定時性、アクセス性、走行安全性、防災力が向上
首都高速中央環状線は、首都圏3環状道路のなかで、都心から半径約8㎞と最も内側に位置する、総延長約47㎞の環状道路だ。1960年代の構想から、昭和57年(1982)に一部供用開始。その後、段階的に整備が進み平成27年(2015)3月に最後の区間である大井ジャンクション(JCT)(品川区八潮)から大橋JCT(目黒区青葉台)の約9.4㎞が開通し、これにより全線が開通した。
中央環状線を始め首都高速道路を建設・維持・管理する、首都高速道路㈱(首都高)は、中央環状線全線開通によって、「直接的、間接的にさまざまなストック効果が生まれている」と説明する。
直接効果として注目されているのが、「渋滞緩和効果」だ。同社は、全線開通後3カ月後と開通前の前年同期を比較した交通量の変化を調査。その結果を踏まえ、「中央環状線全線開通によって都心に集中する交通の分散が図られ、中央環状線内側の利用交通量が約5%減少し、渋滞損失時間は約5割減少した」と渋滞緩和効果を強調する。
特に、「浜崎橋JCTの渋滞がほぼ解消したことは非常に大きい」(同社)。中央環状線全線開通前には、代表的な渋滞個所と言われてきた浜崎橋JCT付近を始め、中央環状線内側を通行せざるを得なかった車両が、全線開通によって中央環状線を利用することで、中央環状線内側の渋滞損失時間が半減した格好だ。
渋滞緩和の効果は、渋滞損失時間半減という直接効果とは別に、物流の効率化といった各産業界とその従事者の生産性向上や観光活性化など、新たな経済効果ももたらしている。実際、中央環状線全線開通へ最後の区間として残っていた首都高速湾岸線から同3号渋谷線の接続区間が平成27年3月に開通したことで、羽田空港や京浜トラックターミナルまでのアクセス性が向上した。
首都高は、中央環状線全線開通の効果として挙げる、交通の定時性やアクセス性向上について、「羽田空港を起点にして、移動圏域が最大3割拡大した」と分析している。羽田空港から1時間で移動出来る範囲は、これまでの40㎞圏から、50㎞圏へ拡大したという。移動圏域拡大は、配送時間短縮に伴う物流の効率化など物流業界の生産性向上に寄与するだけでなく、観光面でも観光目的地の拡大や観光客の滞在時間延長など観光活性化につながる。
実際、大手旅行会社へのヒアリングでも、「これまでと同じ日程の旅行ツアー企画に新たな観光地を加えることも可能となり、お客様の満足度向上につながる」といった声が挙がっている。「都心部での移動時間短縮が、旅行ツアーの企画検討や高速バスのダイヤ改正につながり、観光地など、より広域的な経済活動に好影響をもたらすことが期待される」(同社)と、道路ネットワーク整備進展には多面的な効果があることを強調する。
東名・第三京浜から横浜港まで、首都高「横浜環状北線・北西線」
神奈川・横浜圏域「ヒト・モノ」流れ変わる
首都高の新設道路ネットワーク整備には、首都高横羽線・生麦JCTと第三京浜道路・港北IC(インターチェンジ)をつなぐ「横浜環状北線(約8.2㎞)」と、第三京浜・港北ICから東名高速道路・横浜青葉ICを結ぶ「横浜環状北西線(約7.1㎞)」もある。これらは横浜環状道路計画の一環。「横浜環状北線」は平成28年度内に完成予定で、完成すれば新横浜から羽田空港までの所要時間はこれまでの40分から30分と10分短縮する。中央環状線全線開通と同様、アクセスの選択肢が新たに増えることで、さまざまな効果が生まれそうだ。
首都高では、横浜環状北線開通によって、横浜港から第三京浜が直接つながることで、「地域の活性につながる」と経済的な波及効果にも期待する。第三京浜港北IC付近は、すでに港北中部工業集積地域・内陸北部工業集積地域と新横浜新都心が立地、横浜環状北線開通により、「生活道路との棲み分けによって、生活道路を走行する(工業集積地域からの)トラックの数を軽減できる」(同社)ことにも期待を寄せる。
また、平成33年度(2021)までの事業期間を予定している「横浜環状北西線」が開通すると、東名高速道路と横浜港が直結することになり、神奈川・横浜だけでなく、日本の重要港湾のひとつ横浜港を起点にした物流効率化がさらに進むほか、災害など非常時の道路ネットワークのリダンダンシーの役割も担うことになる。
