安藤ハザマ土木事業本部先端技術開発室の横内静二課長は、トンネル(NATM)工事の、新たなコンクリート吹付けシステム開発の視点として、「トンネル作業の実態である3K(きつい・危険・汚い)を打破し、急速施工で生産性向上の成果を得る」ことを挙げる。
昭和高度成長期以降のトンネル工事は矢板工法からNATM工法に代わったものの、それ以後はNATMに革新的な技術革新が起きていないと横内課長は指摘。さらに、NATMによるトンネル作業も、爆薬の装填、鋼製支保工設置、ロックボルト挿入、コンクリート打設設置――など作業実態が3Kであることを踏まえ、「改善の余地はある。技術開発でトンネル現場の生産性を向上させるとともに、働く作業員にとっても魅力ある現場にすることが必要」と説明する。
開発した「大容量・低リバウンド吹付けコンクリートシステム」の最大の特徴は、従来の吹付けシステムでは吐出量が1時間当たり10~15m³程度、リバウンド率(はね返り率)20~30%だったが、新システムは①吐出量1時間当たり20m³以上、②リバウンド10%以下、③少ない粉塵量(現行に対し同等以下)、④脈動の抑制による品質の安定と作業性の向上と、施工時間短縮と低はね返り率による資材のムダ削減、粉塵抑制による労働環境改善につなげた。これらは、コンクリートポンプの大容量化と高性能化による脈動防止を実現させた機械の開発と、日本のNATMで一般的に使われてきた「粉体急結剤」ではなく低粉塵吹付けができる「液体急結剤」や、コンクリートのワーカビリティを大幅に向上させる「高性能減水剤」を実現した材料面の技術発展が新システムを支えた。
横内静二 土木事業本部 先端技術開発室課長 |
今後の同社土木部門が取り組む技術開発について横内課長は、「まず今回開発した新システム・新技術について現場で定着させることが、生産性向上・見える化につながる。そのためには当社施工案件を対象に本格運用へ採用拡大を目指したい」としたうえで、「今後の技術開発についても、省力化に向けた吹付けの高度化構想がある」と、トンネルの技術進歩に強い期待を寄せる。
大容量低リバウンド吹付けシステム。 |
ポンプの大容量化と高性能化による脈動防止を実現した油圧2ピストン式シリンダ摺動型ポンプ |
生産性向上最前線
長谷川 |
タイル工「早く一人前に」会社一番の職長が職人教育 |
先輩や親方は技能・職人の技を教えてくれない。「見て覚えろ」と言われ親方の背中を見ながら、一人前の職人への道を歩む、そんな建設産業界における専門工事業と職人を取り巻く環境が大きく変わろうとしている。今の若年入職者は、一人前として認められるまでに長い期間がかかることを嫌がる傾向がある反面、一人前の職人となって以降の自身の収入や生活スタイルへの関心が高い。一方、日本はすでに人口と労働力(生産年齢人口)いずれもが減り続ける「減少局面」を迎えており、各産業界はこれまで通りの労働力を今後も確保することが難しい時代に入った。そのような中で、仕上げ職種のひとつであるタイル工事を事業の柱に据えてきた「(株)長谷川」(本社・京都市右京区、長谷川正直社長)は、発想の転換による職人確保を積み重ね、今後の事業多角化も視野に置き始めている。
社長自ら採用活動の陣頭に
長谷川正直 代表取締役 |
「高校の新卒者を社員として採用」という長谷川の採用基本方針を決定し、高校教諭への説明、採用書類の作成から提出まで、まさに採用活動のすべてを担っているのが長谷川社長だ。同社でも進む職人の高齢化に強い危機感を抱き、高卒のタイル見習い工の募集を始めたものの、「7、8年前は先生を含め相手にもされなかった」という。この苦い経験が、社長自らを「担当」と任じさせ、各高校や教諭との関係構築、またキャリアモデル策定に踏み切らせた。
当初、採用説明で相手にされなかった長谷川社長は、まずは高校教諭に「興味を持ってもらう」ことが必要だとの思いに至る。「高卒で建設業に入る人間はいる。しかし、さまざまな職種が存在する専門工事業への就職を本人は決められない。先生のアドバイスが就職先を決める鍵を握っている」ことが理由だ。もちろん高校教諭だけでなく、生徒や生徒の父兄らの理解も必要だ。そこで、タイル工とは何か、自社の経営・人材育成理念とはどのようなものかなどを知ってもらう求人用DVDの配布を始めた。
「極める職人」「独立」「会社幹部」広がる選択肢
さらに新卒者が同社に入社し、その後一人前になるまで、また一人前になった後の社員の独立や幹部社員登用、またはベテラン職人として職能を全うするなど複数の選択肢を含むキャリアモデルを用意した、資格取得・人材育成・教育計画を網羅する「タイル工育成10カ年事業」を策定した。すでに同事業に基づき、高校の新卒者に、「会社で一番の腕を持った職長が教育係を務め、1カ月でタイルを貼れるようにし、1年目でタイル工の4割をマスターさせ、7年かけ仕事の全てをマスターさせる」取り組みを始めている。
