労働時間「所定」と「法定」の違い 一般的に言われる「残業」と法律上の「時間外労働」は異なる場合があります。 いわゆる残業とは、会社が定めた「所定労働時間」を超える時間を指します。一方、法律上の時間外労働時間は、労働基準法で定められた「法定労働時間」(1日8時間、週40時間)を超える時間のことを指します。 休日労働も同様で、会社が定める「所定休日」と法律上の「法定休日」が異なることには注意が必要です。 また、2024年4月から建設業に適用される時間外労働時間の残業上限規制にも特例扱いがあります。 災害の復旧・復興事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計が▷月100時間未満▷2~6カ月平均が、全て1カ月あたり80時間以内の規制は適用されません。 |
(株)第一ヒューテックの「働き方改革」、「担い手確保・育成」と「新型コロナウイルス感染拡大防止」への取り組みを本社の立場で説明したのは、▷竹村直孝取締役工事本部副本部長工事管理部長、▷鈴木洋行執行役員経営企画本部経営企画部長、▷森本邦彦執行役員総務部長、▷中川直樹経営企画本部情報システム部長――の4氏。また同社現場の具体的対応は、マンション新築工事の佐川武正作業所長に聞いた。
同社の働き方改革と担い手確保・育成へ連動した取り組みが本格的に始動したのは、複数の働き方改革関連法が施行された2019年度。昨年度からは民間発注者に提出する見積もりを決定する際に、予め月4日の休工日に加え月2回は別途休みが取れる計画を前提にした「新標準工期」導入に踏み切った。この積み重ねの結果、土曜日に休みが取れたのは月平均で3.6日。日曜日はほぼ毎週休めている状況を踏まえれば、4週7休程度までになってきた。
一方、新型コロナウイルス感染拡大は建設企業にとっても働き方意識を変えるきっかけとなった。(株)第一ヒューテックは新型コロナウイルス感染拡大に関する政府の非常事態宣言を受け、「時差通勤」「公共交通機関の利用制限」「在宅勤務」など様々な対策を打ち出した。時差通勤については制度化し、8月からは「シフト勤務制度」として新たな就業形態が生まれた。
株式会社 第一ヒューテック
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目に見える生産性向上「試行錯誤の段階」
――新型コロナ対応で現場はどう変わりましたか
佐川武正作業所長 |
政府の非常事態宣言を受け、会社から「公共交通機関の利用制限」方針が出されました。その結果、私たち現場社員(4人)は全員、ホテルに宿泊し週末に自宅に帰るという生活を4月から5月までと7月から8月いっぱい送りました。また、特例として保険加入を前提に、会社は自家用車や自転車での通勤も認めたので、私も自宅から現場・事務所までの12kmを自転車で通いました。会社はその一環として時差通勤も推奨していますが、時差通勤を現場勤務に導入することは難しいと思っています。
現場では常時20人程度が作業に携わっていますが、喫煙・禁煙の完全分離を含め、休憩所や打ち合わせ時に3密にならないように配慮しています。また月1回の安全協議会は、協力業者ごとに個別に時間を決めて集まってもらい、密にならないような取り組みをしています。また資料もこれまでは手渡しでしたが、今は事前にメールで送付しているほか、定例会も人数を減らして開いています。
――現場の週休2日や4週8休、働き方改革の取り組みは
大手ゼネコンなどと比べると規模は小さいかもしれませんが、私の現場の社員は新入社員一人を含め4人います。4人いると、休みの融通もある程度できます。具体的には、新入社員は基本的に全ての土曜日は休みです。残り3人で計画的な休暇を取得しています。例えば土曜日に出勤した場合、月曜日を振り替え休日にする工夫をしています。
〈竹村取締役の話 今年の新入社員は特別です。今年は7人の新入社員が入社しましたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の為、7人は入社式後すぐに自宅待機としました。新型コロナウイルス感染拡大第一波と言われていた頃です。7人とも5月の連休明けまで在宅勤務として各種資格の試験勉強をしてもらいました。実社会で慣れてもらうために5月から現場勤務してもらいましたが、いきなり残業はさせないという方針としました。この現場はその方針を継続しています。〉
