浸水被害激減、地域経済にも貢献
国土交通省関東地方整備局が整備した、首都圏外郭放水路は、大落古利根川、幸松川、倉松川、中川など、中川・綾瀬川流域の中小河川からあふれる水を、立坑から地下に取り込み、地底50m、全長6.3kmの地下トンネルを通して江戸川に流す地下放水路だ。東京都内の中小河川豪雨対策として事業が進む地下調節池は、複数の中小河川からあふれる水を地下構造物に一旦貯めて、中小河川の水位が戻った段階で戻す。これに対し首都圏外郭放水路は、中小河川に雨水を戻すのではなく、大河川である江戸川に流す、新たな地下河川だ。
事業は水害に強い街づくりをめざす「中川・綾瀬川総合治水対策」の大きな柱として、平成5年(1993)3月に工事着手し、およそ13年の歳月をかけ18年6月、大落古利根川から江戸川までの通水を実現させた。
溢れる水を地下から江戸川に排水
首都圏外郭放水路は、▷中川など各河川の水位が一定まで上昇すると立坑に流れ込む「流入施設(越流堤)」、▷洪水を取り込んだり管理車両搬入など維持管理面の役割を担う「5つの立坑」、▷立坑をつなぎ毎秒200㎥(25mプール1杯分)の洪水を流すことが可能な「地下トンネル(河川)」、▷地下トンネルから流れてきた水の勢いを弱め江戸川へスムーズに水を流すための「調圧水槽」、▷調圧水槽の水を江戸川へ排水するとともに流入施設の操作や全体施設を集中的に監視する役割の「排水施設(庄和排水機場)」で構成されている。総貯水量は約67万㎥、立坑は直径30m、深さ70mのスケール。
首都圏外郭放水路による治水効果は大きい。平成12年7月、中川・綾瀬川流域で160㎜の雨量を記録した台風3号の襲来では、浸水面積137ha、浸水戸数248戸と大きな被害を受けたが、放水路完成後の18年12月、低気圧により172㎜の雨量を記録した時には、浸水面積が33ha、浸水戸数も85戸と大幅に被害が軽減された。
また首都圏外郭放水路の基幹施設のひとつである調圧水槽は、地下空間に巨大な柱が59本立ち並ぶ神殿を思わせる風景で知られ、隣接する庄和排水機場内の学習・事業PR施設とともに、多くの見学者を受け入れている。
内水氾濫を抑える
国交省 新たな道しるべ「7つ星」策定
東京圏など都市部の局所的豪雨(ゲリラ豪雨)被害を招く要因として問題視されているのが、「内水氾濫」だ。豪雨で堤防を越えて川の水があふれる「外水氾濫」に対し、市街地に降った大雨が行き場を失って地表にあふれる洪水被害を内水氾濫という。氾濫被害に占める内水氾濫被害額の割合は、全国ベースで見ると3割程度だが、東京都に限定すれば9割に迫る。こうした深刻な都市型水害である内水氾濫を抑えることを目的として国土交通省は4月、「新たな〝七つ星〟が内水による浸水被害軽減を導く」をキャッチフレーズに、ガイドライン、マニュアル、技術資料など7つの内水浸水対策支援を公表した。ガイドライン類の策定によって、内水氾濫対策に取り組む自治体を支援する。
これまでも、▷都市における浸水対策の新たな展開(平成17(2005)年)▷下水道浸水被害軽減総合事業の創設(18年)▷下水道総合浸水対策計画策定マニュアル案(18年)▷内水ハザードマップ作成の手引き案(21年)などさまざまな対応がなされてきた。これにもう一段の取り組みを加速させたのが、「新下水道ビジョン」(26年)と「新しい時代における下水道政策のあり方」(社会資本整備審議会答申)を受けた下水道法と水防法改正(27年)だった。改正によって、官民連携による浸水対策推進として「浸水被害対策区域」制度の創設や雨水排除に特化した下水道整備(雨水公共下水道)を可能にするとともに、水防法で内水などよる浸水想定区域制度を創設。今回の7つのガイドライン類策定は、こうした流れを受けたものだ。