※横浜環状道路 | 横浜市の交通ネットワークの骨格として、横浜都心から半径10-15㎞に位置する自動車専用道路計画。 横浜環状北線、同北西線はその一部を担い、北西線については横浜市と共同で整備を進めている。 |
世界一の都市・東京実現へ首都高が大規模更新開始
東品川・鮫洲に続き高速大師橋など
高度成長期以降、東京だけでなく日本経済全体の牽引役を担い国民生活の向上に寄与した首都高速道路も、整備から50年を経過し老朽化への対応に迫られている。道路区間によっては修繕に止まらず、既存区間を造り直す、「大規模更新事業」も始まっている。今後さらに都市として成長をめざす、首都・東京で、長期にわたる道路の安全・安心を確保する「次世代投資」が、首都高速道路大規模更新事業の使命だ。
首都高の大規模更新事業として計画されているのは、1号羽田線の「東品川桟橋・鮫洲埋立部」と「高速大師橋」、3号渋谷線の「池尻・三軒茶屋」、都心環状線の「竹橋・江戸橋(日本橋区間)」と「銀座・京橋(築地川区間)」の5事業。
すでに大規模更新事業初弾として、1号羽田線の「東品川桟橋・鮫洲埋立部」については、平成38年度(2026)完成に向け今年28年6月から本格的な工事に着手した。また平成36年2月末までの工期を設定した同じ1号羽田線「高速大師橋」も発注公告を公表。「高速大師橋は設計と施工の契約を分離する2段階の契約を採用し、平成29月11月に工事着手の予定」(同社)と、発注方式についても工夫していることを強調する。
1号羽田線では、長期にわたる道路の安全・安心を確保するための更新工事を行うため、湾岸線から羽田線へ向かう「大井JCT」の経路が、6月8日から平成31年(2019)9月末までの長期通行止めに入った。また2020年オリンピック・パラリンピック時に羽田線の利用を可能にするため、東品川桟橋・鮫洲埋立部では迂回路を設置し対応する予定。さらに、3号渋谷線「池尻・三軒茶屋」更新事業は、「床版取り替えのほか、(高速道路の構造が)東急線などと一体構造であり、地下構造物の補強も必要。また、更新事業と合わせて渋滞緩和に寄与する付加車線の増設も実施する計画であり、本格的な工事着手は五輪以降になる見込み」(同社)とする。
これまで、インフラのストック効果によって東京の発展を支えてきた首都高速道路も、老朽化対応を契機に大規模更新を順次行うことで、より安全で渋滞緩和にも寄与するインフラのストックとして生まれ変わろうとしている。
高速1号羽田線。東品川2丁目(右)から東大井1丁目(左)の約1.9kmで、 首都高速道で初めての大規模更新事業が行われる(写真提供:首都高速道路(株)) |
首都高速都心環状線 築地川区間に空中権
老朽化対策+ 沿道民間開発に官民連携も
首都高速道路の老朽化に伴う大規模更新事業が進むなか、都心環状線・築地川区間(銀座~新富町)で、一風変わった新たな取り組みの検討が進んでいる。半地下構造の築地川区間の道路上空に蓋ふたをして、蓋をした新たな人工地盤で生まれる空中権を周辺の開発者に売却、空中権を買い取った開発者は買い取った分の容積率を上乗せして再開発をする案だ。言わば、「道路の老朽化対策」と「都市再生」を一体的に進めるもの。このアイデアには、国土交通省の前大臣が現地視察するなど前向で、国交省は首都高や東京都のほか地元の中央区などを交えた検討の場を設置し、現在も議論を重ねている。
平成25年6月12日、首都高速都心 環状線築地川区間を視察に訪れた 太田昭宏国土交通大臣(当時) |
築地川区間は昭和37年(1962)供用で、すでに完成から50年が経過したうえ、「銀座S字カーブ」と呼ばれる急カーブの危険性が従来から指摘されてきた。そのため、線形見直しも考慮しつつ、老朽化対策を進める予定だ。関係機関との調整を進めながら、2020年オリンピック・パラリンピック後に着工し、平成40年度(2028)の完成を予定している。
また、関係機関などとの調整によって、立体道路制度活用などによる、道路老朽化対策と周辺まちづくりの一体整備が実現するか、今後大きな関心を集めそうだ。