4週4休・変形休日制 労働基準法第35条で定められている「週に1回の休日」と「4週間を通じて4日の休日」の2つが法律で決められた法定休日です。週1回の休日は原則的な休日制、4週間で4日の休日は変形休日制と呼ばれています。また法定休日以外に会社が労働者に与える休日を「法定外休日(所定休日)」といいます。労基法第32条で労働時間の上限を、1日8時間・週40時間と定めているためです。 建設業の一部工種のように土曜日・日曜日に作業を行わなければならないことが多い場合、原則的な休日制は「休日労働」に伴うコスト負担が大きいとされ、変形休日制を採用するケースもあります。 |
萬世建設(株)の「働き方改革」、「生産性向上」、「担い手確保・育成」などへの取り組みについての、本社と現場の立場と対応について、▷斎藤敏常務執行役員建築部長、▷上田浩光取締役総務部長・企画室長、▷池田信治CR事業部部長――から話を聞いた。
中央区を拠点に、学校や保育園などの公共施設や駅施設のほか、放送局関連という特殊工事の新築・改修・修繕工事を手がける同社にとって、「週休2日」と「4週8休」の完全達成は非常に高いハードルだった。事業の一方の柱でもある改修・修繕工事は、工期が限定的な場合や、土曜日や日曜日など休日の作業を余儀なくされるといった新築工事とは違う制約があるからだ。
そこで改修・修繕工事という特殊事情を踏まえ、同社が週休2日と4週8休だけでなく、「働き方改革」の時間外労働上限規制適用を見据えた対応として踏み切ったのが、現場の施工管理者増員と、「3カ月フレックス」+「4週4休・変形休日制」(コラム参照)の導入だった。これまで一人の技術者だけで現場を担当する場合、代わりを務める支援要員がいないと休めないため、昨年から中途採用を積極的に開始した。
もう一つが、働き方改革へ向けた法改正で実現した3カ月間の労働時間を繁閑に応じて均すことができる3カ月フレックスタイムと、週に1回の法定休日を採用する原則休日制の特例である変形休日制の導入だ。
萬世建設 株式会社
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改修作業の特殊性 面接時にきちんと説明
斎藤常務執行役員・ 建築部長 |
総務部や営業部などはこれまでも完全週休2日は維持できていましたが、現場作業を管理する工事部は、工期に追われ週休2日は実現できませんでした。ただ、今後さらに進む少子高齢化の中で、会社として完全週休2日を実現しないと、人材そのものが確保できない時代だと判断しています。そのため当社は働き方改革と生産性向上の取り組みでも、会社存続のための絶対条件として、施工管理者の増員と完全週休2日実現による労働環境改善を進めています。
この会社の考え方を理解してもらえるお客様(顧客・発注者)に対しては、「当社は完全週休2日です」「祭日も休みます」ということを前提に、工程を提示させていただいています。ただ当社は、新築工事よりも改築工事が圧倒的に多く、公共発注機関を中心に休みの日でないと作業ができない工事も多く存在します。場合によっては月4回程度しか休めないケースも出てきます。過去には、「忙しい時にはその分働いてもらう」という建設業界特有の考えもありましたが、これからの時代は通用しません。
その打開策として、社員(施工管理を行う監督員)を増員しようとしています。目指しているのは、監督員1人に対し、プラスα人を増員することで完全週休2日に近づけることです。現場が稼働している以上、マンパワーで対応しなければ休みが取れないからです。施工管理を行う社員は20人いますが、昨年から今年にかけ3人を新たに中途採用しました。20人の施工管理者の業務のうち2割を削減しようとしたら4人必要です。ですから最低でも5人新たに確保することを目標に進めています。要は陣容を増やして完全週休2日を実現したいと思っていて、現在のところ8割から9割程度まで達成していますが、どうしてもあと1、2割が難しい。どうしても「こなしきれない」ことがまだ現実にあります。
増員によるコストアップへの対応はまだできていません。ただ、働き方改革への取り組みによる労働環境改善につながる増員体制で進めなければ企業が存続できないと思っています。極端なことを言えば、利益を削ってでも人員を増やし仕事をしていくということです。削った利益は、様々な生産性や効率性の向上で補うことになります。総務部長を中心にIT化を進めており、社内外の業務効率化を図ることで、今後の利益確保につなげていきたいと考えています。