ただこれは社員が複数いるから出来るのであって、技術者が一人だけという現場では(4週5休以上の)休暇取得はなかなか難しいかもしれません。
――働き方改革には生産性向上・業務効率が欠かせません
業務効率化の一環としてスマートフォンを使った情報共有をしています。これは結果的にIT化に伴うペーパーレス化と本社とのネットワーク化につながっています。具体的には(グループウェアの一つである)Teamsを使って、昼の打ち合わせ時に、現場内の打ち合わせスペースにあるホワイトボードに具体的な打ち合わせ内容を書き込み、それを撮影して「打ち合わせ簿」のフォルダにアップすることを行っています。これによって打ち合わせ内容の情報を共有しています。通常、打ち合わせ内容はその都度、紙で残しますが、紙にまとめなくて済むし、労働基準監督署からの問い合わせにもフォルダにアップした内容で十分対応が可能なように、指示内容なども明確に残るような工夫をしています。
また現場には、搬出入口・躯体最上階にネットワークカメラを設置しています。現場と現場事務所は400m程度離れていますが、例えば躯体進捗状況や搬出入状況等を現場に行かなくてもリアルタイムでスマートフォン・PCで確認できます。事務所-現場間の不必要な移動時間を削減でき、業務効率化につながっていると感じています。このネットワークは本社とも繋がっていて、本社からも現場状況を確認することができる為、情報共有にも役立っています。
週休2日促進など働き方改革に必要不可欠と言われている生産性向上ですが、正直に言うと当社の規模での生産性向上に対する試みは、まだ試行錯誤の段階だと感じています。結果は後からついてくるもので、いま結果をという時期ではないと思っています。
ただその中で会社が見積もり段階で取り組んでいる「新標準工期」の効果は、現場の人間として強く実感しています。新標準工期のおかげで、ワーク・ライフ・バランスの実現と担い手確保にもつながっていると思います。必要な工期が確保されていることで、お客様に対しても品質の良いものをお渡しできるし、我々も品質向上と信頼を獲得でき、互いにメリットがあると思います。
週休2日 4週7休まで到達
改修工事の休暇促進には難しさも
竹村取締役工事本部 副本部長 |
年次有給休暇年5日取得の義務化を踏まえ、会社が昨年度「ワーク・ライフ・バランスの推進」として事業計画に盛り込んだことを受け、工事本部も重点管理の一つに位置づけました。具体的には、積算部と原価管理部を管轄する生産管理本部という組織で、例えば民間工事の場合に発注者に提出する見積もり作成へ向けた様々な検討を工事部と連携して行います。当社では工程表や見積もりに必要な計画を立てるとき、現場が日曜日以外に月2回は週休2日を前提にして、計画を顧客・発注者に提示させていただいています。新標準工期の設定を提案し見積もり段階で提示するこの枠組みは、昨年度から働き方改革への取り組みを始めたことに合わせ導入しました。その結果、昨年度は月平均で土曜日に休めたのは3.6日程度ありました。これには、土曜日が休めなかった場合の振り替え休日も含まれていますが、日曜日はほぼ休めているので、現場でも4週7休程度まで達成できた形です。
働き方改革をすすめる為の必要な工期を施工者が確保することについて、発注者・顧客の理解も進んでいるように思えます。そもそも発注者への引き渡し時期も以前ほど年度末に集中していないように感じますし、年度中間期の完成・引き渡しのケースが増えていることが、施工の平準化につながっていると分析しています。
ただ、もう一歩進めた現場の完全週休2日と、完全な土曜日の休日取得は難しいのが現実です。例えば、「改修工事」です。発注者は昼間や平日には業務があり、結局土曜日や休日の作業にならざるを得ない仕事です。また改修工事の場合、技術者が一人だけ配置されるというケースもあります。そのままでは休めないので、派遣社員を入れて休暇を取得してもらうという対応を取っています。
