「担い手確保」は建設業界だけの問題ではありません。日本の生産年齢人口(15歳から64歳=労働力)は国立社会保障・人口問題研究所の予測によれば、2020年の7508万人から2040年には6213万人まで減少すると推計(出生、死亡ともに標準な想定)されています。この20年で1295万人減、さらに日本人だけに絞ると同様比較で20年で減少は1539万人に上ります。これは製造業と建設業の主要2業種就業者数に匹敵します。その上、2024年の出生者数はこれまでの推計から15年前倒しで70万人割れとなり、「縮む労働力問題」がより鮮明になりました。
一方、建設業界でも、「縮む労働力」への対応として処遇改善など働き方改革や、生産性向上への取り組みが否応なく加速しはじめています。そのなかで中小建設業が取り残されないためのキーワードが、官民を中心とした「連携」です。関東地方整備局は6月、建設業14団体および都県・政令市14自治体と、建設業の担い手確保へ向け官民連携を強めることを確認・申し合わせました。また7月に開催した東京都技術会議で都は、「技術職員確保の取り組み強化」や「新技術活用促進」を打ち出しました。DX推進など生産性を向上させながら区市町村への技術支援を強める「連携」がここでもカギとなっています。
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8月6日に開かれた中建審労務費の基準に関するWG第9回会合 |
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関東地方整備局は6月、建設業14団体、都県・政令市14自治体との「関東甲信地域における建設業の担い手の確保に関する意見交換会」で、▷週休2日の促進、▷魅力・意義(やりがい)の効果的なPRの実施――の2項目について産学官が連携していくことを申し合わせました。会合後の記念撮影で掲げた表題『持続可能な建設産業を目指して』は、新たな会議体の目的です。日本が「縮む労働力問題」に直面するなかで持続可能な建設産業を実現するためには、担い手確保の取り組みは一丁目一番地の課題です。
「担い手確保」と裏腹の関係にある「処遇改善」の一つが「週休2日」ですが、中小建設業が主戦場にしている区市町村発注工事や民間発注工事へは、十分に広がっていません。適正な工期と価格の発注実現には、受発注者間の意見交換・要請だけではなく、国や広域自治体である都県の支援・サポートがこれまで以上に必要です。
また年末には、国が事実上労務費の相場を決める「標準労務費の作成・勧告」の枠組みがスタートします。これは建設工事の元請と下請との契約で一般的だった「材工一式」契約を「材工分離」契約へ180度の転換を求めるものです。全ての公共工事と民間工事でこの商慣習の大転換を進めるためには、産学官の連携が欠かせません。関東地整や業界団体と都県・政令市による新たな会議体発足と合意は、今後の劇的変化に対応する組織としても期待できそうです。
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東京都は7月に開催した「東京都技術会議(座長・谷崎馨一都技監兼都市整備局長兼都市整備局技監)」で、DX(デジタルトランスフォーメーション)、AI(人工知能)のさらなる活用を全庁的に進めることを決めました。また、他自治体や民間企業などは、実施する先進的なDX・AIの取り組み事例の導入検討も掲げました。技術会議の15構成局が取り組む試行や、浮き彫りになった課題などは、他局に横展開する考えです。
一方、インフラの管理・整備支援目的で東京都が区市町村などへの講師派遣を行う「技術連携」では、「連携」が一つのキーワードになっています。
出席した小池百合子都知事は、「新技術の活用促進は、重要なテーマ。社会の変化の先を見通し、AIをはじめとした新技術の社会実装を先導してほしい」と期待を込めました。
今年度の技術会議の具体的な取り組みは、▷各局の施策下支え、▷技術力の維持向上、▷新技術の活用・実装――の三本柱で構成されています。
前年度の技術会議で活動の成果となった、「DX・AIを活用したインフラ整備の計画・設計・施工・維持管理のフェーズ別将来像とロードマップ」に沿った取り組みの共有や施工会社へのアンケートも予定しています。
東京都技術会議
1992(平成4)年に発足
技術水準の維持向上、技術職員の確保・育成・活用などのあり方や社会情勢を踏まえた取り組みなどを議論。これまでの主な取り組みの中の一つである「インフラ・まちづくり」には、公共工事の品質確保や建設業の魅力向上、社会づくりやまちづくりがある。
設立当初から一貫して取り組んできた技術職員の技術力の維持向上、時代の潮流を捉えた新たな技術の活用・実装の共有と成果は、東京都が今年3月に公表した「2050東京戦略」に掲げる政策に反映させる(関連:2050東京戦略)。
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出典:第121回東京都技術会議資料 東京都技術会議事務局 |
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出典:第121回東京都技術会議資料 東京都技術会議事務局 |
東京都技術会議で加速させるDXやAI活用・実装の成果は、東京都の最上位計画「2050東京戦略」にも反映されることになります。2025年3月に策定された「2050東京戦略」は、現行計画「未来の東京」戦略に代わるものです。人口減少など社会的環境変化を踏まえ2050年代に目指すべきビジョンを設定、その上で2035年に向けた296の政策目標を掲げた、言わば都政運営の新たな羅針盤です。
DX・AIなど新技術の活用と実装を急ぐ東京都の動向は、建設業界にとっても様々な生産性向上の取り組みが加速する可能性もあり、今後、目が離せません。
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出典:2050東京戦略 東京都 |