CIMの活用事例。土留め支保工・路面覆工の形状、地下鉄との位置、躯体と土留め工との取り合いを3次元CADモデルで確認 |
同社が開発したプログラムは、数値解析で入力した座標データや要素情報をプログラム内で3次元のCADデータに自動的に反映し、構造物のブロックごとに要素番号を割り振って情報を蓄積するもの。試験運用したトンネル工事の数値解析以外にも、コンクリート構造物に対して行う温度応力解析やダムの盛り立て管理などさまざまな数値解析モデルを簡単にCIMモデルに変換することができる。その結果、構造物のモデル化作業に必要な時間を大幅に短縮することが可能となった。池内設計部長は「現場で生産性向上のためにどれだけ役に立つのか、という視点で現在あるものを使って活用する技術開発を進めてきた」と前置きしたうえで、「ここまで数値解析とCIMを連動させたのは当社だけではないか」と説明する。
トンネル以外の具体的応用事例では、橋脚の温度応力解析がある。求めた最小ひび割れ指数コンター図から、ひび割れ発生位置を推定し、データベース化・管理が可能となる。またダムの盛り立てでは、堤体を材料別に盛り立てる過程を解析して、計測機器の配置や記録、品質管理結果の表示が行える。
池内正明 建設本部土木エンジニアリングセンター設計部長 |
同社がこれまで取り組んできたCIMと、生産性向上の関係については、「CIMは(生産性向上度合いを明確化する)数値化が難しい」(池内設計部長)という判断がある。それでもCIMの現場展開へ向けて模索を継続している要因のひとつは、2025年までに建設業界の生産性を20%向上させることを、安倍首相自らが2016年9月に表明したことだ。
模索を続けるもう一つの要因は、事前予測の数値解析とCIMの連動だけにとどまらず、トンネル前方地質の可視化やさまざまな構造物の掘削計画形状確認や支持層面の推定、土留め支保工・路面覆工の形状確認、さらには鉄筋配筋図の3次元化にもとづいた専門工事業との施工検討会など、「CIMとICT(情報通信技術)の連動、3次元モデル活用は設計、施工、品質管理で省力化、効率化につながる」(池内設計部長)からだ。
そのため池内設計部長は、「CIM、3次元モデルを現場にどう使ってもらえれば役に立つのか、模索している最中だ」と話す。
3Dモデルを使った鉄筋配筋図を見ながら施工検討会。専門工事業参加者とともに、施工上の問題を事前に把握できる。 | トンネル前方の地質を可視化、前方探査によって弱部の破砕帯を推定する。 |
CIMモデル(トンネル工事)での事前予測の表示例。吹付コンクリート(右)やロックボルト(左)などに作用している力の状態が、色別に表示され、管理基準値との対比や安全管理上の判断に役立つ。 |
生産性向上最前線
1社で無理でも集まれば | |
藤本組 |
競合しない企業による全国ネットワーク |
多くの中小建設企業が今後の展望に危機感を抱いている。取り組む課題は様々だが、企業規模が大手や準大手と比べ小さく人材・資金力も足りない中小企業に、出来ることは限られている。営業展開する地域も中小企業は限られており、市場拡大が見込めても拡大展開は難しい。一方、2020年東京オリンピック・パラリンピック後に建設市場が縮小すれば、企業規模の大きな建設企業が、中小企業が主戦場にしていた工事規模の案件にまで参入する可能性は高い。こうした状況のなかで、地域の中小建設業は今後どのように生き残りを図れば良いのだろうか。(株)正治組(本社・静岡県伊豆の国市)、(株)藤本組(本社・静岡県掛川市)、(有)丸中建設(福島県二本松市)の3社にとってこの問題の一つの答えが、「やんちゃな土木ネットワーク(YDN)」設立だった。
各社発展のプラットフォームめざす
VR機器を使った仮想3次元空間では、施工前や施工の途中でも、工事の途中の様子や完成時の現場を360度にわたって見ることができる。2次元の設計では見落とす問題も3次元に置き換えることで把握でき、事前にリスクの知見を得られる。 |
3社が幹事を務めるYDNの設立は2015年4月。1社では進められない新たな取り組みを、競合関係にない中小建設企業同士が連携し、自社のノウハウなど経営資源を共有することで、実現させることが目的だ。幹事社の一つ藤本組の鈴木祥哲(よしのり)氏は、「中小企業が1社で出来ることは限られている。しかしみんなで情報交換すれば問題も解決出来る。なにより(互いに)腹を割って話せる協力体制が取れることが大事だ」と強調したうえで、「各社が当該地域オンリーワンとなることが目的。そのプラットフォームがYDNという広域連携だ。各社の事情に応じて、必要な情報交換や個別にチームを組んで事業ができる。YDN全体での事業を目的にしているわけではない」と話す。
全国広域連携のYDNに参加する企業は現在18社(2017年9月末時点)。参加条件の前提は、「他の参加企業と競合しないこと。国直轄でも競合しないことを考えれば、現時点では各県1-3社のイメージ。逆に参加出来ないのは、従業員数や資本金が大きい(300人かつ1億円を超える)企業」(鈴木氏)と明快だ。
企画営業部 鈴木祥哲氏 |
