東京都は7月に「東京都社会的責任調達指針(公営企業局除く)」、8月には調達指針の内容を解説した「東京都社会的責任調達指針解説版」を公表しました。都は2021年3月の「『未来の東京』戦略」で、持続可能な開発目標(SDGs)の目線の取り組みを進め、持続可能な社会に貢献することを掲げていました。この流れのなかで、経済合理性だけでなく持続可能性にも配慮した調達を行うため今回、調達指針を策定しました。調達指針は、都が行う全ての公共調達が対象で、中小元請けも「経済」「社会」「環境」などSDGsの3側面の視点を否応なく持たなければならない時代が迫っています。
注意!最初の取り組みは間近
7、8年度資格申請でチェックリスト
中小・零細企業にとっても、東京都の「調達指針」への最初の対応は目前に迫っています。東京都が、今秋(令和6年)から開始する「令和7・8年度の競争入札参加資格の定期受付申請時」に、調達指針の順守に向けた取り組み状況を報告する「チェックリスト」の提出を義務づけたからです。チェックリストの入力内容は資格審査に影響しません。
しかし、ここで最も注意しなければならないのは、調達指針で東京都が「義務的事項※」としている事項について「取り組んでいない」ことが選択された場合、今後、調達指針が適用される案件に参加出来なくなることです。なお「推奨的事項※」はどのような選択をしても入札参加に影響はないとしています。
図の出典:東京都社会的責任調達指針 解説版 東京都 |
東京都が打ち出した「東京都社会的責任調達指針(公営企業局除く)」は持続可能な社会に貢献するSDGsの視点から統合的に取り組むものです。SDGsへの取り組みを意識する公共発注者は全国の県や市で登録や認証制度をすでに採用しています。
ただ今回の東京都の調達指針と大きく異なる点は、自治体のSDGs登録・認証制度の主体は企業であり、入札などで加点されるインセンティブが特徴であるのに対し、東京都調達指針は持続可能な調達に取り組む東京都が主体である点です。都が契約する全ての公共調達で、サプライチェーン含む受注者に調達指針の順守を求めているなか、不順守で適切な改善に取り組んでいない場合は、場合によっては契約の解除や指名停止が可能なことにも注意が必要です。
また今秋から始まる6、7年度競争入札参加資格審査申請時には調達指針順守へ向けた取り組み状況のチェックリスト提出も義務づけられています。
用語の定義
〈工事・物品等〉東京都が調達する工事、建築資材・副資材、設備・備品・消耗品、業務委託を含む各種サービス等。
〈受注者等〉都が調達する工事・物品等の契約の相手方。
〈サプライチェーン〉原材料の採取を含め、受注者等に供給するまでの製造や流通等の各段階(部品・材料の供給、下請け、再委託等の各段階)。
〈調達関連事業者〉受注者等及びそれらのサプライチェーンを担う事業者。
〈調達過程〉受注者等が工事・物品等の契約を履行するに当たっての国内外における、原材料の採取、製造、制作、建設、流通、運営等の過程。なお、本調達指針においては、対象とする範囲を明確化するため、「持続可能性に向けた視点」において特に指定する場合を除き、都への納品・サービス提供までとする。
〈負の影響〉人権、環境等の持続可能性を脅かす影響(持続可能性へのリスク)。
〈デュー・ディリジェンス〉サプライチェーンを含む企業の事業活動を通じた法令違反、人権侵害、環境汚染等の負の影響を評価した上で、その結果を踏まえた対策を講じ、さらにその効果について検証した上で、検証結果や取組内容について定期的に開示する、一連の継続的プロセス。
図の出典:東京都社会的責任調達指針 解説版 東京都 |
図の出典:東京都社会的責任調達指針 解説版 東京都 |
図の出典:東京都社会的責任調達指針 解説版 東京都 |
図の出典:東京都社会的責任調達指針 解説版 東京都 |
東京都は、調達指針の実効性確保へ向け、指針が守られていないとの情報を受け付ける通報窓口、いわゆる「グリーバンス・メカニズム(苦情処理メカニズム)」の整備も打ち出しています。運用基準など詳細は2025年1月ごろの公表を予定しています。
通報は原則、履行期間中の契約に係るものを対象としますが、不順守の事実を知ったのが履行期間終了後の場合は、履行期間終了1年以内の通報も受け付けます。
東京都の具体的対応は、▷通報受付、▷通報対象者に対する事実確認・モニタリング、▷不順守判明の場合、改善措置要求・改善計画書提出、▷改善取り組み結果を都に報告――の流れです。
なお調達指針では、「改善措置」項目として、「不順守の是正に当たっては、直ちに取引を停止するのではなくサプライチェーンを担う事業者との関係を維持しながら負の影響を防止・軽減するよう努めるべきであり、取引停止はその結果として、改善が認められない場合に限って実施されるべきである」としています。
ただ一方で、「都は、受注者等が調達指針の重大な不順守があるにもかかわらず、適切に改善に取り組んでいないと認められる場合は、契約の解除や指名停止措置を講じることができる」ことも明記しています。
中小事業者への配慮重要も強調
全ての公共調達を対象にした調達指針は、中小・零細企業が対応することはハードルが高そうですが、東京都は解説版で、中小企業に対する考え方も示しています。
具体的には、「公共調達は、公平性・透明性・経済性の原則によることに加え、官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律、中小企業基本法等に基づき、中小事業者の受注機会の増大を図ることが求められています」としたうえで、「都の契約においても中小事業者が受注者等の約8割を占めており、中小事業者へ配慮した入札契約制度とすることが重要です」としています。