新型コロナ対策ガイドライン 働き方は、新型コロナウイルス感染予防対策を進めることでも変わり始めています。具体的には国土交通省が「建設業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」を公表、「三つの密」(密閉・密集・密接)回避のための対策を求めています。 ガイドラインでは、感染予防対策の体制整備や従業員・作業員の健康確保のほか、建設現場の「三つの密」回避徹底が示されました。 現場の取組事例を、▷朝礼・KY活動、▷現場事務所などでの業務・打ち合わせ、▽内装など室内現場作業――などに分け写真などを使って分かりやすく説明しているのが特徴です。 |
成友興業(株)の「働き方改革」「生産性向上」「担い手確保・育成」と「新型コロナウイルス感染拡大防止」への取り組みについて本社の立場で説明したのは、▷新富明男取締役常務執行役員建設事業部長、▷計良浩介工事管理部部長、▷総務部の徳永なつみさん――のほか、街路築造・電線共同溝設置工事の現場代理人を務める▷松﨑修多摩北事業所工事長に聞いた。
同社は週休2日制や働き方改革に古くから取り組んでいる。週休2日への取り組みは2012年から、様々な処遇改善を目標にした働き方改革には2014年から取り組み始め、2017年からは本社・現場を含め完全な4週8休実現へ向けた本格的活動を展開中だ。建設業界と行政が共同歩調で取り組みを加速させた、週休2日といった働き方改革実現に欠かせない、余裕を持った工期設定や生産性向上へ向けた行政支援が本格化する以前から取り組みを開始したのは、「若手人材の確保・育成」を社長方針として打ち出した経営トップの強い意思だった。
人材の確保・育成のため離職率を下げるには、「まず土曜日を休めるようにしないと、何も始まらない」ことから始まった同社の取り組みにより、管理部門に加え現場もほぼ4週8休を達成し、現場の作業後の事務作業を支援部署が担うことで残業時間も大幅に削減した。
成友興業 株式会社
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現場の事務作業 サポート社員で大幅削減
松崎修現場代理人 |
――新型コロナ対応で現場はどう変わりましたか
私が現場代理人を務める現場にも発注者から意向確認書が届きました。現場は新設道路の土木工事なので、マスクをしながら密にならない作業を進めています。朝礼やラジオ体操、当日の作業確認なども2m以上離れて行っていますし、作業員は朝と昼に検温し異常があった場合は、職長が元請に報告し帰すなどの対応をすることを決めています。
――現場の週休2日や4週8休、働き方改革の取り組みは
この現場は週休2日制確保試行工事ですが、工期はタイトです。ですから特記仕様書に明記された4班体制で取り組んでいます。班体制を増やすことで、残業を削減しました。現在(9月末時点)の工事進捗状況は、予定53%に対し57%と順調に進捗していますし、週休2日取得についても「4週8休以上」取得日63日に対し、実際は68日と4週8休を達成し、さらに5日余分に休みが取得できている状況です。
いかに土曜日を休めるか、また休んでも工期に間に合わせることができるのかという課題に対する解決策として、私たちが取り組んでいるムダのない班体制と工程計画が成功していると思います。
――働き方改革には生産性向上・業務効率が欠かせません
現場では電子小黒板・蔵衛門Padを使っています。メリットは予め撮影内容を打ち込んでおけば、現場で黒板を持ち歩く人が必要ないことです。また現場から事務所に持ち帰った後も、普通の写真撮影ソフトだとタイトルを別につける作業が必要ですが、蔵衛門を使えば自動で編集でき、時間の削減と生産性向上につながっています。
もう一つの大きな変化は、現場を見ながら事務所で事務作業を行う場合、竣工へ向けた書類作成などでかなりの残業が必要でしたが、今はその残業がなくなったことです。都内各地にある複数の事業所に在籍している女性技術系社員に書類作成業務の支援をしてもらった結果、現場作業終了後の現場事務所での残業を大幅に減らすことができました。
「給与」と「休み」 若者へ訴求
生産性向上と工期短縮の検討を継続
新富取締役常務執行役員 建設事業部長 |
当社が週休2日制への取り組みを始めたのは、2012年。働き方改革は6年前からです。当社は建設事業のほか環境事業も行っていますが、6年前にアスファルトプラントも土曜日を休みにするということで、現場も4週6休から始めました。当時は今のような公共工事で週休2日を認めるモデル工事がありませんでしたが、独自に取り組みを始めた形です。
そして3年前(2017年)から本格的に4週8休実現へ動き出しました。公共工事でも週休2日モデル工事が本格的に進み始めたこともあり、昨年から現場の4週8休を実現することができました。仕事の内容によって、「週休2日は難しい」と発注者から言われるケースもありますが、そうした場合でもできるだけ「週休2日でやらせてほしい」というお願いはしています。
「土曜仕事」なくし「4週8休」当たり前に
公共工事で週休2日モデル工事が導入される以前から、当社が処遇改善である週休2日など働き方改革への取り組みを開始したのは、「若手人材の確保・育成」の社長方針が出されたからです。若手人材を育成するためには、まず業界共通の課題となっていた高い離職率を抑えることが必要でした。そのためには、「まず土曜日を休めるようにしないと始まらない」というところから始まったわけです。
そのため残業時間を減らすことも同時に進めました。さらに処遇でもう一つ大事な視点である給与も年々引き上げ、地元企業としてはトップレベルの水準であると自負しています。若い人が一番重視することは、「休み」と「自由になる時間の確保」です。
