

技能者の処遇改善へ向けて、建設産業に携わるサプライチェーン(生産供給網)全体で取り組む新ルール『労務費に関する基準(標準労務費)』を柱とした「改正建設業法」と「公共工事入札契約適正化法(入契法)」が、12月12日に全面施行されます。この改正法全面施行に先立って12月2日に開かれた中央建設業審議会総会では、「労務費に関する基準案」、コミットメント条項新設などを柱にした「建設工事標準請負契約約款改正」、建設技能者を大切にする自主宣言企業に加点する「経営事項審査改正」が審議、了承されました。
また国土交通省は、適正な労務費(賃金の原資)が公共工事・民間工事にかかわらず、受発注者間、元請・下請間、下請間という全ての段階の請負契約で確保するための『労務費に関する基準の運用方針案』も一般に公開し、パブリックコメントを求めました。具体的には技能者に適正な賃金として支払われることを目的に、▷労務費に関する基準の考え方を踏まえた価格交渉の進め方、▷発注者と元請建設業者の間の見積もりについての留意点、▷専門工事業者による注文者への労務費等を内訳明示した見積書の提出を容易にするためのツール、▷請負契約でコミットメント条項を取り入れる時の留意点――など71項目の方針を示しています。
さらに『専門工事事業者向け見積書「様式例」(詳細版)』、『同(簡易版)』、『専門工事事業者向け「書き方ガイド」』、『コミットメント条項(案)』――も別紙として合わせて公開しました。国交省はこのほか、発注者と元請や元請・下請などの、『法令遵守ガイドライン』も改定していく予定です。中小元請にとって、公共工事の主戦場は自治体発注工事です。また生産力(供給力)維持のカギの一つは協力企業である専門工事業が握っています。そのため12月号では、「発注者」「専門工事業」の視点も交えて、新ルールの留意点を探ります。
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労務費の基準案を承認した11回WG(10月27日) |

技能者の処遇の改善最大の柱は、賃金アップ(行き渡り)です。そして行き渡りのために、技能者を雇用する1次・2次などの専門工事業、職人を抱える専門工事業を再下請負先とする専門工事業と元請、発注者が「第三次・担い手3法」施行をてこに処遇改善を実現する新たなルールの取り組みが、「労務費に関する基準」です。
一方で、担い手(技能者)の確保・育成を目的にした処遇改善には、発注者・元請・下請それぞれに新たな責任と役割が求められています。国土交通省がパブリックコメントを求めた『労務費に関する基準の運用方針案』71項目のうち、中小元請に影響がありそうな項目についての国交省見解を紹介します。
【方針4.】
「通常必要と認められる労務費(基準値※)と異なる額での見積もり」
このうち「基準が想定する施工条件と異なる場合」
○小ロット工事など、基準が想定する施工条件よりも歩掛が悪くなる工事では、基準よりも高い労務費が適正となる。このため、受注者は、施工条件を踏まえ、労務費を基準より高く見積もる必要がある。
○一方、基準が想定する施工条件よりも歩掛が良くなる工事では、基準よりも低い労務費が適正となる。発注者は、施工条件を踏まえて合理的な範囲で、労務費を基準より低くできないか交渉しても差し支えない。
※ 基準値=国土交通省は以前に公表した「CCUSレベル別年収」を「目標値」と「基準値(標準値)」の2つの水準の値に変更。労務に関する基準では基準値を下回る支払い状況は労務費ダンピングの恐れについて重点的確認を求めた。
【方針7.】
「1日の労働時間が8時間とならないことが見込まれる場合の見積もり」
○公共工事設計労務単価は1日8時間の労働を前提としている。受注者は、見積もり時点で、これを上回る、または下回る時間数での作業が見込まれる場合、労務単価及び歩掛を日(8時間)あたりから1時間あたりに換算した上で、必要と見込まれる日あたり作業時間を踏まえた労務単価を計算し、見積書を作成することが必要。
【方針16.】
受注者が、再下請負先からあらかじめ見積もりを取らずに、注文者に対して見積書を提出する場合」
○再下請負先から事前に見積もりを取らず注文者に見積書を提出することは現に行われており、新たなルールの下でも差し支えない。
○ただしこの場合、受注者は、再下請負先施工分を含め、基準に基づき必要相当と考えられる労務費額を見積もり、注文者に提出する。受注者は、契約後に設計図書の変更・詳細化が行われるなど見積条件・契約条件の変更等がない限り、その見積額での施工について責任を負う。
○このような場合において、工事受注後(労務費分も含めて請負金額確定後)に、事前に見積もりを取っていない再下請負先から、注文者側が想定していたよりも多額の労務費を請求された場合、受注者は自らが負担して適正金額を再下請負先に支払うことを原則とする。
○受注者が、契約総額を増額することについて、注文者は、それに応じる責務はない。
『労務費の基準に関するワーキンググループ(第10回)資料』をもとに作成 |

