「レインボーブリッジをくぐれない」
東京都が管理する「東京港」とは、荒川河口から羽田空港D滑走路、その南側にある多摩川河口を結んだ線の内側を指す。首都・東京の海の玄関口として首都圏の生活と産業を支える物流拠点機能を持ち、コンテナ貨物取扱量は日本で唯一400万TEU(コンテナ個数単位、20フィート(約6m)コンテナ1個が1TEU)を超える。また大型旅客船ふ頭「晴海客船ふ頭」がある。
観光地を大型客船で巡るクルーズ市場は世界的な成長を続けており、この20年間で4倍に拡大している。これに伴って、クルーズ客船の大型化も急速に進んだ。近年建造された客船はエアドラフト(船体の水面から船の一番高いところまでの高さ)が52mを超えるものが多いと言われる。東京湾から東京港内の「晴海客船ふ頭」に接岸しようとする客船は、手前にあるレインボーブリッジ(海面から高さ52m)を通過しなければならない。
「レインボーブリッジを通過できるのは7万tクラスまで」(東京都港湾局)。
10万tを超える外国船籍のクルーズ客船が増加するも、これらの船は東京港の「晴海客船ふ頭」に接岸できない問題が顕在化していた。近年は10万t級からさらに大型化し、22万t級のクルーズ客船も就航している。
22万t級の世界最大客船にも対応
このように「晴海客船ふ頭」に寄港できない大型クルーズ客船は、レインボーブリッジ手前にある、「大井水産物ふ頭」への寄港を余儀なくされている。実際、設備が整っている「晴海客船ふ頭」に寄港できず、「大井水産物ふ頭」に寄港したケースは、「平成25年から28年9月までに、9万t級と13万tのクルーズ客船で12回」(港湾局)に上っている。また大井水産物ふ頭には、「平日は本来の役割があるため客船寄港は休日だけ」(同)という制約もあった。
海からのインバウンドの制約に対し東京都は、「22万tクラスの世界最大級のクルーズ客船が寄港できるようにして、東京港利用をさらに増やす」(港湾局)ため、レインボーブリッジ手前の臨海副都心地域「船の科学館」先の海上に、東京五輪までに「新客船ふ頭」を整備する。平成31年度の完成をめざし、ターミナルビルの設計等も進められている。インバウンド4000万人時代に対応する世界最大級のクルーズ客船寄港地として、「首都の玄関口」の準備は着々と進んでいる。
日本の中枢港湾のライバル、東南アジアの主要港湾でも22万t級対応が進む。釜山には客船専用ふ頭1バースが、シンガポール、香港には2バースが整備されている。東京の「新客船ふ頭」は、東京五輪までに1バース、五輪後にはもう1バースの整備をめざす。
継続的投資で「世界に誇る都市型総合港湾」へ
東京港 五輪後も見据え第8次改訂港湾計画
今年、開港から75年を迎えた東京港は、日本一の外国貿易コンテナ貨物個数を取り扱う国際貿易港として、首都圏4000万人の生活と産業を支える物流拠点港だ。一方でインバウンドの6割が訪れる東京の都心部を背後に持ち、まちの発展を持続・成長するベイエリアを持つ観光港湾としての顔も併せ持つ、都市型総合港湾でもある。そんな東京港が、世界最大級のクルーズ客船向けの新客船ターミナルビルと新ふ頭整備や、本来の役割である物流機能強化を進める根拠になっているのが、平成26年に策定された「東京港第8次改訂港湾計画」だ。
第8次改訂港湾計画は、10年後の東京港の目指す姿や、求められる取り組みの実現へ向けて、施設整備や空間利用、環境施策をまとめたもの。計画で掲げた「世界に誇る都市型総合港湾・東京港の創造」を実現するための柱は、①世界とつながる国際貿易拠点港、②世界から人が訪れる国際観光港湾、③世界をリードする環境先進港湾、④世界を魅了し未来を切り開く「スポーツ都市東京」、⑤世界に誇れる安全・安心なベイエリア――の5つ。
大型クルーズ船が接岸できる新客船ふ頭の整備も、改訂港湾計画に盛り込んだ国際観光港湾実現のひとつ。このほか、今後も開発が進む青海地区北側を中心にした新たな観光資源化や、海上交通ネットワーク拡充(舟運の活性化)も計画の一環となる。
一方、東京港は国際貿易拠点港として投資も相次ぐ。中央防波堤外側コンテナふ頭の整備に加え、主に東南アジア各国との貨物が扱われる品川、大井、青海の各ふ頭は、船舶の大型化に対応する。また大井ふ頭では、既存ふ頭をコンテナふ頭に転換するほか、木材関連施設がある若洲(15号地)も、コンテナ貨物が主流になっていることを踏まえ、新たにコンテナふ頭を整備する計画。このほか、廃棄物処分によって埋立地が拡大する新海面処分場埋立地に「将来構想としてコンテナふ頭整備を進める」(同)と、東京港の機能強化が目指されている。
