールを使って、区からの情報提供と相手からも情報をもらう、双方向の情報コミュニケーション事業を始めています。これは外国の方に登録をしてもらって、興味ある分野の情報を区から発信するものです。また情報提供者に対し、今後区の業務支援として通訳ができませんかといったアンケートの問いかけもしています。その結果を踏まえ今後、区との協力関係につなげていけば、区だけでは対応ができない通訳ボランティアなど、さまざまな国際対応で非常に大きな力になると期待しています。
情報提供は、必要に応じて英語、ハングル、中国語の3カ国語で対応していますが、利用者の選択する言語は圧倒的に英語です。大多数の外国人の方達は英語でコミュニケーションが取れる実態が分かっており、今後の表記の柱はやはり英語だと思います。ですから外国人居住者の方たちも、港区民として今後、通訳などさまざまな活動だけでなく、町内会活動や災害対応訓練などにスタッフとして参加してもらえたらありがたいと思います。
―港区の将来像をどのように描かれていますか。
今の港区の人口増は自然増によるものが大きいです。つまり(他地区からの)流入増のみではなく、地域のなかで子どもの数が増えており、基盤としては安定しているといえます。子どもの増加はファミリー向け住宅の供給量が増えているためです。今後も区内での住宅供給計画がありますから、人口が大きく減少する可能性は低いと思います。
しかし港区の状況は局地的な動きです。日本全体で人口減と少子化が進んでいることを考えれば、趨勢としては高齢者の割合が増えていきます。子どもも、港区で生まれたからと言ってずっと港区に住むとは限りません。しかし子どもの数が増えている状況だからこそ、子育て世代を含めて支援をきちんとしていく役割が、港区に求められていると思います。
例えば高齢化によって港区に住んでいる親の一人暮らしが難しくなった場合、子どもが親のそばで暮らすこともありますし、高齢者の方が便利さや医療機関の充実を理由に、港区へ転入するケースもあります。
多様な暮らし方や生活パターンに応じた集合住宅や一部支援を組み込んだケア住宅など、特別養護老人ホームへの入居にとどまらない、さまざまな選択肢を整備することが大事です。区としては、さまざまな施設を時代の変化に合わせて転用できるような形で整備しています。グループホームやケア付き住宅、あるいは今住んでいる住宅を高齢者生活に対応させるための改修支援などを組み合わせていくこと も必要です。
子育て世代、高齢者、外国人のほか、障害者の方達も含め、多様性に対応していくことが、人に優しい地域社会の創造につながります。これはユニバーサルデザインに配慮した地域・まちづくりと言えるかもしれません。
―東京五輪やリニア新幹線整備などを契機に新たなまちづくりも始まります。
品川のJR車両基地開発は非常に大きな規模となりますから、区としても大変注目しています。新しくできるまちは、羽田空港からのアクセスの良さもあって、日本の玄関口になります。ですから海外から訪れた外国人の方々に、日本の魅力や活力など日本を実感してもらう空間づくりが求められると思います。
地区的には、JR線を挟んで東側の芝浦港南地区と西側の高輪地区の東西交通をさらに整備してもらうことで、両地区の均衡ある発展につながってほしいと思います。
それと、国籍、年齢を問わず、誰もが快適に住むことができる環境を整備することが、まちづくりに必要だと思います。ピンポイントに何かの特色を出して、特色に合う人だけを受け入れるということは避けるべきです。
都市の魅力とは、誰もが住み、活動できることだと思います。誰もが住むことができて、住んでいるすべての人が、自分のまちとして見守っていけることが、歴史のある持続的なまちにしていく要素だと思います。
ですから、業務だけといった、何かに特化した特別の地域は限定的であるべきだと思います。基本は、住むことと、業務や商業が調和して発展していける、そうしたまちづくりが望ましいと思います。
緑豊かな自然環境をこれからも
港区の特徴は緑が多いことです。緑被率も20%を超え、23区でも4番目の高さです。印象として港区は都会ですので、殺伐としたイメージがあると思いますが、区内には江戸時代から保たれている緑もありますし、開発事業でも緑化を求めています。開発によってさらによりよい自然環境をつくり出していくことにもなります。
大規模な開発によって環境負荷がかかることは確かです。しかしエリア全体で環境対策を行うことで、開発規模が大きくても、スマートエネルギーネットワークにより、エネルギーを面的に利用し、地域全体のエネルギー効率を上げることができます。大規模開発事業でも環境負荷低減のための取り組みを実現しなくてはなりません。開発を伴うまちづくりには、居住と業務、商業の調和に加え、環境への配慮が必要ということです。環境負荷が低減され、緑化や海からの風の道をつくるなどの開発により、問題となっているヒートアイランド現象が緩和されることにも期待しています。
また、防災への対応も必要です。ですから開発に当たっては、そのエリア内にいる人たちの安全確保はもとより、エリア周囲の人たちの安全性を担保する役割も持ってもらいたいと思います。
今後予定されている大規模開発でも、行政は区内に働く人・住む人が魅力や歴史を感じられるまちを残していけるよう、仕組みづくりを行う必要があると思っています。