*国土強靱化地域計画との関係
国の基本計画を踏まえ作成したのが東京都国土強靱化地域計画。地域計画に基づく事業もバックキャストの視点で見直し・レベルアップしたものが強靭化プロジェクトに反映されている。
*東京都地域防災計画との関係
防災計画は震災や風水害など災害の種別ごとに、都、区市町村、防災機関などがそれぞれの役割のなかで取り組むべき予防対策・応急対策および復旧・復興対策を示した計画。
一方、強靭化プロジェクトはインフラ整備などハード面に主眼を置きつつ、都が主体的に実施すべき施策をまとめたものである。
東京都が「バックキャスティング」思考法を採用して2022年12月に策定したのが「TOKYO強靭化プロジェクト~『100年先も安心』を目指して~」です。
2040年代に目指す強靱化された東京の姿を明らかにした上で、▷風水害、▷地震、▷火山噴火、▷電力・通信等の途絶、▷感染症――という5つの危機と、被害を甚大化・長期化させる「複合災害」をリスクとして明記し、具体的な22のプロジェクトと概算事業規模を提示しました。
2040年代までの概算事業費(一部事業の完了は2040年代超)は15兆円。うち今後10年間で6兆円と試算しています。5つの危機対応として打ち出された代表的プロジェクトを取り上げ、東京の今後の様々なインフラ整備を紹介します。
出典:TOKYO 強靭化プロジェクト(全文)東京都 |
バックキャスティングとは |
課題の解決策を探すために役立つ思考法として「バックキャスティング」と「フォアキャスティング」があります。「フォアキャスティング」は、現在の課題や環境から将来の変化を予測して対応を考える思考法で、現在の延長線上で未来を予測する思考と言えます。この考え方は私たちにとってなじみがある思考法です。
一方、「まちづくり」の方向性を示す手法・考え方として、東京都などの自治体で採用が広がっているのが、「バックキャスティング」思考です。「フォアキャスティング」とは反対に、まずなりたい未来・ありたい姿を定め、そこを起点に現在までに取り組むべき内容を決める思考法です。未来から逆算して考える手法とも言えます。
東京都の「TOKYO強靭化プロジェクト」では、未来から逆算するバックキャスティング思考が採用されています。有名な採用例としては、アメリカが期限を区切って月面着陸成功を掲げた「アポロ計画」や、2050年カーボンニュートラル、2030年のSDGsなどが挙げられます。バックキャスティングは、インフラ整備に必要な予算確保・理解促進という面からも評価されそうです。
出典:NTT資料をもとに作成 |
強靭化プロジェクトでは、2040年代に目指す強靭化された東京の姿を想定しています。その実現に向け、全庁共通の前提条件を「共通の目線」として5つの危機ごとに設定し、関係局は相互に連携しながら施策のレベルアップを図っています。
出典:TOKYO 強靭化プロジェクト(全文)東京都 |
5つの危機がハード分野だとすると、DX活用などソフト分野を組み合わせて東京の強靭化プロジェクトを推進するのが大きな特徴だ。
出典:TOKYO 強靭化プロジェクト(全文)東京都 |
出典:TOKYO 強靭化プロジェクト(全文)東京都 |
2040年代の目指す姿の実現には、今後10年間の取り組みが重要となるため、集中的な投資を行うなど、先導的かつ特徴的な取り組みをリーディング事業として掲載しているのも特徴の一つです。
ありたい姿・実現したい未来から逆算して、これから取り組むことを着実に進めていく「バックキャスティング」思考がインフラ整備に与える好影響の一つとして、中長期にわたる予算確保が挙げられます。東京都は、実現したい未来として「2040年代の東京」を打ち出し、そこから浮かび上がった「東京に迫る5つの危機と複合災害」を提起しました。
平成の時代にはインフラ整備のあり方をめぐり、投資額を整備計画に盛り込むことが難しい時期もありました。公共事業バッシングもあり、建設企業にとって当時の建設市場は先行きの見えない不安のある市場と映りました。
しかし今回、TOKYO強靭化プロジェクトで、中長期事業として具体的な22プロジェクトと概算事業費15兆円が示されたことは、建設市場の先行きがある程度予測できるという視点からも歓迎すべき点です。
もう一つ、今回の強靭化プロジェクトには大きな特徴があります。それは5つの危機ごとに、東京都の各局が共通の目線を策定したことです。これによって従来の施策もブラッシュアップされることが期待されます。
次号からは、5つの危機ごとに代表的プロジェクトを取り上げます。6月号は「風水害」です。