事業量の山は一気に高くしない
これから10年、平準化を図る
―成熟都市東京のなかで今後必要なものは何ですか
どの時代にあっても、公務員である東京都職員は、「都民の幸せになること」を実現することが役割です。我々建設局の役割は、インフラ整備の視点から、都民の幸せを実現していくことです。少子高齢化時代にあっては、バリアフリーの視点を重視する一方、今後、訪日外国人が増加する政策を進めるとすれば、ユニ バーサルデザインの視点もしっかりと持つ必要があります。
また、東日本大震災を踏まえれば、防災の観点から災害に強いまちづくりという視点は非常に重要ですし、キーワードとして外すことは出来ません。
現在、アベノミクスにより経済状況は上向きになりつつはありますが、生産年齢人口が今後も減少すれば、当然GDP(国内総生産)は減少します。我々の仕事自体が、経済の発展にもこれまで以上に貢献できるようにしていくことも、考えていかなければならないと思っています。
その中で、まちづくりは、知事がお話しされているように全体的なグランドデザイン、都市像・都市構造、これからの新しい技術・ニーズなどを踏まえた議論がされていくと思いますし、新たな都市モデルが構築されていくのだろうと思います。実際、東京オリンピック・パラリンピックを契機にレガシー(遺産)などにつ いての議論も始まっていますから、ポテンシャルを維持しながら、東京ブランドを確立していくことが必要でしょう。そしてインフラについては、グランドデザインの確立にどう関与・貢献出来るかということが重要だと思います。
―東京五輪後を見据えたインフラ整備についてどうお考えですか
少なくとも2020年までは、東京五輪を中心とする事業に集中することになりますが、特に災害に強いまちづくりを行うことが重要であると考えています。堤防は水門外側の40km、22の水門等も全て耐震耐水化しますし、道路も特定整備路線28区間、約26kmをすべて整備します。また、外環道のような広域的な道路についても、国だけでなく都も役割を果たしながら進めていきます。ただ、東京都の事業はこうした東京五輪までに完了するものだけに止まりません。例えば豪雨対策という視点では、(1時間当たり)75mm、65mm対策を打ち出したばかりで、東京五輪までにすべて整備出来るわけではありません。この計画を、この先相当の期間をかけながら着実に 進めていくことになります。
また、道路についても、東京五輪関連以外の事業として、例えば連続立体交差事業など、まだまだ進めていく事業が沢山あります。
さらに、既に出来上がっているインフラの長寿命化対策もあります。トンネルについても、予防保全型管理の取り組みを開始することを打ち出しましたが、予防保全型事業はまだ緒に就いたばかりです。また、新たな事業として、自転車の走りやすい空間の整備や無電柱化事業があります。こうした新たな視点の事業も、 東京の魅力を高めるためには不可欠な施策ですから、着実に進めていくことが必要です。
このようなことから、東京五輪の先まで長期にわたって、東京都では相当なインフラ整備の事業量が見込めます。そのため、私は10年程度を目途に事業の目論見を立てています。よく東京の事業は東京五輪までで、それ以降は減少するのではないかと心配される声もありますが、少なくとも建設局については、五輪とその後の5年、つまり今後10年程度は決して山(事業量)が崩れることがないということは強調したいと思います。人(職員)は一気に増えるわけではないので、事業量を平準化させることが必要です。また、人だけではなく、投資額も一気に増やして集中させることには無理も出てきますから、事業を平準化する必要がある訳です。
ソフト面からのインフラ活用
行政にも求められる新たな視点
―東京の都市戦略としての視点として大事なことは何ですか
これまでの「規制」の概念は、道路や河川など単独で一つのもの(構築物)を造るという考え方を前提にしていました。しかし、道路は必ず「まち」の中にあるわけですし、川や鉄道も当然、「まち」の一部です。これからは道路などインフラと「まち」は、一体的に捉えて整備を進めていくべきです。
また、もっとインフラをソフト面からも有効に活用する為には、既存の制度を改善する必要があります。例を挙げれば、既に進めている「東京シャンゼリゼプロジェクト」のように、道路上にオープンカフェを展開することで、地域の賑わいづくりに貢献していくことができます。さらに、河川の管理用通路を活用する「かわてらす」もそうですし、最近、知事が発言されている公園へのレストラン誘致もそうです。こうしたインフラの有効活用を進めるためには、規制を緩和し、出来るだけ公共空間を使い易くし、皆が楽しめる空間にしていく視点が必要不可欠であると思っています。