それまで建設業は「土曜日は仕事」というイメージがありましたが、まずは「月2回は土曜日に休める会社」にすることから始め、今は4週8休が当たり前になりました。
ただ、モデル工事の場合は工期や積算面で発注者から配慮してもらえますが、モデル工事導入以前やモデル工事以外では、私たちの生産性向上と発注者の理解を得ることが大前提であり、非常に重要なカギでした。実際、公共工事の工期設定は、非常に厳しいケースがあります。そのため、社内に生産性委員会を設置し、「生産性を上げる」「工期を短縮する」の2点を最大の目的に掲げ検討を続けてまいりました(現在はスキルアップ委員会)。突貫的取り組みで工期を間に合わせることもありますが、会社を挙げた取り組みの中で社員や協力会社の協力もあり、生産性の向上が進んでいると感じています。
一方、働き方改革への対応として残業時間の削減があります。建設業の現場は昔、残業が当たり前の世界でした。1日の現場作業終了後に事務所に戻って書類作成や整理をしていたからです。ただ、現在は交代要員を準備し、これまで2人で行ってきた業務を3人で行うという対応に変わってきています。そのためにも毎年一定人数の新入社員が必要になるわけです。
19時にはIT機器現場も強制遮断
生産性向上と現場職員の残業時間削減について、具体的には、現在5人いる女性技術系社員が、現場事務所の業務支援として、写真や図面、マニフェストといった書類作成と整理などをサポートしています。また、突発的な業務に限って上長に申請する例外は別にして、午後7時には現場事務所も含め全社のパソコンを強制的にシャットダウンしています。
新入社員については毎年、10人前後の採用を続けています。今年度は9人(事務3人、技術6人)入社しましたが、今年は例外的に入社式後はテレワーク(在宅勤務)を行ったのち、現場などに配属されています。従来、新入社員は5月と6月の2カ月間、富士教育訓練センターで研修をしてもらっています。測量実習をメインに、建設機械操作などの研修にも力を入れています。
新型コロナウイルス感染拡大を受け、テレワークや在宅勤務を導入し、仕事の能率は多少落ちましたが、テレワークが可能な内勤者は今もテレワークを継続しています。現場や工事管理部門のテレワークは難しいところがありますが、多少効率は落ちても、できるところは試行錯誤しながら進めている形です。
協力企業との契約 歩掛かり引き上げ
UAV測量 自前で取り組み開始
計良工事管理部部長 |
現場の週休2日、4週8休を進めることで、協力企業や作業員の方達の収入が減るという課題が業界で指摘されていますが、当社では3年前から協力企業との請負契約で、ベースとなる労務単価を10%引き上げています。またそこから協力企業・作業員が努力すればさらに10%上がる、要するに20%上乗せした金額で、週休2日に伴う減収分を補えるようにしました。端的に言えば、3年前から協力企業との請負契約のベース金額に週休2日のための上乗せをしているということです。
ただ、単純に協力企業との契約額に上乗せすれば、当社の持ち出しが出てしまいますが、(協力企業と)互いの企業努力によって工期を短縮し、コストを削減しそこから収益を上げるという考え方をしています。つまり、工期を短縮し元請の経費を削減するということです。
また、下請経費を上乗せすることによって競争入札のコスト競争力が落ちるということもあります。そこは、内部でよく精査して判断することになりますが、見切り発車で赤字になるということはありません。不確定なリスクはありますが、協力企業には迷惑をかけないようにすることで当社の施工能力を維持すれば、協力企業の皆さんも当社についてきてくれるということだと思います。
一方、ICTへの取り組みとして、CIM化や3次元測量など取り組みを広げています。実際に会社のイメージアップを目的に、東京都下でUAV(無人航空機)を飛ばし、動画撮影したものをYouTubeに上げると学生からの関心も呼ぶことができました。さらに撮影動画を3次元データに置き換えて、新設道路の完成イメージパースを作成し、地元住民へのPRにも役立てることができました。この時は、協力してもらった測量屋さんに動画も作成してもらいましたが、現在は自社グループ内に測量設計部を発足し、測量業務の内製化に取り組んでいます。9月には国土交通省に測量業の業務申請も行いました。
当現場でもドローンで起伏を計測し、土量算出に役立てるようにしました。その結果、生産性も向上しています。IT化が写真整理など現場業務の負担軽減につながっていますが、今後もUAV測量を含めたICT化の取り組みは若い人たちの生産性向上に必ずつながると思っています。
IT化は採用でも効果
オンライン説明会で入社も
総務部・徳永さん |
採用面でもIT化は効果を上げています。過去、当社はIT化に対応できず採用のチャンスを逃していましたが、今ではそのチャンスをものにできていると感じています。同業他社ではまだオンライン説明会まで踏み切っていないケースもあると聞いています。実際、当社は早期にオンライン説明会に切り替えた結果、参加した若者が入社するケースもあります。また現在は在宅勤務の人たちにはIT機器を貸与して、オンライン会議も行っています。さらに若手社員の活用では、CSR報告書は全て私たち若手社員が中心になって作成した手づくりです。
若者の力で「CSR報告書」 同社の特徴の一つに、非上場で中堅・中小企業としては珍しい、「CSR報告書」発行がある。2020年版の表紙を飾る笑顔の18人は一人を除き全て若手社員。中身も、事業紹介をする社員全てが若手社員なら、2020年版報告書作成チームメンバーも全て、経営企画部と総務部の若手社員だった。自社の企業行動と、SDGs(持続可能な開発目標)とESG(環境・社会・ガバナンス)の視点を重ね合わせているのも特徴。若手社員が次代を担う若者の「心」をつかみ、若者への訴求力を高める――。「CSR報告書」からはそんな企業判断も垣間見える。 |