① | 雨水管理総合計画策定ガイドライン案(新規) | 下水道で浸水対策を実施すべき区域などの検討 |
② | 官民連携した浸水対策の手引き案(新規) | 「浸水被害対策区域」の指定 |
③ | 下水道浸水被害軽減総合計画策定マニュアル案(改定) | 浸水シミュレーションに基づくストックを活用した計画策定 |
④ | 水位周知下水道制度に係る技術資料案(新規) | 水位周知下水道における内水氾濫危険水位の設定など |
⑤ | 内水浸水想定区域図作成マニュアル案(改定) | 内水浸水想定区域図の作成 |
⑥ | 下水道管きょ等における水位等観測を推進するための 手引き案(新規) |
下水道の水位観測計画の策定 |
⑦ | 水害ハザードマップ作成の手引き(改定) | 避難方法などを踏まえたハザードマップ作成 |
コンパクトシティ+ネットワーク 市長「春日部市が模範になれば」
外環道と外郭放水路整備で企業立地も増加
首都圏外郭放水路の調圧水槽内部視察に先立ち、庄和排水機場施設内にあるPR施設・龍Q館で概略説明を受ける国交省計画部会委員。 |
関東地方整備局も参加し、春日部市庁舎内で行われた意見交換には、石川市長のほか立地企業3社も出席。立地を決めた理由や、個別の浸水被害対策などについても説明した。 |
東京外かく環状道路(外環道)整備による道路ネットワークや、大雨の浸水被害を防ぐための首都圏外郭放水路整備。こうしたインフラ整備によって建築需要や企業立地を誘発する「インフラのストック効果」が表れているのが、埼玉県春日部市(石川良三市長)だ。春日部市は、東京を起点に半円状に整備されている国道16号と、東北方面に放射状に伸びる国道4号・国道4号バイパスが結節する交通の要衝だった。一方で同市域は水害常襲地域でもあった。この水害を劇的に抑えたのが、首都圏外郭放水路だ。国土交通省の社会資本整備審議会・交通政策審議会交通体系分科会計画部会は、平成27(2015)年に閣議決定された社会資本整備重点計画を踏まえ、計画のフォローアップの一環として5月に同市を訪れ、首都圏外郭放水路を視察、石川市長や立地企業と、インフラ整備による安全・安心の確保、生産性向上などストック効果の視点で意見交換を行った。
意見交換で、計画部会委員から投げかけられた質問に対し、出席した立地企業3社は一様に、「外郭放水路とその効果」を立地理由の一つとして挙げた。春日部市は平成14年度の首都圏外郭放水路部分通水の後、同市が指定した産業指定区域に新たに進出した企業は、27年度までに29件(内訳は流通業17件、製造業6件、商業6件)に上っていることを説明。交通の要衝であり、首都圏外郭放水路整備によって、水害に強いまちとして企業誘致が進んでいることを示した形だ。
石川市長は出席した計画部会委員に対し、「国交省の100mm/h 安心プラン指定を受け、今後さらに対策を進めることで、コンパク トシティ+ネットワークの模範になれば」と強調した。
100mm/h安心プランの概要 |
100mm/h 安心プラン
従来の計画降雨を超える、いわゆる「ゲリラ豪雨」に対し、住民が安心して生活できるように、住民・団体や民間企業なども参画して役割分担を決め、住宅や市街地の浸水被害を抑えるための取り組みを定めた計画。平成25年4月からスタートしている計画策定は、市町村や河川・下水道管理者などで、国土交通省の水管理・国土保全局長名で登録する。
安心プラン登録は公表され、社会資本整備総合交付金 などによる支援がある。また住民も参加することで、地 域防災への意識が高まることも期待されている。