建設企業 Scope3活動の一例 |
※環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方」より作成 |
Scope=GHGプロトコル |
カーボンニュートラル(CN)取り組みのなかで使われる「Scope3」基準は、国際的な温室効果ガス排出量の算定・報告基準の「GHG(温室効果ガス)プロトコル」が2011年11月に発行した、組織のサプライチェーン全体の排出量の算定基準です。発行から10年、現在では格付け機関などの調査項目にも取り入れられています。 |
サプライチェーン排出量におけるScope1、Scope2及びScope3のイメージ |
※環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方」より作成 |
サプライチェーン削減はみんなの削減
Scope1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)とScope2(他社から供給されたエネルギー使用に伴う間接排出)に加え、事業活動に関連する他社排出分のScope3までを含めたサプライチェーン排出量の算定が、なぜ世界の潮流となっているのでしょうか。
自社の排出量の削減には限界があり、それ以上の取り組みを行うことは難しい場合があります。しかし、サプライチェーン全体の排出量削減を目指すことで、サプライチェーン上の他事業者による排出削減も自社の削減と見なされるため、他事業者との連携促進につながり、自社だけでは難しかった削減も可能になります。これがサプライチェーン排出量算定メリットの一つである、「他事業者との連携による削減」です。
出典:環境省「サプライチェーン排出量の策定と削減に向けて」及び「サプライチェーン排出量策定の考え方」より作成 |
ことばファイル |
*サプライチェーン排出量 |
下図のように、サプライチェーン上で「上流」に位置する企業が排出量を削減すると、「下流」の取引先まで全てに波及します。まさに「サプライチェーン削減はみんなの削減」で、「脱炭素ドミノ」とも言えます。
出典:環境省「サプライチェーン排出量の算定と削減に向けて」 |
では実際、建設企業を例にするとどうなるのでしょう。すでにScope3基準に沿って排出量算定に取り組んでいる企業の事例を見ると、Scope1、2、3を合わせた排出量の過半を「カテゴリ11(販売した製品の使用)」が占め、さらに「カテゴリ1(購入した製品・サービス)」が3割にのぼっています。つまり環境に配慮した建設資材の活用と建物の省エネが、サプライチェーン排出量削減の大きなかぎを握っていると言えます。次号では、なぜ脱炭素について中小企業が無視できない状況になっているのか、さらに詳しく説明します。
|
目的は供給連鎖上の活動にスポット
国内企業のScope1、2の排出量の総和は、日本国内の企業活動の温室効果ガス排出量の総和に該当します。
出典:環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方」 |
一方、Scope3(1、2以外の間接排出)まで加えた「サプライチェーン排出量」の総和は、右図のように同じ排出源が別々の企業としてカウントされるため、日本全体の排出量にはなりません。ではなぜ、企業の取り組みとして国際的な潮流でもある「サプライチェーン排出量」及び「Scope3基準」が注目されているのでしょうか。
サプライチェーン排出量の算定には、取引企業と連携して削減策に取り組み、排出量と削減貢献量を一緒に公表することで、自社の環境経営評価につながるというメリットがあります。その結果、供給連鎖に組み込まれた取引先の中小企業も削減貢献次第で受注拡大が期待されるという構図です。
|
CO2排出の見える化 進む積み上げ算定
サプライチェーンとは、原料調達から製造-物流-販売-廃棄までの一連の流れのことですが、製品・サービスのライフサイクル全体の流れ(資源採取-原料生産-製品生産-流通・消費-廃棄・リサイクル)の環境負荷を定量的に評価する手法として、LCA(ライフサイクルアセスメント)があります。環境ISOが1997年に国際規格としてスタートしたことを受け、建設業界でも早くからLCAへの取り組みが始まり、(一社)日本建築学会が1999年に「建物のLCA指針」を出版しています。
ライフサイクル全体で定量的な評価をすることや、上流と下流を区分するなど、LCAとサプライチェーン(Scope3)は似ています。環境省の「サプライチェーン排出量算定の考え方」では、これまでのLCAを「製品のLCA」とし、サプライチェーン排出量を評価することを「組織のLCA」としています。
冊子では、製品だけでなくサプライチェーン上の活動に伴う排出量を算定対象とすることは、企業活動全体を管理することにもつながり、環境の側面だけでなく経済・リスクの側面からもサプライチェーン把握・管理が重視されていると分析しています。
こうしたLCAとサプライチェーン排出量算定との関係を裏付ける形で、建設産業界では、大手デベロッパーと大手設計事務所が、「建物のLCA指針」をアレンジした「建設時GHG排出量算出マニュアル」を策定するなど、積み上げにより工種ごとの排出量算定も可能になりました。
ゼロエミビルの標準化・移行を進展
東京都は2050年にCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」実現を宣言しています。その過程として、2030年までに温室効果ガス排出量を2000年比で50%削減する各分野の政策が「2030・カーボンハーフスタイル」です。
具体的には▷再エネ、▷水素、▷ビル、▷住宅、▷市民生活、▷モビリティ、▷資源、▷フロン――です。
このうちビルについては、「新築時のゼロエミビルの標準化」と「既存建物のゼロエミビルへの移行」、「都市を形作る建物はサステナブル投資などを呼び込む脱炭素型」を明記。主な取り組みとして、サステナブルファイナンスとの連携を目指した情報開示のあり方検討や、キャップ&トレードなどの制度を活用したゼロエミッション事業所の拡大を掲げました。
また住宅では、「東京ゼロエミ住宅基準の多段階化」と「既存住宅における断熱性能の強化支援、健康住宅の普及促進」を掲げています。