2024年からの時間外労働上限規制適用への現場対応ですが、どこまで人を増やせるかにかかっているといっても過言ではありません。残業もマンパワーの話です。人が増えれば残業は減らせますし、社内で進めているIT・電子化による業務効率化で労働時間は短くできると期待しています。また、働き方改革関連法施行で実現した、月をまたいだ「3カ月フレックスタイム」制度と「4週4休・変形休日制」を導入したことで、現場の実態を法律上も許容できるようになりました。昨年来からのこうした取り組みによって、有給休暇5日取得義務化への対応は昨年度完全にできましたし、代休消化もほぼ達成できました。
ただこれは現場でも、施工管理・監督側の話です。当社の監督員が休日を確保できても、作業を実際に行う職人さんの問題は、いわゆる手間の問題(日給月給のため休むことで収入が減る)として別です。例えば1日2万円、月25日働いて50万円の収入があった職人さんは、休みが増え20日の労働で10万円の減収となってしまいます。この減収分を上乗せ分として発注者が認めてくれるかどうかです。さらに言えば今後、職人さんの手間が実際に上がった場合、それをどこまで見積もりに反映できるかという不安があるのも事実です。そもそも6日分の仕事を職人さんの生産効率を上げて5日でできるのかどうか。政府や行政は効率化すればできると言いますが、疑問です。ただ、今は週休2日への過渡期ですので取り組みを進めていかなければならないと思っています。
勤怠管理システム導入でまず「見える化」
若手社員のITスキル向上に期待
上田取締役総務部長・ 企画室長 |
総務部長に就任した昨年当時、現場は有給休暇の取得も代休も消化しきれない状況でした。上長から指導されてもなかなか進みませんでした。そこで着手したのが、勤怠管理システムの導入です。システム導入前の出退勤管理は、手書きの日報や週報でした。本来は週1回ごとに上長が出退勤を管理するわけですが、提出が遅れる人間もおり、さらに上長も承認フローに時間を要しますので、勤怠管理をタイムリーに管理することを重視しました。昨年12月からテスト運用、今年度から本格的な運用が始まりました。システム導入により、勤怠の見える化の効果だけでなく社員一人ひとりの意識も向上しました。
休日取得や残業時間削減など働き方改革へ向けた取り組みが大きく前進した理由の一つに、社会保険労務士協力の下で着手した「就業規則」見直しがあります。具体的には、「3カ月フレックスタイム」制度を導入、さらに「4週4休・変形休日制」を採用し、この二つを組み合わせた運用を始めました。変形休日制とは、通常の週に1回の法定休日を定める原則休日制をやめて、4週のうちで4日の法定休日を決めるものです。極端に言えば4日連続の法定休日も可能な柔軟な特例制度です。土曜日と日曜日を休む週休2日が前提ですが、受注した工事内容や現場状況によって、土日も出勤せざるを得ない場合に備えた対応です。
四半期毎に3カ月分の労働時間を管理する「3カ月フレックスタイム」も導入しました。これまで1カ月単位か1年単位の変形労働時間制は認められていましたが、1カ月を3カ月まで延長できることで、残業時間を含めた労働時間を月をまたいで均すことにより、集中する作業の繁閑に対応できるのが特徴です。因みに、先述の変形休日制を採用したことで、連続10日程度の労働も適法となりましたが、これは言い換えると、「就業規則を変えて働き方が変わった」のではなく「これまでの当社の働き方を法律上許容できるようにした」と言えます。正直に申しますと、要は現実の働き方に就業規則を合わせただけで、働き方改革の本来の趣旨からは外れるのです。本筋である生産性向上を今後達成していくまでの、法的整備の一環として考えています。
IT化についてですが、取り組みの一つとしてiPadを全監督員に貸与しました。しかし、現状ではまだ最大限に活用できていません。端末を活かした各種データのクラウド管理やペーパーレス化は今すぐ実行可能なIT化の最たるものですが、社員が新しい技術を知り、それを習慣化するにはやはり時間がかかります。
一方で、当社の離職率が同業他社に比べ低いこともあり平均年齢が高く、10年後の退職者急増に備えるため、急務となる20歳、30歳台の若手採用という課題があります。これまでも今後も進めていく若手社員の増員により、彼らが中心となってITを駆使した施工管理を身につけることで、普段は知識や経験を教える側の先輩社員に対し、逆に若手社員がITに関するノウハウを教えられるような相互扶助の関係になればいいと考えています。価値観の植え付けは難しいので、自然な形でそのような風土が根付けばと願っております。
新型コロナ感染拡大への対応として在宅勤務をテスト導入しましたが、総務部門でのヒアリングの結果、過去書類がペーパーレス化されていない中、在宅勤務は難しいとの声が大勢を占めました。IT化にも通じる話ですが、業務効率化へ向け急に進めることは難しいと感じています。