我々は、こうした取り組みを「インフラの多機能利用」と呼んでいます。また、インフラの多機能利用には別の効果もあります。今後、人口が減少し財政上、歳入が減る可能性を考えれば、インフラの多機能利用によって事業者から占用料や広告料をもらうことで、都民からの税金を使わないで、インフラの維持管理に充てることが出来ます。つまり、行政もインフラを単に維持管理するという視点から「まち」を運営していくという取り組みが必要になっているのです。
さらに都では、水素社会の実現や、訪日外国人旅行者数増へ向けた様々な取り組みが動き始めました。それを推し進めるためには、ボーダレスでグローバルな視点で政策を展開していくということが重要です。こうした視点で考えると、世界各国の人に合わせたナショナルマーケットや、学校も必要になるかもしれません。繰り返しになりますが、単に一つのものを造るという考え方ではなく「まち」づくりと連携したインフラ整備が今後は必要不可欠だということです。
豪雨対策 新規に環七地下広域調節池
東京都長期ビジョンで掲げた都市戦略4「安全・安心な都市の実現」のなかで、政策指針9「災害への備えにより被害を最小化する高度な防災都市の実現」の目玉のひとつが、多発する局地的な集中豪雨への対策の強化だ。浸水被害の防止対策として、都内全域の調節池貯留量を、2025年度には2013年度末比で約1.7倍に拡大させる。
すでに事業中の調節池①古川地下調節池、②白子川地下調節池、③善福寺川調節池、④黒目橋調節池、⑤残堀川調節池――の5カ所に加え、今後、新規に8カ所の調節池を整備する予定だ。
新規着手予定の調節池のうち特徴的事業として挙げられるのが、「白子川地下調節池」と「神田川・環状七号線地下調節池」を連結させる新たな調節池を整備する「環状七号線地下広域調節池(仮称)」だ。神田川・環状七号線地下調節池から白子川地下調節池までを一本に結び、神田川、石神井川、白子川という異なる3つの流域をカバーすることによって、局地的ゲリラ豪雨の洪水調節機能を融通する。
貯留量54万㎥の神田川・環状七号線地下調節池と、約21万㎥の白子川地下調節池が連結されれば、2つの地下調節池をつなぐ新たな連結部分の貯留量を加えると、100万㎥超の巨大地下調節池が2025年度に誕生する。
2008年に完成した神田川・環状七号線地下調節池 © 東京都 |
―建設企業に対する役割と期待についてお聞かせください
東京建設業協会会員企業の皆さんは、私たち行政にとって良きパートナーであり、一緒に仕事をしていただかないと、我々の目的が達成出来ない貴重な存在です。皆さんの協力を得なければ東京五輪関連事業も進まないことは確かです。これまでも、皆さんと意見交換をしながら協力体制を継続してきていますが、今後は、これまで以上に緊密な関係を構築していく必要があると考えています。より一層の連携をお願いいたします。
最後に、東京五輪後も東京都の施策は目白押しです。このことを視野に置いて会社組織・体制づくりや人材確保・育成について取り組んでいただき、行政と民間が相乗的に良い形で発展出来ればと思います。宜しくお願いいたします。
新たな賑わい創出で東京の顔づくり
東京都長期ビジョンの都市戦略3「日本人のこころと東京の魅力の発信」のひとつとして打ち出されたのが、新たな賑わい創出だ。具体的には、「隅田川周辺における水辺の魅力を生かした東京の顔づくり」と、「成熟都市にふさわしい道路空間創出」。
水辺の魅力を生かした取り組みは、浅草、両国、築地の各エリアで賑わいを誘導する先導事業をそれぞれ展開することで、東京湾・ベイエリアと都心を結ぶ水辺の動線強化と、魅力的な水辺空間を創出する。
また道路では、虎ノ門地区や丸の内地区などで、公共空間の道路を活用して地域の人たちとまちの活性化を図る「東京シャンゼリゼプロジェクト」を進めることで新たな賑わいを創出する。
水辺空間の魅力向上としてすでに始まっている、河川の管理用通路を活用して飲食店の営業を行う「かわてらす」社会実験と、「東京シャンゼリゼプロジェクト」はともに、規制緩和でその地域の活性化を図る、「エリアマネジメント」の考え方が底流にある。
始まったばかりの東京シャンゼリゼプロジェクトは、
すでに都心の賑わいの発火点となりつつある
公物管理者が河川、道路の一部を民間に開放することは、民間企業が展開するオープンカフェなどの収益をインフラの維持管理費用に充てるという副次的な効果もありそうだ。
日本橋川でのかわてらす事業