西松建設が6年前に開発し、5年前から5件の適用実績を積み重ねているのが、『3D盛土情報管理システム』だ。施工日や施工位置、土質、転圧回数、盛土材料などの管理情報を転圧管理システムで取得。取得した転圧施工データを、3次元ブロックモデル、データベースで一元管理する仕組み。
同社技術研究所の佐藤靖彦主席研究員は『3D盛土情報管理システム』について、「CIMとi‐Constructionに対応したもの。情報の一元管理と現場の3次元化(鳥瞰表示)による施工・進捗と、トレーサビリティ(追跡可能性)の見える化を実現した」ことを特長に挙げる。
佐藤主席研究員 |
具体的なシステムの仕組みは、①GNSS(全地球衛星測位システム)転圧管理システムの2次元データ(施工日、施工位置、土質、転圧回数、盛土材料)など施工データをデータベースに登録、②データベース内に登録された2次元データを3次元モデル用データへ変換。3次元ブロックモデルの属性にデータを割り付けることで、データの全体管理と一元管理を行うことが柱。一連の施工データの属性情報を、3Dブロックで表示・管理することが容易になる。また属性情報を、例えば施工日や盛土材料ごとに色別表示することもできるため、進捗管理といった施工状況を視覚的にすぐ把握出来る。さらに、施工過程を再現したり、施工計画・手順をシミュレーションすることも可能だ。
佐藤主席研究員は、3D盛土情報管理システムの効果について、「土取り場が複数あるような大規模な土工現場でも、どこからの土が、どこにいつ施工されたのか把握できる。また施工過程を再現したり施工計画のシミュレーションや出来形管理も可能。ICT施工とCIMが融合され、施工進捗やトレーサビリティの見える化していく」と説明する。
3D盛土情報管理システムの導入事例(国道45号山田北道路改良工事、盛土工33万m³)。施工時期毎に着色で施工完了した範囲、盛土の進捗が一目で把握でき、工程に反映させることができる。
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用語解説 | |
※ | CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)=計画・調査・設計段階から3次元モデルを導入し、その後の施工や維持管理の各段階でも3次元モデルに連携・発展させ、事業全体にわたって関係者間で情報を共有することで、建設生産システムの効率化・高度化を図るもの。 |
※ | i-Construction(i-Con)=国土交通省が進める、ICT土工などICT(情報通信技術)を全面的に活用する施策を建設現場に導入することで、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組み。IotやAIなど革新的な技術の現場導入や、3次元データの活用を進めるために産学官連携のコンソーシアムも立ち上がっている。 ICTの全面活用のほか、規格の標準化と施工時期の平準化もi-Conとして掲げている。 |
生産性向上最前線
残業時間 6カ月で約1000時間削減 | |
松井建設 | 「国際法務総合センター(仮称)B工区新営(建築)工事」 |
ICT(情報通信技術)を使った生産性向上や、週休二日の拡大と残業時間短縮など実労働時間の抑制に向けた意識と取り組みが、大手・準大手ゼネコンから中堅ゼネコンにまで広がりつつある。松井建設(株)の「国際法務総合センター(仮称)B工区新営(建築)工事」(発注者・法務省)が、(一社)日本建設業連合会の2016年度快適職場表彰で優秀賞に選ばれた。大手ゼネコン各社が他工区の現場事務所を構えるなか、「当社の現場事務所だけ夜中まで電気がついていた。カルチャーショックを受け、悔しさで一杯になった」(追川順一作業所長)。その現場事務所は、どのように作業効率と業務改善を行ったのだろうか。
「自社だけ夜中まで」悔しさバネに
松井建設が施工した「国際法務総合センター(仮称)B工区新営(建築)工事」は、職員向け共同住宅354戸を4棟に分けて建設するもので、同社にとっては規模の大きな工事だった。
業務改善に至った経緯を語る 追川所長 |
現場は東京都昭島市内の立川基地跡地。他工区の複数事務所とともに建ち並ぶ松井建設の事務所と同社の現場とは800mほど離れていた。現場と工事事務所との距離が、業務効率を阻む大きなハードルだった。
複数の大手ゼネコンと隣り合う松井建設の工事事務所。同社の追川所長はその後の業務効率と日建連快適職場表彰につながるきっかけとなる出来事を体験する。
「当社の事務所だけいつも夜中まで電気がついていた」。
大手ゼネコンと自社との、業務対応の違いを目の当たりにした。