働き方改革の選択肢 3カ月フレックス 工事の特殊性から作業時間の繁閑差が大きいことを時間外労働の上限規制と重ね合わせて苦慮する場合の新たな企業の選択肢として浮上しているのが、2019年4月から施行された「フレックスタイム制の見直し」だ。フレックスタイム制とは、労働者が日々の始業・終業時刻や労働時間を自ら決めることによって、生活と業務との調和を図りながら効率的に働く制度。 時間外労働時間への上限規制を始めとした働き方改革関連法の一つとして盛り込まれた。具体的には労働時間の調整を行う期間がこれまでの1カ月から最大3カ月まで延長された。もともとフレックスタイム制では、1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えた労働をしても直ちに時間外労働とはならないほか、逆に1日の標準労働時間に達していなくても欠勤となるわけではないのが最大の特徴。これまではその労働時間の清算が1カ月単位だったが、月をまたいで最大3カ月間ごとに労働時間の清算をする「3カ月フレックス」の導入が可能になった。その結果、4週4休の変形休日制と3カ月フレックスを組み合わせれば、例えば3カ月のうちのある月は土日も作業しなければならない繁忙期間であっても、3カ月で労働時間を均していくため、時間外労働時間の突出を抑制できる可能性がある。 |
コミュニケーションの大事さ変わらない
ものづくりの面白さ・楽しさ 伝えていく
年次有給休暇の5日取得 建設産業界で2024年4月からの「罰則付き時間外労働の上限規制」導入に関心が集まる中、すでに建設業を含む全ての使用者への義務付けが始まったのが、「年5日の年次有給休暇の確実な取得」だ。労働基準法が改正され、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対し、年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられた。年5日の有給休暇を取得させなかった場合には、30万円以下の罰金という罰則付き。 そもそも労基法で労働者が、▷雇い入れの日から6カ月継続して雇われている、▷全労働日の8割以上出勤――という2点を満たしていれば、原則10日の年次有給休暇を与えなければならない。対象労働者には、管理監督者や有期雇用労働者も含まれていることには注意が必要だ。 |
池田CR事業部部長 |
IT化や新型コロナ感染拡大への対応として導入が進んでいる在宅勤務( リモートワーク) では、うまくコミュニケーションが取れないという問題があるのも事実です。発注者も在宅勤務を導入しているケースがありますから、それに合わせなければならない側面があるのは事実ですが、現場ではなかなかうまくいかない面もあります。やはり現場でコミュニケーションを取らないと、小さなことが漏れてしまうこともあります。それに(対面ではないことで)スピーディーに動かないというか、スロースタートでモノが決まらないという側面もあります。ただ、新型コロナへの対応と多様な働き方の一つとしてこうしたことが必要であることは理解しています。
政府や行政は建設現場の生産性を2025年までに2割向上させる目標を打ち出していますが、これからの若い人材には、ものづくりの面白さや楽しさを親切丁寧に教え、選んで良かったと思ってもらえる職業にしていきたいと思っています。確かに、ペーパーレス化やIT化などで働き方も変わりつつありますが、これを機会に若い人材が生産性向上や効率化につながる仕事も覚えることを期待しています。
就業規則改正し法令順守 日曜日や祭日に作業を行わなければならない場合も多い改修工事が売り上げの柱である同社にとって、働き方改革への取り組みは非常に高いハードルがあった。そのため法律を順守しながら働き方改革を進めるために取り組んだのが、これまでの同社社員らの働き方を法律が許容できるようにする「就業規則の改正」だった。具体的には働き方改革関連法施行を受け導入が可能になった「3カ月フレックスタイム」と「4週4休・変形休日制」を就業規則に盛り込んだ。改訂した就業規則について同社は、「現在はまだ採用していない制度も盛り込むなど今後を見据えた制度設計」と説明する。 勤怠管理システムで有休取得促し 働き方改革関連法施行に合わせて同社が導入した勤怠管理システムによって、年間5日の有給休暇取得義務化に対しても、個人の入社日ごとに期限日が設けられ、期限3カ月前から上長と総務部の管理者にアラートが表示される。アラートは3カ月前、2カ月前、1カ月前と段階的に発信され、本人と上長だけでなく総務部も一体となって取り組んだ結果、法改正後の有給休暇5日取得は完全に達成できた。 |