ふ頭整備に新規投資を行う若洲、青海、大井、中央防波堤内側・外側を、道路ネットワーク化された東京港臨海道路と357号が囲む。東京都港湾局は「これに加え、この2つの道路を南北につなぐ2本目の道路が整備されれば、交通の便は飛躍的に良くなる。首都港湾として、道路と港湾整備はセットだ」と断言、道路ネットワークと港湾整備のさらなる相乗効果に期待を抱く。
積極的な東京港への投資は、港湾局の当初予算(一般会計)の推移にも鮮明に表れている。港湾局の予算は平成17年度に617億円200万円と「バブル崩壊後最低水準に止まった」が、27年度は1124億7900万円と1000億円台まで回復、28年度も1095億3400万円を確保し、17年度比77.5%増と高水準を維持している。
水辺の都市・東京 「舟運の活性化」にも着手
社会実験で新航路の事業化を後押し
羽田空港の年間利用者数は国内線が約6080万人、国際線約800万人を合わせた約6900万人(平成25年度、国土交通省の空港利用状況概況)。隅田川を挟み4つの船着場が集積する浅草エリアと押上・向島エリアの年間観光客は約6600万人(26年度、墨田区水辺報告書)。青海・台場・有明など臨海副都心エリアの年間来訪者も約5540万人(東京都港湾局)。
国内外から東京を訪れる多くの人たちを、羽田空港エリア、臨海副都心エリア、浅草・押上・向島エリアといった東京の水辺エリアが受け入れている。日本の代表的観光都市である京都市を訪れる観光客が年間5564万人、横浜市が4566万人(いずれも平成25年度)と比べても、これら水辺エリアが上回っている。
それぞれの水辺エリアだけでも観光ポテンシャルは高い。これに注目し、観光への付加価値創造と新たな交通手段定着を目的に、「舟運の活性化」を図る試みが始まっている。羽田空港や臨海部、浅草、日本橋等を含むエリアには、東京都の建設局と港湾局、区、国、民間がそれぞれに設置した船着場が約70カ所ある。設置者と管理者が異なるもの、役割の違い、運航事業者ごとの情報発信、船着場までの案内や誘導が十分といえないなどの課題がある。定期航路を持つ東京都公園協会の「水辺ライン」が使う船着場で、最大の乗船者数がある両国の船着場でも年間7万5000人程度に止まっている。
高い舟運ポテンシャルを生かすため、東京都は平成27年に東京都の交通戦略を具体化するための舟運ワーキンググループを設置、「民間事業者の新たな定期航路開拓の支援」(東京都都市整備局)を目的に、今年8月に羽田・都心・臨海部を結ぶ複数航路の運行を実験的に行う「舟運の活性化へ向けた社会実験」を公表、9月から実施している 。
国交省も支援に動く。今年4月から開始した「船旅活性化モデル地区」運用などで、これまでの規制を一時的に緩和した。航路が確定しない段階で不定期運行する場合、同一航路運行は通常年間3日以内に限定されていたが、社会実験の場合は最大1年間の運行が可能になった。追い風が舟運運行事業者の参加を促す。
舟運活性化社会実験の旗振り役で、庁内の河川と港湾や区などとの調整役を務めている東京都都市整備局は、「民間事業者がビジネス化できるかどうか、さまざまな視点で調査しなければ判断できない。その意味で社会実験として一定期間運行できることは、民間事業者が採算性判断できることにつながり意義は大きい」と話す。
オリンピック・パラリンピックへ向け、舟運を活性化させ、舟運を「水の都・東京」にふさわしい観光・交通手段として定着させるだけでなく、民間事業者の新航路創出、船着場周辺施設のにぎわいや連携を念頭に、社会実験(9月12日から12月11日まで)以降の取り組みも始まった。東京都は、㈱電通を幹事社として電鉄会社や旅行会社、シンクタンク、メーカーなどで構成する「東京舟運パートナーズ」と協定を締結。民間のノウハウを最大限生かしながら舟運の活性化を進める動きだ。
東京都都市整備局は、「都が自ら運行することはない。今後も民間事業者の定期航路創設を後押しするため、さまざまな調整役を担っていきたい」と、舟運活性化実現に強い期待を込める。
「明石町・聖路加ガーデン前」船着場。最寄り駅の築地駅から船着場まで案内サインはほとんどない。本来は防災船着場のため、屋根やトイレもなく、利便性向上は各船着場にとって大きな課題だ。 | 正面は、旧石川島播磨重工業(株)(現・(株)IHI)造船所の一部跡。大型船舶を建造していた広大な敷地は、豊洲再開発を経て大型商業施設や高層マンションに変わったが、わずかに残るドック跡とクレーンに、日本の高度経済成長を支えた産業の一端を垣間見ることができる。 |