複数工区の複数元請けが連絡・調整を行う施工者会議が開かれる。会議に臨む大手ゼネコン職員が手にしていたのはタブレット端末だった。それに対し松井建設の職員は図面を抱えて現場での業務に追われていた。事務所では若手技術職員たちは、溜まった事務作業を夕方から夜遅くまでこなさなければならなかった。追川所長は「このことが業務効率化を考えるきっかけになった」と説明する。
さらに松井建設が昨年に掲げた、「残業時間 月60時間」の目標が追い風となり、現場としてさまざまな取り組みを開始することになる。
タブレット導入情報共有で業務を改善
現場で使い込まれたタブレット。 保護シールに大きくシワが寄る |
その筆頭が、現場事務所全職員へのタブレット端末の支給だった。特に効果を上げたのが、さまざまな立場での各種検査への対応を、従来の手書きからタブレットへ移す。指摘された事項などはリアルタイムにデータ化して共有、検査で指摘された専門工事業者に対する不具合の手直しの指示書もすべて一元管理することで、「大幅な業務削減につながった」(追川所長)。
実際、検査だけでも、①業者(専門工事業)の自主検査、②施工会社(松井建設)の検査、③監理者検査、④法務省の監督員検査、⑤完成検査――と5段階にわたる。同社は4棟を施工したため、計20回分の検査の時間について業務を効率化した計算だ。
タブレット導入以前は、「朝9時から5時まで検査の立ち会いをして、夕方5時から調書作成や指示書をコピーして業者への手配を行うのは夜10時過ぎ。翌日にずれ込むこともあった」(追川所長)。
それがタブレット導入によって、立ち会い時の指摘をリアルタイムにデータ化することで、5時の検査終了後の1、2時間後には調書が完成、その時点で職種・業者ごとの指示書や不具合部分の写真も合わせてメールでの送信が可能となった。手書き書類のコピー削減、ペーパーレスに伴う時間や経費削減という効果だけではない。写真がひも付けできるメリットについて追川所長は「データであればその部分だけの拡大も可能。例えばビニールクロス不良という指摘があった場合、どの程度の不良なのか、材料が余計に必要なのかどうかなど、写真で相手(専門工事業者)に伝えられることが非常に大きな効果だった」と説明する。
さらに、「複合的な手直し、例えば下地を直して塗装を塗り直さなければならない場合、先に塗装屋さんがきても作業は出来ないが、あらかじめ写真を見ればどのような状況か、専門工事業者・職人さんは判断できる。また当社の若手技術者が、職人さんにうまく伝えたいけど伝えにくいという時でも、写真をつければ状況を共有できる。写真によって情報を発注者・元請け・下請け・職人まで共有できたのは、業務効率という側面で非常に大きかった」と話す。
専門工事業にとっては現場内の詰め所(下請企業の職人たちの休憩所)にネットワークプリンターを設置し、元請けからの指示書もすぐ印刷でき、800m離れた工事事務所に寄る手間も省けた。
また追川所長はタブレット導入・効果の前提として、従来の手書き調書ではなく、検査アプリの活用を発注者(法務省)から了解してもらえたことを上げた。
アプリを使って業務効率化を図る |
今回、残業時間を減らしながら、手直し作業の手配もスピーディーに行うことができ、専門工事業・職人にも対応時間の余裕ができたことについて、追川所長は、「各種検査にかかる残業時間だけを考えても、端末導入で職員1人で4時間削減の12人分の検査回数20回で960時間と約1000時間に達する。仕上げ検査は6カ月で20回行っており、つまり6カ月で約1000時間の残業時間を減らした形となる」。
このほか現場で取り組んだのが、毎週水曜日には元請けだけでなく専門工事業の職人たちまで全員が午後6時には退場する「フレッシュアップデー」と、元請けの工事事務所で導入した、「コアタイム(事務仕事を集中的に行う時間設定、午後2時から午後3時までの1時間)」の2つだ。
「コアタイム」と呼ぶ午後2時から午後3時の1時間は、「会社から現場作業所に電話をしない」、「外部からの電話は事務員と所長が対応する」――ことを決めて、業務の時間設定や職員の効率意識向上を目指したのが特長だ。追川所長は、タブレット導入に伴う省力化・生産性向上などの業務改善や残業時間の大幅短縮だけでなく、フレッシュアップデーとコアタイム導入によって「強制的に事務業務をこなす時間を設定したことで、少ない時間で効率を上げようという意識が職員の間に高まり、業務に前向きになるとともにオン・オフの時間のメリハリもついたことが大きな効果だ」としたうえで、「最初、大手ゼネコンの現場は仕事が早く、なぜ当社の現場だけが遅くまで仕事が残るのか、ショックと悔しさで一杯だった。どうしたら改善できるのか、業務効率を考えるきっかけになった。結果的には、職員と議論を重ねその要望を会社が後押ししてくれたのが、日建連の快適職場表彰の受賞につながった」と話す。
現場で撮影した画像は、タブレット端末を通して共有される |