官邸も関与 5%超賃上げ申し合わせ
「官邸で開かれた建設業4団体と国土交通省との意見交換。同席した岸田文雄首相も技能者賃上げ5%超に言及。2024年度の技能労働者賃上げ5%超の方向性が決まった」 |
建設業4団体との意見交換
岸田首相発言要旨
○最重要課題は適切な価格転嫁を通じて、この力強い賃上げの流れを中小零細企業に広く波及させること
○建設業は長年、低賃金で3K(危険、汚い、きつい)とも指摘されてきたが、未来への前向きな新3K(給与が良く、休暇が取れ、希望が持てる)産業に変えていかなければならない
○官民挙げた取り組みを通じ、コストカットの縮み志向から成長型経済への転換を図り、設備投資と公共投資を支える建設業の担い手確保と持続的発展につなげていきたい
国土交通省は2024年2月、2024年度公共工事設計労務単価を発表しました。12年連続の引き上げで、全国・全職種の単純平均は前年度比5.9%のアップ、23年平均の物価上昇率を上回りました。物価上昇を上回る賃上げ実現を最優先課題とする岸田文雄政権も、今年度設計労務単価には強い関心を寄せていました。そのため3月、政府は建設業4団体((一社)日本建設業連合会、(一社)全国建設業協会、(一社)全国中小建設業協会、(一社)建設産業専門団体連合会)との意見交換を首相官邸で開き、その席で岸田首相は賃上げ目標5%以上を要請しました。
物価上昇にコスト転嫁が追いつかなければ経済にも悪影響を及ぼします。これまで働き方改革という文脈で、賃金や経費などコスト転嫁の実現可能性が語られてきましたが、建設業界でも今後、物価上昇を超える成長実現を図るために、企業はコストアップの価格転嫁、技能者は賃金上昇実現が問われることになりそうです。
建設産業界で働き方改革への取り組みとともに、物価上昇を上回る賃上げ実現の一つのカギが、建設技能者の賃金を左右する「労務単価」です。また、公共工事の予定価格を算出する時に使われるのが、公共工事設計労務単価です。
労務単価=労務費は技能者の賃金を指しますが、技能者雇用のために下請企業が負担する「福利厚生費」や「現場経費」などの必要経費は労務単価に含まれていません。国交省はこの必要経費を、福利厚生費等+現場作業にかかる経費を合わせ、労務費の41%との試算を公表しています。
労務単価には技能者雇用に必要な経費は含まれていないという、この当たり前のことをあえて強調しなければならないのは、公共工事設計労務単価は技能者雇用に必要な賃金以外の経費も含んだ金額と誤解され、必要経費分の値引きを強いられる結果、技能者賃金が低く抑えられているとの指摘があるからです。
そのための対策として国交省は、「公共工事設計労務単価」と労働者の雇用に伴う必要経費を含む金額とを並列表示し、設計労務単価には必要経費が含まれていないことを明確化しています(表「東京都主要12職種公共工事設計労務単価と雇用に伴う必要経費参考値」参照)。
労務単価の上昇によって技能労働者の賃金アップを図らなければならないのは確かです。しかし、企業に所属しているのは技能者だけではありません。営業や事務の社員もいます。その中で企業が成長し、所属する社員の賃上げと働き方改革をともに実現するためには、請負工事費=予定価格を構成する、工事原価と一般管理費の見直しが必要です。その見直しに影響を与えるのが、積算や歩掛かり(数量)を見直す「国交省の積算基準等の改定」です。2024年度改定では、月単位の週休2日実現に追加の補正係数を新設したほか、必要経費や現場移動を考慮した歩掛かり見直しなど、企業の取り組みを強く後押ししているのが大きな特徴です。
・事業所や資材置き場から現場への移動時間を考慮した歩掛の見直し(図「移動時間を踏まえた積算の適正化」参照)
現場環境の改善
このワード分かりますか
国土交通省各地方整備局は、現場の環境改善の一環としてさまざまな取り組みを始めています。下記のワード、いくつ理解していますか?
▷マンデー・ノーピリオド:月曜日を依頼の期限日にしない
▷ウェンズデー・ホーム:水曜日は定時の帰宅を
▷フライデー・ノーリクエスト:土・日に休暇が取れるように金曜日には依頼しない
▷ランチタイム・オーバーファイブ・ノーミーティング:昼休みや午後5時以降の打合せはしない
▷イブニング・ノーリクエスト:定時間際、定時後の依頼、打合せはしない
国交省が毎年行っている「積算基準等の改定」の今年度取り組みで、特に中小企業を中心に関心が高まっているのは、書類作成経費など現場管理費の増加や現場への移動時間を考慮した歩掛かりの見直し、月単位の週休2日推進へ追加で新たな補正係数を新設するなど、中小企業のための目配せをしていることが理由です。
具体的には、週休2日の質の向上拡大として、「現場閉所」と「交替制」いずれでも工期全体の週休2日と、月単位の週休2日で労務費は1.02+1.02の計1.04を加算します。また、間接工事費である現場管理費と共通仮設費についての補正係数も新たに加算しています(図「週休2日の「質の向上」拡大へ新たな補正」参照)。
また、4月から適用が始まった時間外労働規制に対応するための現場管理費も見直し、河川工事では直接工事費1億円の工事で、現場管理費率の1%増、金額にして100万円の増加が見込まれています。
さらに、路上工事で常設作業帯が設置できない小規模工事では、資材基地での資材積み込みから現場への移動、作業終了後の現場からの移動と資材取り下ろしまでが労働時間としてカウントされることで、作業時間が短くなり日当たり施工量が減少します。いわゆる「常設作業帯設置不可現場の作業時間減少問題」です。この問題について国交省は、舗装版破砕工など11工種で日当たり施工量が減少している傾向が見られたとして、今年度歩掛かり改正に反映させました(図「移動時間を踏まえた積算の適正化」参照)。