入札で競争関係にない企業同士が広域連携して、情報を交換し人材が交流することで、「積算でのちょっとした疑問や、現場で問題が起きて困った時に聞くところが出来た。若い職員にとってはあたかも質問箱のよう」というメリットもある。YDNは各社発展を目的としたプラットフォームの役割を担い、①ドローンによる空撮測量やICT土工などの「情報化施工」、②CIMソフトや3Dプリンター等の「新技術」、③瞬間吸水材セルドロン等の「新資材」、④勉強会等を通じた「人材育成」、⑤業務の繁閑調整、⑥工事書類の共有などの「技術資料」― がプラットフォームにそれぞれぶら下がる形をとる。
やりたいものをやる「部活」
また、国土交通省が建設現場の生産性革命を図るため導入した「i-Construction」の先を見据え、新たに藤本組の鈴木氏は、3次元モデルとVR(バーチャルリアリティー)の組み合わせで、発注者や施工者が実際に集まらなくても遠隔地同士で議論が可能になっていると説明する。
「今は安全教育への活用や若者に建設業に関心を持ってもらうツールだが、将来的に発注者との設計変更協議等に利用出来る可能性がある」と期待を寄せる、「施工VR研究会」について鈴木氏は、「様々な活動は言わば部活動。(新しいことを)やりたい企業はやりたいものを部活で実現していくことになる」と、広域連携活動の本質を説明する。
さらに、国土交通省が2016年度から本格的な導入を開始、地方中小建設企業も関心を寄せていたICT建機を使ったICT土工に対しても、YDNは主要メンバーである(株)山口土木(本社・愛知県岡崎市)を中心に、ドローンによる空撮、点群データ処理、点群データによる土量管理、ICT建機による施工― の一連の流れを先行して実施。そのうえで実施事例や最新ソフトウェアなどの情報も参加企業とリアルタイムに情報を共有する。さらに、全国各地でi-Construction 事例の水平展開を目的にした講習会や建設コンサルタントとの勉強会のほか、ドローンやVR操作を体験する技術習得のための合宿なども開き、中小企業の生き残りをかけて様々な取り組みを進めている。
YDNが2016年7月29、30日にかけ神奈川県三浦市の学校施設で行った勉強会。全国から十数社が合宿に参加した。 |
わが社の担い手確保・育成
オリエンタル白石 |
辞めない会社 3年離職率7.4% |
PC(プレストレスト・コンクリート)技術に強みを持つ「オリエンタル建設(株)」と、トンネル立坑など地下構造物構築に使われるニューマチックケーソン工法で有名だった「(株)白石」が2007年に合併し誕生した「オリエンタル白石(株)」。2008年以降の厳しい経営環境を乗り越え、現在は鋼製橋梁メーカー「日本橋梁(株)」とともに中核会社として、純粋持株会社「OSJBホールディングス(株)」を支える。過去の採用手控えの影響で現在、30歳台の中堅社員が少ないが、若手社員に中堅社員の業務を担わせる、いわゆる抜擢が「やりがい」となって、大卒3年以内離職率の低さにつながっていると話すオリエンタル白石の取り組みを聞いた。
オリエンタル白石では、平均すると毎年20人程度を新規採用している。これまで技術系社員の採用に当たっては、大学の先生の紹介・推薦という形をとることも多かったが、現在では、「ネットを含めあらゆる手段を使ってほぼ通年で採用活動を行っている」(竹田雅明執行役員管理本部総務部長)状況だ。
大学新卒者が就職後3年以内に離職する割合が高い問題、いわゆる就職ミスマッチについて同社は、「直近3年間に入社した67人のうち退職したのは5人。3年以内の離職率は7.4%」(竹田部長)にとどまっている。この数値は、厚生労働省が今年9月に公表した新規学卒者の離職状況(2014年3月卒業者の状況)で、大卒就職3年後の離職率が産業別平均32.2%、建設業は30.5%にのぼっていたことを踏まえれば相当抑制された数字と言える。
竹田雅明 執行役員管理本部総務部長 |
離職率が低い、言い換えると「辞めない会社」にオリエンタル白石はなぜなったのか。竹田部長は、「新入社員研修による同期の連帯感醸成と若手の抜擢」の2つを理由に挙げる。新入社員研修は3カ月をかけて行われ、座学はもとより設計、コンクリート研修のほか、1カ月間は現場で「PC」、「ニューマチックケーソン」、「補修」の主要3事業すべてを経験する。最初に主要事業を経験することで「当社の強みを実際に体験してもらう」(竹田部長)メリットもある。
新入社員研修と、そこで行われる現場研修で社内の知り合いが増え、その中で出会うメンター的役割社員の存在、4年目のフォローアップ研修などで生まれる、同期の仲間意識と連帯感。これに加えて若手社員の士気向上に寄与していると見られるのが、若手社員の抜擢だ。
同社が過去、再生・再建へ取り組む過程で採用を抑えていたこともあって、30歳台から40歳をピークに社員数のアンバランスがあり、この年代の社員業務をその下の世代の若手社員に任せながら育てるOJTを進めているという。
また、(一社)日本建設業連合会(日建連)加盟企業として、日建連が進める働き方改革、4週8休への動きに対応する形で今年度から、「4週6休・5閉所」に踏み切った。土曜日すべて現場を閉所することは現実的に難しいため、土曜日を閉所と交代で休む2パターンの取り組みだ。