2024年、建設産業の働き方は大きく変わりました。大きく変わったきっかけの一つが、「時間外労働の上限規制」適用です。2024年4月から、長時間労働を法律で定めて是正する「時間外労働の上限規制」の適用が建設業でも始まりました。時間外労働の上限規制とは、▷労働基準法で定められた「法定労働時間」、▷「法律による上限(原則)」、▷さらに原則以上の時間外労働を認める「法律による上限(特別条項)」――が加わった3階建てで構成されているのが特徴です。時間外労働の上限規制に代表される働き方改革は、建設業法の改正・勧告による「工期に関する基準」作成、標準労務の作成・勧告を中心とした「第3次担い手3法改正」など、上限規制順守へ実効性確保のためさまざまな取り組みが進められています。
上限規制への対応など「働き方改革」を、国土交通省など行政が取り組みを後押しするのは、建設企業が重要な「地域の守り手」として持続可能な建設業として存続するために、「担い手(人材)確保と育成」が欠かせないと判断しているからです。産業間の担い手確保競争に勝つためには、他産業に負けない魅力的な産業となることが必要不可欠です。そのなかで魅力の一つとして挙げられるのが、高い賃金水準や休日・休暇の多さや、労働時間の短さです。こうした魅力を実現させるには、「処遇改善」が欠かせません。いま、処遇改善を進めるなかで働き方改革は、元請けと協力企業の関係にも変化が生まれるなど、影響を与えています。
国と業界、共同歩調
建設業界で2024年から一気に進み始めた「働き方改革」を後押ししたのは、「時間外労働の上限規制」と「標準労務費の作成」という2つのキーワードであることは間違いありません。なかでも今年4月から適用が始まった上限規制に対し、「標準労務費の作成」は中央建設業審議会(中建審)のワーキンググループ(WG)がまさにいま、作成へ向けた議論を行っている渦中です。
標準労務費(労務単価+歩掛かり)とは、建設業法を改正して新たに法律として盛り込み、中建審で作成・勧告するということで、国が請負単価のうちの標準労務費部分の相場を決めるとも言えます。中建審で作成した標準労務費が業界慣行のなかで浸透していく過程では、これまでの商慣習である「材工一式」契約が「材工分離」契約に変わるとも言われています。もう一つ、国が標準労務費の相場を形成する大きなメリットは、業界が適正な利益確保へ向けた応札・見積もり提出など、共同歩調が取れることです。
移動時間
8時間働けない
公共発注者が工事費を算出する官積算で実作業時間を法律で認められた「8時間」としても、現場で8時間の実作業が出来ないことが、小規模工事で浮き彫りになっています。「常設作業帯設置不可現場」は現場と資材基地の往復が労働時間と認定され、結果的に作業時間が短くなり日当たり施工量が減少してしまう、作業時間減少問題です。国土交通省は今年度の積算基準改定でこの課題を取り上げています。
5%超賃上げ申し合わせ
働き方改革とも連動する形で政労使が連携して取り組んだのが、「物価上昇を上回る賃上げ実現」です。政府は今年3月、(一社)日本建設業連合会、(一社)全国建設業協会、(一社)全国中小建設業協会、(一社)建設産業専門団体連合会の建設業4団体と首相官邸で意見交換を行い、5%超の賃上げ申し合わせをしました。この力強い賃上げの流れは、価格転嫁の後押しでも期待されています。
東京都社会的責任調達
全ての工事で適用へ
2024年度は、「持続可能な建設業」実現へ向けた取り組みに連動するように、東京都が「東京都社会的責任調達指針(公営企業局除く)」を公表した年でもありました。これは、経済合理性だけでなく持続可能性にも配慮した調達を行うのが目的です。調達指針は東京都が行う全ての公共調達が対象で、中小元請けも「経済」「社会」「環境」といったSDGsの3側面の視点を否応なく持たなければならない時代に直面しています。競争入札参加資格審査申請時には調達指針順守へ向けた取り組み状況のチェックリスト提出が義務づけられていることにも注意が必要です。
出典:令和5年職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)厚生労働省 |
熱中症
命を守る 最優先に
気候変動によって日本の建設現場で大きな問題となっているのが、「熱中症対応」、「酷暑対応」です。現場従事者の健康を守ることが、事業所・現場にとって必要不可欠で当然のことだからです。また作業中の熱中症は労働災害の対象でもあります。厚生労働省の「職場における熱中症による死傷者数の状況(2014年~2023年)」統計によると、熱中症による死亡者数及び休業4日以上の疾病者数は、21年の561人から23年には1106人と、ほぼ倍増しています。熱中症による業種別死傷者数の割合で、建設業が全業種中で最多の21%を占めていることも、建設業が熱中症対応に強い意識を持つ理由です。
2024年度、働き方改革の大きなキーワードとして挙げられる「時間外労働の上限規制」、「標準労務費作成」のうち標準労務費作成は、6月に成立した「第3次担い手3法」(公共工事品質確保促進法)(建設業法)(入札契約適正化法)に盛り込まれたものです。建設業を規制する建設業法でも標準労務費、賃金の行き渡りなどが新たに盛り込まれたことや、国が処遇改善相場を誘導する標準労務費作成議論が進行中のため、とかく標準労務費に関心が集まりがちですが、中小元請けにとって6月に成立した「第3次担い手3法」には別の期待も集まります。
代表例は、改正された入札契約適正化法で、国が自治体に助言・勧告・援助できる新たな規定です。国は自治体に対し、勧告権を筆頭に「助言・援助」が可能になりました。今までは「お願い」ベースでしか自治体の制度改善などを求めることが出来ませんでした。今後はこれまでより強い発信力を持つことになる国が、自治体の建設業の働き方改革に対する積算や経費計上のあり方について改善を要請し実行させる実現力に期待が集まりそうです。
6月12日に参議院で第3次担い手3法が成立した |