吊荷旋回制御装置。カラートラッキングにより吊荷を取付角度にリアルタイムに旋回させる吊荷旋回制御装置。約10tの部材を15秒で90度旋回できる。 |
戸田建設価値創造推進室技術開発センター・技術研究所施工革新ユニットの三輪明広サブマネージャーは、「建物が完成するまでの間、躯体から仕上げ工程に至るまでさまざまな工程で接合作業と接合に係わる作業だけで全体作業の約6割を占めていると言われている。建物は接合部のかたまりであるといっても過言ではない。接合に関する作業を、ロボットや自動化技術で簡略化すれば、労働集約型から脱却でき生産性も向上する」と説明する。
このため、接合作業に必要な職人数の削減と作業軽減につながる
①鉄骨柱自動計測・自動建入れ制御システム
②鉄骨梁の仮ボルト不要接合工法
③接合に係わる自動化施工技術である吊荷旋回制御装置
といった技術を開発し、現場に適用して検証を続けている。例えば①は、鉄骨柱の自動計測を導入することにより、計測工が削減できるほか、作業に携わるとび職人が安全施設整備作業等も行うことにより、「労働環境が変わり施工効率も上がる」(三輪サブマネージャー)効果も期待できる。
三輪明広サブマネージャー |
このほかクレーンのジブ先端に衛星測位システムのアンテナを設置し、リアルタイムで吊荷の位置を平面図に表示。熟練していないオペレーターでも取付位置や荷取位置を選択するだけでタワークレーンの能力を最大限に発揮できる「タワークレーン自動誘導システム」の現場検証への準備を進めているほか、三輪サブマネージャーは「年度内には仕上げ工事で使われる資機材を現場内で垂直搬送または水平搬送を自動で行う、仕上材垂直・水平搬送システムも稼働させたい」と、躯体・仕上げを問わず、地上建築物の自動化施工の進展と大幅な生産性向上に強く期待を寄せる。
鉄骨柱の自動計測・自動建入れ制御システムと仮ボルト不要接合工法、吊荷旋回制御装置を採用した建築案件では、同時に在来工法も採用し、人工と時間の検証もしている。その結果、躯体部分だけでも新たな取り組みで作業が在来工法の4分の1程度で済むなど、同社が強く進める生産性向上実現への道筋が見え始めている。
仕上材垂直・水平搬送システム。無線で情報をやりとりするタグを仕上げ材を載せた台車に取り付け、台車はリフトやSLAMを使ったAGVによって所定の階・場所まで運ばれる。年度内にも導入する見込みだ。 |
用語解説 | |
※ | AVG=無人搬送車 |
※ | SLAM=自律走行する移動ロボットがGPS衛星などに依らずに正確な自己位置を推定する仕組み。ロボットは地図を作り、カメラや赤外線レーザーから得られた周囲の情報を使って自分の位置を正確に推定する。 |
※ | RFID=無線で読みとれる電子タグ。非接触ICカード等に応用されている。このシステムでは仕上げ材を載せた台車に行き先を登録したRFIDタグが付けられている。 |
鉄骨柱自動計測・自動建入れ制御システム。鉄骨図の3次元データ等で建入れ位置を自動計測し、ジョイント部の建入れ装置を自動制御する。計測工が削減できる。 |
生産性向上最前線
人口と住宅着工戸数の「減少」に備える | |
大同ポリマー |
「防水工事+基礎工事」多能工化を開始 |
今後の建設市場動向に、建設産業界は大きな関心を寄せている。建設市場は大きく住宅と非住宅に分かれる。このうち、国内景気やグローバル動向に左右される非住宅に比べ、住宅市場は人口動態や世帯数の増減が直接影響を与える。日本の人口全体が減少局面を迎えるなか、14歳以下の若年者層と15歳から64歳までの労働人口(生産年齢人口)が減少の一途を辿る一方、人口に占める65歳以上の高齢化率が高まることから、今後の住宅の新規着工件数増加に期待は持てず市場減少の可能性も示唆している。そのため、人口と住宅着工戸数という2つの「減少」に備える動きが、建設業界で始まった。
派生ニーズも増える
民間の住宅建築工事を中心に防水工事を施工する専門工事業、(株)大同ポリマー(本社・日野市、吉田幸治代表取締役社長)は、本業の防水工事に加え、住宅の基礎工事の施工も手がけ始めた。これまでの防水工事に加えて基礎工事作業が加わる、いわゆる職人の「多能工化」につながる。
吉田幸治代表取締役社長 |
同社の吉田社長は、多能工化による基礎工事参入について、「人口減に伴い、住宅着工戸数は今後、3割程度減少する可能性がある」としたうえで、「発注者(ハウスメーカー)からも基礎工事を施工出来ないかという要望があった」ことを理由に挙げた。
「当社の基本は防水工事。最近の住宅はシロアリ対策として床下の水分を嫌がる。このようにベランダや屋根といった本来行われてきた部分の防水だけでなく、基礎工事でも防水ニーズは高まっている。また基礎工事で使われているコンクリートの中性化を防ぐために塗装したり、問題のないクラックも塗装で消すなど、防水工事から派生する業務のニーズは基礎工事でも確実に増えている」と吉田社長は、本業である防水工事と新たな業務となる基礎工事を手がけることで、売り上げ拡大につながることに大きな期待を寄せる。
