「夢持てる」グランドデザイン 都心、副都心から個性ある多様な拠点へ
東京都都市整備局が「夢を持てるような計画を考えたい」と強調するのが、2040年代に向けた東京の都市づくりの方向性を示す「都市づくりのグランドデザイン(仮称)」だ。平成29年度をめどに策定を予定しているグランドデザインは、法律上の位置付けこそないが、「大きな都市づくりの羅針盤」(都市整備局)との位置付け。この羅針盤に基づいて実際の事業が法定計画に埋め込まれていくため、グランドデザインは今後の都市づくりに関連する新たな事業の可能性を示唆する。
都市整備局が検討を始めたグランドデザインのたたき台となるのが、平成28年9月に東京都都市計画審議会が小池百合子知事宛に提出した答申「2040年代の東京の都市像とその実現に向けた道筋について」だ。
答申は、2040年代に想定する社会変化の見込み、2040年代に果たすべき東京の役割、2040年代に目指すべき東京の都市像、都市像の実現に向けた取組の方向性などから構成されている。
答申には、都市づくりの目標として、①経済活力の向上のための拠点づくり、②人・モノ・情報の自由自在な交流の実現、③災害リスクと環境問題に立ち向かう都市の構築、④ライフスタイルに応じて選択できる場の提供、⑤生活を支える拠点への集約化と多様なコミュニティの創出、⑥四季折々の美しい緑と水を編み込んだ都市の構築、⑦芸術・文化・スポーツによる都市の新たな魅力の創出――の7つを明記。今後策定するグランドデザインは、「7つのテーマ(答申では目標)に沿って施策を考えていく」(都市整備局)方針だ。
また、「挑戦の場となる個性ある多様な拠点への再編」と題して、「東京が成熟した都市へ移行し、新たな挑戦の可能性を育んでいくためには、従来の都心、副都心、新拠点、核都市といった業務機能を重視した受け皿の育成の視点から脱却して、地域の個性やポテンシャルを最大限発揮し、競い合いながら、新たな価値を創造するという視点へ転換し、拠点を再編することが重要である」と、多様な拠点整備への転換を促した。
都市整備局は、「個性ある多様な拠点への再編は、答申の大きな特長」としたうえで、策定するグランドデザインについて「2020年以降の持続的な成長に結びつけていきたい」、「都民にどう分かりやすく伝えていくかも考えたい」と話す。
まちづくりにも波及する連続立体交差化
安全・安心な生活や街の活性化につながるインフラ事業として、「連続立体交差事業」が着実に進んでいる。連続立体交差事業とは、鉄道の一定区間を高架化または地下化することで、道路と交差する踏切を無くし、鉄道と交差する道路を立体化させるもの。鉄道事業者も負担するが、東京都などの地方自治体が事業主体となり、社会資本整備総合交付金や防災・安全交付金なども使って行う都市計画事業だ。都内ではすでに35の事業が完了し、9カ所で事業が進み、5カ所が準備段階に入っている。
鉄道高架下空間は、都市部の新たな活用空間となり、新しい街の表情を生み出しつつある |
連続立体交差事業は、道路や河川、港湾といったさまざまなインフラ整備と並んでストック効果が目に見える形で表れる事業といえる。事業によって数多くの踏切そのものが無くなり、「開かずの踏切」除却によって交通渋滞を解消、人とモノの流れがスムーズになった。事業整備後の地元住民調査でも、「救急車がすぐ来るという安心感や、子どもやお年寄りの移動の安全など、安全・安心を実感してもらえている実態が浮き彫りになって表れている」(東京都建設局)。
連続立体交差事業について、都建設局は交通渋滞解消以外の効果も挙げる。「立体交差で生まれる高架下空間の有効活用と、まちづくり事業などを一体的に進めることで街の活性化、総合的な都市基盤整備につながる」と強調する。具体的には、「これまでの事業によって生まれたスペースに、保育所やデイサービス、図書館受付窓口、サイクルシェア施設などが設けられ、生活の質向上につながっている。また京成押上線の京成曳舟駅付近では商業床面積が50倍に増え、小田急小田原線下北沢駅付近でも駅周辺のまちの回遊性が30%増加した」という。踏切除却による交通渋滞解消を主目的とした連続立体交差事業だが、駅前広場整備や再開発など総合的なまちづくり事業のけん引役になっている。
これまでの事業で都内にあった踏切395ヵ所が除却されたが、未だ約1050ヵ所の踏切が都内には存在する。また交通渋滞などさまざまな問題を引き起こす「開かずの踏切」は全国532カ所あり、このうち都内に245カ所と半数近くが集中している。
「開かずの踏切」は人とモノの流れの渋滞を起こし、今後も増加が見込まれるインバウンド(訪日外国人旅行者)にも悪い印象を与えかねない。さらに東京都内で見込まれる、個性ある多様な拠点まちづくりでは、連続立体交差事業が契機となるケースも想定される。連続立体交差事業とは魅力ある東京のまちづくり、さまざまな国際競争力の向上につながる取り組みと役割も担っている。
東京都建設局は、開かずの踏切問題について「抜本的対策では連続立体交差事業を、今後も着実に進めたい」と話している。
東京都内の連続立体交差事業(平成28年7月現在) |
港湾機能強化で物流効率化に寄与 外貿拡大受けてバース拡大・再編
首都・東京の海の玄関口「東京港」は、外国貿易でコンテナ貨物の取り扱い個数日本一を誇る、国際貿易港だ。東京港は、本来機能である港湾機能と臨海副都心地域という都市機能が結合した、世界に誇る都市型総合港湾。 東京のみならず、首都圏の生活と産業を支え、また防災面でも重要な役割を担っている。
東京都は、平成26年12月にスタートした「東京港第8次改訂港湾計画」で、外内貿コンテナふ頭の再編・拡充と機能強化、総合的な物流の効率化を打ち出した。貨物の主流を占めるコンテナ貨物の増加と船舶大型化に対応し、ふ頭整備と背後地のロジスティクス機能を強化する。
具体的な港湾機能強化のひとつとして、「平成27年のコンテナ取扱個数は、外国貿易だけでも415万TEU(20フィートコンテナ1個が1TEU)。予測される平成30年代後半の560万TEUに対応する計画」と東京都港湾局は説明する。
今後、増加が見込まれるコンテナ貨物個数に対しては、「品川、大井、青海の主要コンテナふ頭に加え、中央防波堤外側(中防外)に新規3バースを整備することで120万TEU賄える」(港湾局)と機能強化に期待を寄せる。3バースのうち約70万TEUに相当する2バースは、近々供用開始の予定だ。
東京都は、時代の変化に伴う対応にも着手し始めている。現在の貨物運搬はコンテナ積みが主流を占めており、従来のふ頭を用途変更してコンテナふ頭にしたい考えだ。港湾局は、「大井水産物ふ頭と15号地若洲前面の木材関連施設については、将来的にコンテナふ頭に改良、整備していきたい」と説明する。
港湾と道路ネットワークがこれまで以上に直結することで、首都圏の生活を支えるだけでなく物流効率化に寄与することを踏まえ、「民間企業などにとって使い勝手が良い施設を整備し、その能力を上げることが我々の使命」と港湾機能強化が生活と産業を支えるだけでなく結果的に日本や東京の国際競争力向上に寄与する役割を担っていることも強調する。
整備が進む中央防波堤外側コンテナふ頭。完成すれば3バースが並ぶ。 |