3環状をベースにネットワークを築く
―東京はどのような都市を目指すのですか
東京都は昨年12月、東京オリンピック・パラリンピックを含む今後10年間の「東京都長期ビジョン」を公表しました。そのなかでは、世界一の都市を目指すことを打ち出しました。世界一とは抽象的に言えば、ここに生まれ、ここで育って、ここで働いて、ここで老後を迎えて良かったという都市です。これを都庁内のさまざまな局が一緒になって政策をつくって実現していくことが、私たちに課せられた使命です。
つまり都市づくりとは、生まれて、働き、老後を迎えて良かったという都市の器うつわをどうつくっていくかということが非常に重要なことだと思います。
―東京が目指している都市構造、地域像についてはどのように考えておられますか
都市構造といえば、これまでに「東京の都市づくりビジョン」が策定され、めざすべき都市像が示されています。ここで圏央道(首都圏中央連絡自動車道)、外環道(東京外かく環状道路)、中央環状(首都高速道路中央環状線)の3環状道路などを骨格とした環状メガロポリス構造という、東京圏を視野にいれて、そこに集積する都市機能、首都機能を最大限発揮させる構造を目指しまし。現在、3環状道路はほぼ完成の域に入り、外環道が計画どおり放射状道路とリンクすれば完成します。不適切な表現かもしれませんが、計画通りに実現するということは珍しいケースかもしれません。
これからは3環状をベースに、放射状の各高速道路を結ぶ環状だけでなく、東海道から圏央道そして北関東へ抜ける軸であるとか、多摩地域にあっては、南多摩尾根幹線整備によって埼玉県から東京都を通じて神奈川県に至るような軸も出来てきます。私たちはインフラをベースに、より活動しやすいような都市交通を形成できるようにつなげていかなければなりません。そのためには、必ずしも環状だけが必要なのではなく、ミッシングリンク解消を含めたネットワークをつくっていくことが大事です。まずこのことをベースに都市構造を考えていきたいと思います。
さらに東京だけでなく、埼玉、神奈川、千葉も含めた〝東京圏〞ということを踏まえ考えていくことが基本です。
環状方向と放射方向で整備を進めると、さまざまな地域に結節点が生まれます。そこで、例えば都心区であれば、国際競争力向上に寄与する機能、周辺区部では生活の利便性向上につながる機能、多摩地域では就業を支える機能や教育や医療など、それぞれの地域で拠点性を高め、それぞれの拠点を相互にネットワーク化させる地域構造に変えていかなければならないと考えています。
その時に大事なのは、多様性です。多様性を持たせるためには地域の特性に応じた拠点をつくっていくことが必要ですし、そういった構造に変えていきたいと思います。
多摩という地域のブランド力都市づくりの視点が必要に
―多摩地域については今後、どのように考えておられますか
これまで多摩は、「区部」に対する「多摩」という概念を伴って捉えられ、その中で都市圏を形成しようとしてきました。しかし今後は「区部に対する多摩」ではない発想が必要です。
例えばリニア中央新幹線が完成すると、町田、相模原は大きく変わります。そこへ南多摩尾根幹線が出来上がってくると、多摩地域が一方は埼玉へ、片方で神奈川までつながりますから、先ほど指摘した(広域的な)東京圏のなかで多摩地域をどうするのか、という視点がより必要になってくると思います。多摩には区部にはないもの、例えば多くの大学や企業の研修センターなどがあります。あまり知られていませんが、先端的技術を保有している中小メーカーも活躍しています。それらを地域活性化につなげていくことが大事になってきます。
また、圏央道のように、神奈川から北関東に至るような軸では、物流の拠点が立地しやすくなります。これをどう地域の活性化につなげるか、それと同時に、東京が世界一の都市へ向かうためには、こうした長所をどう生かしていくかという視点が非常に大事になると思います。
このように、多摩は多摩として、より近県や東京圏を視野に置いた活性化のあり方を探る必要があるのではないでしょうか。
―多摩ニュータウンの再生についてどうお考えですか
諏訪団地では民間企業の参入によって、建て替えが進みました。ですが民間企業が参入するためには、駅に近いなどの条件が必要で、諏訪団地の事例がどこででも通用するわけではありません。多摩ニュータウンといっても稲城から町田までと広く、場所によっては若干事情も違うでしょうから、そこの顔というかへそになるような拠点性を高めるエリアをつくることが必要です。そのときに団地の再生は必要ですから、例えば高層化をしたことで生み出せた、まちづくりの用地をどう活用するかなどで、地域特性の反映の仕方の工夫があるのではないかと思います。
すべて宅地にする必要はありませんし、都市生活に必要な空間としてどのように活用するかという視点も場合によっては必要になってくるでしょう。
―人口減少と高齢化が進むなかで、多摩地域をどう捉えておられますか
