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3月26日に開かれた中建審労務費の基準に関するWG第6回会合。 受発注者にとって商慣習の180度転換や新たな業務負担が発生する可能性もあり、議論はますます白熱する |
『東建月報』では、2024年4月から建設業でも運用が開始された「時間外労働の上限規制」に合わせ、「時代の転機 これからの建設業 働き方改革特集」と題した巻頭企画を展開してきました。しかし建設産業の未来に直結する取り組みと動きは、まさにこれからが正念場です。その筆頭が今年11月にも予定されている、中央建設業審議会による「労務費の基準(標準労務費)の作成・勧告」です。受発注者双方のこれまでの慣習を180度変えるだけではなく、働き方改革にも影響を与えるからです。
標準労務費の作成議論は現在、中建審ワーキンググループ(WG)で進行中ですが、3月26日の第6回会合で、国土交通省の平田研不動産・建設経済局長は、新たに導入する労務費の基準について、「受注者の裁量で仕事をする請負契約の原則に対し、労務費という必要経費について受注者の裁量に一定の制約をかけて必ず行き渡るようにする形をめざす」と強調しました。2025年を建設業の「ミライ」を映し出す重要な年と位置づけ、さまざまな切り口で「今と未来」を考えます。4月号は「公共工事設計労務単価」と「積算基準」です。
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建設業のピラミッド構造を支える
中小・零細企業
建設産業は、建設業許可業者数が47万社を超える主要産業の一つです。産業構造は、国土交通省地方整備局の土木工事等級ランク(左図)で分かるように、等級がない元請けや公共工事を施工する時に必要な経営事項審査受審企業、専門工事業などが支える「ピラミッド構造」です。そしてピラミッドを支える企業のほとんどが、中小・零細規模です。だからこそ、産業・発注政策を進める際に中小・零細企業への影響は重要な判断材料になります。
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図の出典:国土交通省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について」を元に作成 |
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図の出典:国土交通省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について」を元に作成 |
国土交通省は2月14日、2025年度公共工事設計労務単価を発表しました。全国・全職種の単純平均は前年度比6.0%の上昇で、過去10年間で最も大きい伸び率となりました。前年比2.7%上昇した2024年平均の物価上昇率(消費者物価指数)を上回りました。設計労務単価の引き上げは、単価の算出方法を大幅に変更して必要な法定福利費相当額を加算した13年度以降、13年連続。全国都道府県の全職種で上昇し、直轄工事は3月から前倒しで適用を開始しています。
同日、官邸で石破茂首相も出席して開かれた車座会談で、主要建設4団体(日本建設業連合会、全国建設業協会、全国中小建設業協会、建設産業専門団体連合会)は中野洋昌国土交通大臣と、2025年技能者賃上げ目標を「おおむね6%」とすることを申し合わせました。
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図の出典:令和7年度土木工事・業務の積算基準等の改定 国土交通省 |
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国土交通省は2月28日、2025年度の直轄土木・業務に適用する積算基準を発表しました。予定価格に反映される積算見直しでは、中小建設企業が東京都内で施工する常設作業帯が設置できない現場への移動時間を踏まえた歩掛の改定は路上工事以外にも拡大しました。移動時間が労働時間と判断されることで、官積算上の実作業時間が確保できず、日当たり施工量が減少していることを歩掛かり改正で補うもので、切削オーバーレイ工など10工種で改正しました。また同様の考え方で、建設機械の回送時間を考慮した歩掛かりも改正しました(図「移動時間を考慮した歩掛の改正」)。
このほか、他産業と遜色ない働き方を実現するため、これまでの「月単位の週休2日に対する経費の補正」を残しながら、新たな補正係数を設けました。その結果、土日を休日とする「完全週休2日」を全国の直轄土木工事で本格展開するとしています。東京都内の自治体発注工事への波及も期待されます。
常設作業帯が設置できない現場への移動時間が、「労働時間」と判断される可能性が高いことを、中小元請けが指摘したことをきっかけに、国土交通省が開始した移動時間を考慮した歩掛調査結果の成果が積算基準改正という形で、中小規模工種に拡大しています。今後は国交省の積算基準改正が、中小元請けの主戦場としている地方自治体にまで広がることが期待されています。
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図の出典:令和7年度土木工事・業務の積算基準の改定 国土交通省 |