さらに高卒新入社員職人の入社後の動向についても、「高校の先生に対し、社内研修を終えた時や、技能士資格の取得時といった場面ごとでタイムリーに報告している。これが、高校教諭らとの信頼関係の構築につながっている」と長谷川社長は自信を見せる。
新卒採用職人のキャリアモデルを明確にした長谷川の「タイル工育成10カ年事業」は、職人の社員化を前提としている。社員化は、躯体、仕上げいずれの職種でも多くの専門工事業者が難色を示し、踏み切れずにいた最大の課題だ。これに対し長谷川社長は、「日本の技能伝承のために、当社は日本人の高校生を確保して勝負する。社員化が(経営の)重荷になるようならタイル工の採用はやめる」決意で望んでいる。
多くの専門工事業が二の足を踏む「職人の社員化」は、長谷川社長によれば多くのメリットをもたらすという。「見習い工でも社員として採用すれば、教育の過程で職人よりも営業マンや現場管理の方が向いていると判断する場合だってある」と多様な人材活用の可能性を挙げる。その上で、「タイル工が他の職種を担うことも可能。社員だから多能工化もできる」と話す。今後、仕事量そのものが減少する可能性を見据え、多能工化は避けては通れない取り組み課題の一つとなっている。
これまで高卒社員を順調に確保してきたが、高校教諭からの提案もあり、来年度から新たな採用方法を試行してみたいという。「高1からアルバイトとして採用したり、夏休み期間中だけアルバイトをしてもらうことも検討したい」。実現すれば、事実上のインターンシップの役割を持つことになる。
タイル工育成10カ年事業 |
①高校の新卒者を正社員として採用 |
②3年以上の実務経験を経てタイル張り技能士2級の技能検定試験に4年以内に合格 |
③さらに5年以上の実務経験を経てタイル張り技能士1級の技能検定試験に合格し、職長に |
④職長3年以上の実務経験を経て、所定の講習及び認定試験を経て基幹技能者に |
⑤「セラミックマイスター(独自資格)」で独立可能に |
タイル工の仕事や自社の研修制度、人材育成理念などを、図やインタビューを収めたDVDで分かりやすく紹介。 |
わが社の担い手確保・育成
明成建設工業 |
先行きのイメージしやすさを武器に |
1926(大正15)年に東京・中野で創業。以来、中野に本社を置き100年企業にも手が届く地元老舗ゼネコンの「明成建設工業(株)」。人材採用を総務部が行うことが多い地元企業のなかで、独立した人事課を持つのが特徴だ。今年4月には新卒の女性技術者3人が入社。来年4月入社予定の内定者も確保した。企業規模の違いから、大手企業と比べ新卒技術者確保が難しいと言われる地元中小建設企業だが、同社では地道な取り組みが着実な若手技術者確保という形で花を開きつつある。
イラストは絵心がある取締役が担当。まさに会社一丸となってつくりあげた新卒者向けメッセージだ。 |
「われわれが新卒で施工管理技術者希望の人材を採用するのは並大抵のことではない」と中小ゼネコンの新卒採用の難しさを強調するのは、他業種にて新卒採用業務に携わった経験を持つ土方征子人事課長だ。同社に転職した8年前、「社内に女性はほとんどおらず、現場の人ばかり」。荒い言葉遣いと知らない単語が飛び交う世界に最初は戸惑った。
大手ゼネコン採用担当者と企業説明会で顔を合わせる機会が増えるにつれて、次第に中小企業の強みを感じていく。「どのように働いて、5年後にはどうなるのかイメージしやすいのが中小企業。実際、当社には新卒採用で27歳の現場所長もいる。目に見えて成果が見える、やりたいことがやれる、が当社の売りだ」と語る。
土方征子 管理本部総務部人事課長 |
土方課長には、大手ゼネコン採用担当とは一線を画す仕事のスタイルがある。「比較的にゼネコン各社の人事担当者は学生に対し大所高所からの発言が多いが、こちらはお母さんが最初に話を聞くところがミソ」だと言う。そして「仕事が厳しいことも事実。学生に建設業のウソ・ホントをきちんと伝えられた時には手応えを感じる」と、誠実に学生に向き合うことの大切さを訴える。
一番の苦労は、企業説明会に来た学生に会社に来てもらうこと。これを乗り越えた時が、「たった一人でもいいから、刺さるところ(入社を決定づける)に刺さっていく」チャンスでもあると言う。
「3年間で5人を育て、それを若手の1チームにする」という社長方針を踏まえ、土方課長は今後の人事採用について、「2019年度採用は1人でもいいから大事に育てる。企業としてはいい会社でなく変な会社であり尖った会社というイメージを持たれるようになればと個人的には思っている」と話す。
|
|
同社が始めた人事評価制度に、「サンキューカード」がある。上司・部下や、所属部、同僚などさまざまな壁をなくして、社内で仕事を手伝ってもらった時などさまざまな感謝の場面で、カードに感謝の言葉を添えて渡す。渡された人間だけでなく渡した人間の人事評価も同じくプラス評価になる。このほか、社内で月1回何かひとつ、例えばボウリングといったスポーツを始めコミュニケーションを取ることを同社は重視しており、サンキューカードも人事評価だけでなくコミュニケーション向上に一役買っている。 |