今後、多摩ニュータウンで大規模な住宅供給をしていくことはないと思います。しかし建て替えは必要です。先ほども指摘しましたが、建て替える過程でどのようなまちにしていくかという視点が大事です。また人口が減少しても、地域間の交流が促されるような、例えば高齢者が公共交通を使ってこれまで以上に出歩くことが出来るようにするとか、今までのように一度都心方向に向かわないと北や南に行けないという構造を変えていけるよう、インフラ整備ともセットで考えられた、地域特性を高めた拠点性が重要だろうと思います。すでに中央道と圏央道が結節する八王子インターチェンジ周辺でその兆しも見えますし、一般の道路でも成功している「道の駅」という例もありますから、消費地に近いことを考えると、多摩地域は農業という一次産業に、工夫の余地があるかも知れません。
多摩ニュータウン「集約型地域」へ再編
東京都長期ビジョンのなかで打ち出した「少子高齢・人口減少社会におけるこれからの都市構造」政策指針の具体的な政策対象のひとつが、多摩地域だ。拡散した市街化地域は、業務、商業、福祉、文化、交流といった多様な都市機能を集積させる。周辺の住宅地とともに職住が近接した魅力ある拠点形成をめざす、「集約型地域構造への再編」が考えられている。
多摩ニュータウンも、南多摩尾根幹線整備推進による広域的道路ネットワーク形成と、業務・商業用途への土地利用転換誘導や分譲マンションの建て替え支援や老朽化した都営住宅の計画的建て替えなどによって、駅を中心としたコンパクトシティーによる再生を目指している。
多摩には、例えば舛添要一東京都知事も強調する、豚肉のブランドである「TOKYO-X(トウキョウ-エックス)」があります。その意味で多摩地域は、農業の地域ブランド化の可能性があります。農産品の東京ブランドです。地域ブランドをどう高めるか、また東京都がどう後押しできるか。都庁内でもこうした取り組みについては、(担当部局である)産業労働局だけの問題ではなく、都市づくりの視点からも考えていかなければなりません。
都市とは高層ビルがあって大規模な商業施設がなければならないわけではありません。都市というのは、そこで企業活動が行われたり、生活が営まれたりする、言わば器うつわです。そこでどういったブランド力を高めるかということともセットで考えなければならないと思います。多摩には酒造もありますね。もう少しブランド化ができないか考えています。
―都心の開発についてはどのようにお考えですか
国際戦略特区などの新たな取り組みも必要ですが、東京が高度成長期に整備した施設も更新しなければならない。その時期が来ています。例えば神宮外苑野球場が整備されたのは大正期です。こうしたものを作りかえて、球技のメッカになるように整備していきたい。現地建て替えが難しい病院などの更新についても、手だてを講じる必要があります。例えば築地や青山地区などで使えそうな土地がないわけではありません。これを仮移設地などにうまく使って、都市の機能更新につながるように土地を使っていくことが必要です。これは有楽町でも同じです。旧都庁舎跡の活用を、周辺の古い民間ビルの建て替えとセットで考えていくことが大事です。
池袋が都市再生緊急整備地域に指定されました。願わくば、駅舎の改造も含めながら周りの市街地と一体的に動かされることを望みます。ここで大丸有(大手町・丸の内・有楽町開発)と同じことをしても意味がありません。池袋は埼玉へつながる鉄道路線のターミナルになっていますから、商業的な集積があります。歩行者空間を拡大して利便性の向上を図ることも考えられます。
成熟した都市で新たに生まれた空間を、今後どのように使っていくかを考えることが、都心部のまちづくりでは問われてくるのです。
こうした都市づくりは市場に任せても出来ません。東京都という行政が、われわれはこう考えているというビジョンを示す必要があります。そのために、長期ビジョンを策定したわけですが、都市整備局では今後、都市づくりに照準を当てて30年先を見据えた、都市づくりのグランドデザインを提示しようと考えています。そのために今年度から作業をスタートさせました。30年というのは、淀橋浄水場跡に新宿副都心が出来てから大江戸線がつながるまでに、30年かかっています。大丸有も、大手町と丸の内は完成に近づいてきましたが、構想発表から30年はかかります。渋谷も品川もそのくらい時間がかかると思います。そう考えると、都市づくり、大きなプロジェクトの効果が見えてくるまでには30年くらい必要だと言えます。30年先はどうなっているか、またはどのようになっていなければならないのかを示すことが、民間にとっても必要とされています。その意味で、グランドデザインを示すことは非常に重要です。
都市づくりのグランドデザインには今年度に着手し、平成29年までは出したいと思います。五輪後に成熟都市として磨きをかけた東京の姿を、少なくとも五輪前には提示しなければなりません。
ここでは東京全体の都市像と、池袋など拠点地域の地域像も出していきたいと思います。