建設業界のなかで特に下請けとの契約で広く浸透している「材工一式」見積もり・契約が、「材工分離」見積もり・契約に変わることを意味する、中央建設業審議会「労務費の基準に関するワーキンググループ(標準労務費WG)」の初会合が9月10日に開かれました。建設業が他産業より賃金が低く、就労時間も長いため担い手確保が困難という問題を解決するため、中建審が労務費の基準を作成・勧告することで、適正な労務費等の確保と技能労働者への行き渡り実現が目的です。
最大の特徴は、中建審が作成した標準労務費をどれだけ重層化した構造のなかでも技能労働者に賃金として行き渡らせるために、建設企業を規制する建設業法で担保することです。国土交通省はWG初会合で提示した資料のなかで、労務費の基準づくりを、「適正な労務費(賃金原資)の確保・行き渡りへ向けた請負契約に係る新たなルール」としました。では建設業法を担保にした新ルールは中小元請にどのような影響を与えるのでしょうか。
中央建設業審議会「標準労務費WG」初会合 |
今年6月に成立した第三次担い手3法(公共工事品質確保促進法、建設業法、入札契約適正化法)施行がめざすのは時代の大きな変化に対応するための新たなルールです。新たなルールは変化する時代のなかで持続可能な建設業を実現することを目的に具体的には、「処遇改善」と「働き方改革、生産性向上」を進めることを掲げています。
中でも、中央建設業審議会が作成・勧告する「労務費の基準(標準労務費)」の中身と行方に関心が集まっていますが、この動き、言い換えると国による労務費の相場形成です。そのうえで、「著しく低い労務費の禁止」を規制法の建設業法で規定し今後、業法違反となるおそれがあるものや違反行為事例を示したガイドラインを策定。
さらに悪質な場合には各地方整備局に配置された「建設Gメン」が業法違反として取り締まることになります。施策の実効性を担保しつつ継続的に取り組みを把握しながら改善に役立てる「PDCAサイクル」を回す仕組みまで法改正によって構築したことが最大の特徴と言えます。
一方、新ルールは自治体発注工事を主戦場とする中小元請けにとって、追い風にもなりそうです。その一つが資材高騰に伴う請負代金等の変更です。契約変更条項は契約書に盛り込まれていなかったり、あっても手続きの面倒さから公共発注者が拒否することが問題になっていたからです。
価格高騰に伴う労務費のしわ寄せ防止を目的とした「価格転嫁」取り組みは、自治体発注者との関係で頭を悩ます中小元請けにとって環境改善への追い風になるかもしれません。資材高騰に伴う請負代金等の「変更方法」が契約書の法定記載事項として明確化されたからです。これまで契約変更条項を契約書上設けない契約が約6割あることが国土交通省の調査で浮き彫りになっていました。建設業法改正によって法定記載事項として明確化されたことで、変更条項は確実に盛り込まれることになりそうです。
契約前ルールとして「変更協議」が確実に進む一方、契約後でも新ルールが導入されます。改正建設業法で「注文者は、誠実に協議に応ずる努力義務」が盛り込まれましたが、改正入契法では「公共発注者は協議に応ずる義務」が課せられました。この価格転嫁ルールは公布から6カ月以内の施行です。12月施行へ今後ガイドラインが提示される見込みです。なお、国が労務費相場を決める一連の取り組み、▷著しく低い労務費等禁止、▷受注者による原価割れ契約の禁止、▷工期ダンピング対策の強化――は2025年12月施行の予定です。
※議員立法による「公共工事の品質確保の促進に関する法律」等の改正は6月19日に公布・施行済(測量法改正のみ2年以内に施行) |