従前より工期が長くなり、経費の負担は大きくなりますが、必要工期を確保する中、施工方法や調達方法を工夫し、コストダウンを図りながら見積もり額を決定していくことになります。
職人の担い手不足への対応という点について、大手ゼネコンのような対応が難しいことは事実です。今後、懸念される労務不足に対しては、調達先の拡大が現実的だと考えています。
BIM「避けて通れない」でも……
中川情報システム部長 |
生産性向上や業務効率化の一つとして書類の簡素化が言われていますが、建設業界はなんだかんだ言って「紙から離れられない」というのが率直な感想です。これまで我が社でもICT利用効率化への取り組みをしてきましたが、モノになったのは2~3割です。成功例としては、タブレット端末が仕上げ検査などで使われていますし、監視カメラや写真撮影による情報共有やクラウド化で効率化を進めています。また社内や現場でもウェブ会議は出来る環境ですが、はっきり言って生産性向上へ向けたIT化対応は、年代別にギャップがあり大きく違います。年代が上にいくほど紙にこだわることが多いのも事実です。
一方、BIMについては「避けては通れない」ことは確実ですが、3D化はコストも膨大です。3Dモデルを2Dの施工図で書き出し、利用できるようにするのも本来のBIMの目的から離れていっているようで、あまり納得がいかない点です。
時差通勤「シフト勤務」として制度化
社員の評価も上々
鈴木執行役員経営企画部長 |
新型コロナ対策として「時差通勤」を導入しましたが、その後「シフト勤務制度」という形で会社の就業制度として確立させ、就業規則にも盛り込みました。この制度は8月から本格導入し、新型コロナウイルスが今後終息しても、シフト勤務は継続されます。
具体的には、当社の通常出勤時間は午前8時半ですが、シフト勤務制度では、早出・遅出ともに「30分」「1時間」の2パターンを用意し選択できるようにしました。つまり午前7時半、8時、8時半、9時、9時半の時差通勤です。早出は新型コロナ対応として、遅出はワーク・ライフ・バランス(多様な働き方)を意識して制度を構築しました。本人が申請し上長が認めた場合に適用される枠組みです。
また新型コロナ対策の一環として、在宅勤務も導入しています。通称テレワークと呼ばれますが、社員にノートパソコンを貸与して、自宅でノートパソコンから会社のパソコンにアクセスして業務が出来るようにしたものです。ただ当社は「ものづくりの会社」ですから、在宅勤務が1年中成り立つわけではありません。データ整理や積算といった、一つの仕事に集中してできるものには適していますが、労務管理は非常に難しい問題です。
このほか新型コロナ対策として10月から順次、ビル換気設備の換気対策工事も行う予定です。厚生労働省が求める基準に全て合致させることが目的です。また工事部社員の電車通勤(公共交通機関利用)回避のための自家用車や自転車での通勤も認めました。
森本執行役員総務部長 |
シフト勤務制度の活用を希望する社員の申請は本社・支店のほぼ全ての部署から出ています。シフト勤務の社員からの評判は非常に良いと感じています。申請者の多くは、早出を希望しています。また現場社員が振り替え休日を取得できないケースもありますが、そうした場合、完成後にまとめて休暇を取得させるなどの対応をしています。
年5日の年次有給休暇取得義務化 2019年4月から全ての企業経営者(使用者)に義務付けられたのが、「年5日の年次有給休暇の確実な取得」。時間外労働時間の上限規制など2018年6月に成立した「働き方改革関連法」の一つ。 具体的には、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者や有期雇用労働者も含む)に対し、年5日については使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられた。 ただ実際は、「使用者による時季指定」、「労働者自らの請求・取得」、「計画年休」のいずれかの方法で労働者に年5日以上の有休休暇を取得させれば良い。 |