工期ダンピング抑止の担保へ
発注者には勧告と公表、建設企業は指示処分も
2つのダンピング、業法違反に
20日の中建審総会の冒頭に挨拶した国土交通省の青木由行不動産・建設経済局長は、「近年の工期ダンピングの問題や働き方改革を進める上で、重要性が認識されるに至った工期について、建設業法の改正を踏まえて初めて基準化されるもので、画期的な意義を有するもの」と説明した。
10月から施行される改正建設業法19条の5として新たに盛り込まれたのが、「注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない」とした、「著しく短い工期の禁止」条項。この新たな条項は、注文者(公共、民間発注者や元請など)に対し「著しく短い工期」での契約を禁止することで、リーマンショック以後、建設産業界で問題が指摘されてきた形を変えたダンピング、いわゆる工期ダンピング抑止につながると期待されている。
工期ダンピング抑止へ向けたもう一つの仕掛けが、19条の6「発注者に対する勧告等」として新設された第2、3、4項だ。発注者(注文者)が著しく短い工期で契約し、法に違反した場合には、国土交通大臣または都道府県知事が発注者に対し必要な勧告をすることができることを盛り込んだ。さらに勧告に従わない場合は、その旨を公表することも可能になる。(元請が下請に外注する場合など)発注者が建設企業の場合は、建設企業が業法上の指示処分を受けることになる。
工期ダンピング抑止を強く求めてきた建設産業界の関心事の一つが、工期ダンピング抑止の実効性だった。違反した場合の公共発注者と民間発注者に対する対応が、罰則などを伴わない勧告・公表にとどまるため、適正工期設定への理解が進まないのではないかという見方が根強くあった。
民間発注者は、適正工期の判断基準づくりに入る前から、工期短縮を一律に工期ダンピングと判断されることに強い抵抗感を示し続けた。今回のWG設置と、事実上の工期ダンピング判断基準にもつながる工期基準づくりを決めた昨年秋の中建審総会の席上でも、大手デベロッパー出身の委員は、技術革新が進むなかで提案によって工期が短くなっている実態を示し、民間工事での配慮を求めた。
勧告・公表される「著しく短い工期」判断基準に民間発注者が神経を尖らせるのは、勧告を受けたことが公表されることによって、企業イメージが大きく損なわれるからだ。
一方、夜間作業など時間的制約が現実に強いられる実態のなかで、働き方改革への取り組みに伴う一律の工期設定基準に注文をつけたのが東日本旅客鉄道(株)(JR東日本)などの公的発注者だ。
結果的に、適正工期の基準づくりは、公共・民間、元請・下請、業種別、企業規模別など様々な立場と利害を調整しながら行われた。
「分野別に考慮すべき事項」として、▷住宅・不動産分野、▷鉄道分野、▷電力分野、▷ガス分野――と分野別に分類し、工期設定に当たっての特徴が明記された。
働き方改革の側面支援も
また、働き方改革・生産性向上に向けた取り組みについても言及、さらに基準の参考資料という位置づけで「週休2日達成に向けた取組の好事例集」も示した。週休2日の確保では「他産業と同じように建設業の担い手一人ひとりが週休2日(4週8休)を確保できるようにしていくことが重要」と強調。休みは日曜だけという状態が続いてきた建設業で、すべての建設現場で週休2日を定着させるためには建設業界が一丸となった意識改革が必要だとし、「4週8閉所は価値観の転換に有効な手段」だとも明記した。一方、維持工事や災害からの復興工事など工事の特性・状況によっては交替勤務制による労働者単位の週休2日(4週8休)も示した。
さらに新型コロナウイルス感染拡大防止対策を踏まえた工期等の設定のあり方や、著しく短い工期と疑われる場合の対応として、建設業に係る法令違反行為の疑義情報を受け付ける駆け込みホットラインが各地方整備局などに設置されていることや、建設業法19条の6に基づき勧告と、勧告に従わない場合はその旨を公表することが可能であることを明記した。
建設業界は、防災・減災、国土強靱化対策や東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の施設整備など公共工事の反動減、新型コロナウイルス感染拡大による民間設備投資を含む建設プロジェクトの抑制などが、「価格」と「工期」という二つのダンピング再燃への不安につながっている。さらに2024年4月からは、罰則付きの労働時間上限規制が建設業にも適用されることから、働き方改革と生産性向上は待ったなしの状況に直面している。
新たな伝家の宝刀になりそうな「工期ダンピング抑止」条項は今後、どれだけ存在感を発揮出来るのか、建設業界は強い関心を寄せている。