出典:経済産業省DXレポート |
2025年の崖、経産省レポートが警鐘
多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出・柔軟に改変するデジタルトランスフォーメーション(=DX)の必要性について理解しているが……
・既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化
・経営者がDXを望んでも、現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている
⇒この課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性(2025年の崖)。
様々な「DX」によって新たな世界にたどりつける。たどりつき方も色々だ |
「X」(革新)が産業・企業を変える DX=デジタル(Digital)トランスフォーメーション(Transformation)。 直訳するとデジタル革新。「X」はトランスフォーメーションの略語として使われる。なお「X」は、「未知のもの」「Cross(交差・掛け合わせ)」の意味もある。転じて、デジタル技術進展によって、様々な領域で未知への挑戦を行う意味もある。 |
経済産業省が2018年12月に公表した、「DX推進ガイドラインVer.1.0」の定義では⇒ 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
つまり、DXとはデジタル革新とも言い換えられます。 |
経団連「Society5.0」「DX」で相次ぎ提言
経団連は2020年5月、提言「Digital Transformation(DX)~価値の協創で未来をひらく」を公表した。前提として、「従来から企業が導入してきた、デジタル技術や機械を使った単純な改善・省人化・自動化・効率化・最適化をもって、DXとは言い難い」としたうえで、「DXはあくまで手段であり、それ自体が目的化してはいけない。企業の経営ビジョンを実現するためにどのようにDXを活用するかという視点が重要」とした。
具体的には、新型コロナウイルス感染症への対策、終息後の回復を経た創造的な新たな社会(Society5.0)実現へ向け、DXを通じた産業全体や企業の構造変革の必要性を訴えた。
提言ではDXを、「デジタル技術とデータの活用が進むことによって、社会・産業・生活のあり方が根本から革命的に変わること。また、その革新に向けて産業・組織・個人が大転換を図ること」と定義。
その上で、Society5.0時代の産業を、「これまでは業種・製品起点で産業が区分されてきたが、今後、その産業の垣根は大きく崩れる」とし、「○○業という縦割りの区分は、少なくともビジネス界においては、何ら意味を持たないものとなる」と明記した。
出典:経団連「Society5.0―ともに創造する未来―」 |
DX=革新は「産業」「企業」様々で進む
デジタル革新への取り組みをせずデータが活用出来なければ、「2025年から2030年の間に年間最大120兆円の損失」。経済損失への警鐘を鳴らし「2025年の崖」として知られる、『DXレポート』を経済産業省が2018年に公表して2年。2016年、国際会議でも議題となった「第4次産業革命」、同年に日本が打ち出した「Society5.0」実現と新型コロナウイルス感染拡大防止の手段として、経済界や国土交通省も「DX」推進へ大きく舵を切っている。
産業の垣根が崩れ、生活者の体験価値・解決される課題別の産業へと置き換わる「産業構造DX」のほか、個別企業が人材や組織、技術など多様な手段を組み合わせ変革する「企業DX」についても提言した。
また提言で掲げる、手段としてのDX推進によって実現をめざす「Society5.0」を経団連は、「Society5.0とは、創造社会であり、デジタル革新(DX)と多様な人々の想像力・創造力の融合によって価値創造と課題解決を図り、自ら創造していく社会」と定義した。
Society5.0とは
2016年の第5期科学技術基本計画(平成28年度~32年度)で、世界に先駆けた超スマート社会実現への一連の取り組みを「Society5.0」と表現したのが初めて。同年のダボス会議で米国企業が表現した「第4次産業革命」に対し「Society5.0」は日本が打ち出した新たな社会のあり方。
なお「Society5.0」と「第4次産業革命」の関係について政府は、「生産性革命により、過去最高の企業収益を設備投資などにつなげるとともに、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ロボットなど第4次産業革命の社会実装によるSociety5.0の実現を進める」(2018年6月閣議決定の経済財政運営と改革の基本方針2018)と整理している。
国交省 インフラ分野のDX推進
柱は「行動」「知識・経験」「モノ」
新型コロナウイルスの感染拡大は、2016年からICT(情報通信技術)の活用などによる建設現場の生産性向上を目指すi-Constructionを推進してきた国土交通省にも新たな対応を促した。2020年7月、データとデジタル技術を活用して、社会資本や公共サービスを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、建設業や国交省の文化・風土や働き方を変革し、取り組みを推進することを目的にインフラ分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進本部を設置、国交省もDX推進へ大きく舵を切った。現場についても、非接触・リモート型の働き方に転換することを目指す。
インフラ分野のDXは、「行動」、「知識・経験」、「モノ」という3つのDXを柱に、第5世代移動通信システム(5G)やAI(人工知能)、クラウドなどのデジタル技術とデータを活用した取り組みを部局横断的に進める。
具体的には「行動」DXでは、発注者がどこにいても現場を確認できるようにする。施工者がウェアラブルカメラで撮影した映像を発注者が事務所でリアルタイムで確認する遠隔の現場臨場を進め、対面主義にとらわれない現場の新たな働き方を実現する。
「知識・経験」DXは、AIを活用し誰でもすぐに現場で活躍出来るようにする。例えば、施工の段取りやインフラ点検で熟練の技術者が培ったノウハウをAI学習用の教師データとして整備したうえで、民間に提供してAIの開発を促す。また、AIを搭載した建設機械の自動施工技術や、AIがインフラの変状を自動検出して点検者の判断を支援する技術などの社会実装を目指す。
また「モノ」のDXとしては、BIM/CIMの推進を大きな柱とする。BIM/CIMの活用で、複数の図面から推察していた内部構造や組み立て形状が一目で分かるほか、数量や工事費の自動算出も可能になる。国交省は、小規模を除く全ての公共工事で2023年度までにBIM/CIMの原則適用を目標に掲げた。
さらに国交省は、DXを建設現場の労働生産性向上につなげる技術開発にも2021年度から着手する。各事業段階間のBIM/CIMデータの引き継ぎや、現場の生産量や労働投入量のデジタルデータ化といった現状の課題に対応した技術やシステムの開発を目指す。また、オープンデータ化についても、東京都23区の先行公開を含め全国56都市をサーバー空間に再現する3次元都市モデルを整備した。他のデータと統合することで、都市計画立案や都市活動のシミュレーション・分析などができる。
出典:国土交通省インフラ分野のDX推進本部資料 |
DX関連年表
インフラ分野のDX推進本部会合 |
◆2015年
・国連でSDGs(持続可能な開発目標)採択
2030年までの国際目標
・温室効果ガス削減で「パリ協定」
・国土交通省、i-Construction発表
◆2016年
・ダボス会議で「第4次産業革命」が話題
・日本政府が「Society5.0」
・国土交通省「生産性革命元年」
・安倍首相(当時)、2025年までに建設現場の
生産性20%向上を表明
◆2017年
・経団連と連合、「罰則付き時間外労働の上限規制」
導入で合意
◆2018年
・経済産業省がDXレポートで2025年の崖
・経団連、Society5.0で提言
◆2020年
・経産省がDXレポート2、DXガイドライン
・経団連が提言「DX」
・国土交通省、インフラ分野DX推進本部
・東京都、技術会議でDX推進検討開始