

南海トラフ地震や首都直下地震など次なる大規模災害を見据えた地域の防災力強化を求める声が強まっています。令和6年能登半島地震の教訓は言うに及ばず、近年の気候変動に伴う降雨量増加や海水面上昇などを踏まえ、豪雨対策や高潮対策の強化も必要になっています。様々な災害発生を念頭に置いた対応を「防災力」と言い換えると、事前防災や減災、迅速な復旧・復興につながる「防災力」強化のための施策を総合的に実施するのが「国土強靭化」と言えます。そして全国各地域で、国土強靭化施策を実際に担う役割が期待されているのが、地域に根ざす地元建設企業です。10月号では、地元の中小建設企業が貢献する「国土強靭化」施策を展望します。
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出典:国土強靭化地域計画策定・改定ガイドライン(第2版) 内閣官房国土強靭化推進室 |
強靭化施策 土木学会が効果検証
改正国土強靭化基本法の最大の特徴は、政府が中期計画を法定化し、その期間に実施すべき施策の内容や目標を明確に位置づけた点にあります。そのうち推進が特に必要となる施策は114施策、対策の事業規模は5年間で20兆円強と示すことが盛り込まれました。
また強靭化の取り組みを進めることは、財政健全化にも寄与するという効果検証が、土木学会から2025年6月に「2024年度国土強靭化定量的脆弱性評価・報告書」最終報告書(南海トラフ地震、および、首都直下地震の最新推計値)として発表されました。これは、防災インフラ投資がどれほどの減災効果を持つのかを定量的に評価・推計したものです。具体的に南海トラフ地震に対する防災対策では、投資額の約3倍の財政効果が見込めるとしています。
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出典:第1次国土強靭化実施中期計画(概要)内閣官房 |
政府は6月6日、2026-2030年度の5年間を計画期間とした「国土強靭化実施中期計画」を閣議決定しました。期間内に実施すべき施策は326施策、このうち推進が特に必要な施策として114施策を掲げました。事業規模はおおむね20兆円強程度としています。政府が国土強靭化の中期計画を定めることを決めた、いわゆる法定化を柱とした「改正国土強靭化基本法」が2023年6月に成立・施行されたことを受けたものです。中期計画は、2021年から今年度を最終年度とした5か年加速化対策の〝ポスト5か年〟とも言えますが、法的根拠がなく閣議決定だけで実行されてきた加速化対策とは違って、改正国土強靭化基本法に政府が中期計画を策定することを規定したことで、法的な根拠が与えられた一方で継続性も担保された形です。
また事業規模20兆円強の〝強〟には、高騰する人件費や資材費に対応するため計画に弾力性を持たせて、今後〝強〟の部分を積み増していくことを念頭にした発射台との意味合いを込めたと関係者は言います。
もう一つ、中期計画の予算措置は、財務省との折衝次第ですが、目指すのは当初予算での確保です。中期計画の名称に〝加速化〟というキーワードを用いなかったのも今後、〝当初予算での確保〟を見据えてのことだと、改正法に携わった関係者は話します。
中期計画5本柱の各事業規模は、①「防災インフラの整備・管理」5兆8000億円、②「ライフラインの強靭化」10兆6000億円、③「デジタルなど新技術の活用」3000億円、④「官民連携強化」1兆8000億円、⑤「地域防災力の強化」1兆8000億円――の20兆3000億円です。この数字をベースに、資材価格や人件費の高騰の影響を反映し、災害発生状況、事業の進捗状況などを踏まえて、機動的・弾力的に対応するため、予算編成過程でさらに積み上げていくことも念頭に置いています。なお、来年度の国土強靭化中期計画にかかる予算要求は、金額を明示しない事項要求となっています。
以下に第1次国土強靭化実施中期計画(概要)抜粋を掲載。
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出典:第1次国土強靭化実施中期計画(概要)内閣官房 |
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出典:第1次国土強靭化実施中期計画(概要)内閣官房 |
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出典:第1次国土強靭化実施中期計画(概要)内閣官房 |
政府が定めた20兆円強の「国土強靭化実施中期計画」は、都道府県・市町村による他の計画などの指針になる「国土強靭化地域計画」の作成や、地方自治体の具体的な施策の取り組みを加速させることになりそうです。例えば中期計画で推進が特に必要となる施策として明記された5項目114施策のうち、「防災インフラの整備・管理」や「ライフラインの強靭化」、「事業継続性確保を始めとした官民連携強化」などに盛り込まれたインフラの老朽化対策や減災、耐震化、木密地域の不燃化など(図1、図2、図3)には地方自治体も取り組まなければならないからです。そして民間側の担い手として、災害発災時の対応を含め地域の取り組みにおいて、地元建設企業に大きな期待が寄せられているのです。
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出典:2050東京戦略 本編 東京都 |