防水工事作業を行う基礎工事も手がける「多能工化」をスタートさせたのは一昨年(平成27年)。「新たに職人が仕事を覚える必要があるが、多能工化で収入は確実に増えるため、社内職人からも多能工化に反発はなかった」。
売り上げ増、職人に安定収入
防水工事と基礎工事の多能工化は、仕事量の繁閑調整、平準化にもつながりつつある。「防水工事は雨の日には作業が出来ないが、基礎工事は雨の日でも作業が可能。その結果、職人の収入も安定する」効果も出始めた。とは言え新たな業務への参入による多能工化で収益を上げることには苦戦を強いられている。取り組みを始めた一昨年度、5件の基礎工事全てが赤字だった。吉田社長は赤字を、「基礎工事に慣れていなかったため砂利の深さが指示された以上になるなどの、余分な工事の発生が理由だ」と説明する。
基礎工事にも防水工事のニーズが高まっている。 |
基礎幅木に美装仕上げ塗材を施工する。コンクリート内部への水の侵入を防ぎ、劣化の原因となる中性化を塗膜で防ぐ。 |
多能工化を進めて2年が経ち、売り上げは15%程度アップした。今後の展開について吉田社長は、「今秋からは本格的に基礎工事を始め、1年後には毎月100棟程度手がけることを目指している(現在手がける多能工工事は毎月5、6件)」と業容拡大に強い期待を寄せる。
さらに工期短縮を始めとする生産性向上への取り組みが、受注競争力の源泉になっていることを踏まえ、「札幌市の構造設計会社が保有する、基礎の一部PC化工法の導入も予定している」と話す。「顧客からは防水工事ですでに信頼を得ているのでコスト競争力を高め、基礎工事の分野でも供給力を増やす」のが狙い。「設計図や工事図面が読める海外の技術者採用を検討、公共工事への参入についても検討を進める」方針だ。
わが社の担い手確保・育成
林建設 |
大手と競争しない独自戦略 |
将来を担う人材を確保するための新卒の採用。人材確保競争が激化する中で、企業規模が大きな大手や準大手企業を相手に、中小企業は苦戦を強いられている。第2回は、東京・調布で創業して110年を超える「林建設(株)」に注目した。地元企業ならではの特徴と独自戦略で担い手確保・育成への活路を見出している。
「採用状況は非常に厳しい」、「もう大手や準大手ゼネコンには太刀打ちできない」と新入社員採用の厳しさを口にするのは、林建設で採用を担当する総務経理部の小山晃一郎課長だ。以前は同社にも、大学や専門学校などが行う学内セミナーに参加の声が掛かっていたが、「今は声を掛けてもらうことも少なくなった」。小山課長はこの背景として、「学生が地元重視という志向に変化している。親御さんも子どもの就職先として名の知れた企業を勧める傾向が強い」ことを挙げる。
同社は大学卒、専門学校卒を中心に採用競争する方針を転換、この3、4年は「工業高校生の求人に採用の軸足を移した」(小山課長)。
小山晃一郎 総務経理部課長 |
工業高校生の採用に軸足を移した時、強みのひとつは野球だった。同社が先代オーナー時代から地域貢献活動として始めていた「調布リトルリーグや(中学生向けの)リトルシニアなどを、社員が監督を務めるなどの形で支援している」ことだ。
一方、入社後の若手社員離職防止策も講じている。「悩みや相談などを早い段階でキャッチする」目的で同社が4年前から始めているのが、1人500円の参加費で飲み会に参加できる、"あいせき"だ。
ネーミングはテレビ番組の恋愛バラエティ"あいのり"を参考に安全衛生推進部会が提案したもので、すでに10回ほど開催した。役職や年齢など上下関係なく参加できる。"あいせき"の場だけでなく、「あいせきを通じて悩み・相談などに積極的に関与する若手社員が、あいせきを離れて相談やアドバイスするなどの効果もある」(小山課長)という。
建設業界全体の課題である長い労働時間、土曜日が休めない、などが「業界としてブラックと見られる」ことに強い危機感を抱く。そのため、大卒給与に合わせて高卒・専門学校卒者の賃金を引き上げたり、国民年金+厚生年金に加え独自の年金加算分である3階建て部分の確定拠出年金(DC)も昨年秋から導入している。そのほかにも求職者から魅力ある職場と受け取られるように、「当社も厚生労働省の優良企業認定を目指している」と話す。
小山課長は今後の人材確保について、「厳しいが、なんとか人数を今は確保している。しかし今後確保出来ない場合には新たな取り組みをしなければならず、「仕事として(応募者から)選ばれることが一番の近道」と強調する。
入社後、つらいこともあったけど、先輩や上司とのコミュニケーションも良く働きやすい環境であることを実感しているし、仕事は楽しい。"あいせき"にも参加したが、コミュニケーションを取るいい機会になったと思う。 |
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