12月12日に改正建設業法と公共工事入札契約適正化法(入契法)が全面施行されることが、11月14日の閣議決定で正式に決まりました。いよいよ技能労働者の賃金相場観を示す「労務費に関する基準(標準労務費)」が導入されます。適用対象は公共・民間問わず、全ての建設工事です。技能労働者の賃上げ・処遇改善が目的ですが、国土交通省が今後も賃金相場に一定程度関与する仕組みであることが最大の特徴です。
公共工事設計労務単価を技能労働者の標準的な賃金の目安とすることは、新たに公共発注者が導入する「労務費ダンピング調査」の内容を踏まえれば、工事原価のうち【歩掛】×【労務単価+資材単価+機械経費】で構成される直接工事費は官積算ほぼ100%確保しなければならず、つまり直接工事費部分を削った応札は難しくなります。今後想定されるのは、仮に直接工事費部分だとすれば、歩掛の生産性向上や資材調達の工夫に加え、間接工事費や一般管理費の圧縮などが選択肢として残ります。
いずれにしても、予定価格に対する受注価格の割合、いわゆる落札率の動向を注視していくことは必要です。
以下に直近の『入札契約の適正化の取組状況調査』(2024年調査)から東京都及び23区、26市4町8村の落札率を抜粋します。
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『【R6入契調査】各発注者別による取組の実施状況』をもとに作成 |

専門工事業団体で構成する「建設産業専門団体連合会」が11月13日に開いたパネルディスカッション『外から見た建設業界』では、他産業の中小企業を引き合いに建設業界に先駆けて構造転換を進める事例が示されました。浜田沙織氏(ワーク・ライフバランス取締役)をコーディネーターに、山下隆一氏(中小企業庁長官)、榎本健太郎氏(内閣感染症危機管理統括審議官)、丸山優子氏(山下PMC社長)がパネリストを務めました。
山下「驚き。いま週休2日ですか」
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様々な産業を見ているが、一番驚いたのは「いま週休2日ですか」。それでも働いている人がいるのはそれだけ魅力があるからで、伸びしろは大きい。日給月給についてもそんな産業はほぼない。胸を張ってうちの方がいいという状況をつくらないと人は来ない。企業の規模ではなく社長のやる気で簡単に変えられることは、まだたくさんある。建設業は絶対に必要な産業。最終的な供給能力を持っているという強みを認識してほしい。製造業やサービス業も同様だが、買収などでいかに最終的な供給能力を握るかというゲームが始まっている。
榎本「働き方改善も担い手不足深刻」
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2年ほど国土交通省で建設市場整備課長を務めていた。当時は社会保険未加入問題に取り組んでいたが、その頃と比べると働き方は改善しているが一方で、担い手不足は深刻になっている。外国人材については、介護・医療分野でも人材確保が大きな課題だ。取り組みがうまくいっている施設は、労働者としてではなく、仕事仲間として接している。慣れない国での課題に丁寧に対応するという視点が必要ではないか。
丸山「建築士は職人よりも高齢化」
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「週休2日いまですか」の発言を、「痛っ」という思いで聞いた。これは職人、建設会社だけの責任ではない。4週8閉所の取り組みが進んでいるが発注者が理解し受け入れることで建設業界も胸を張って週休2日を言える。人材確保については、建築士のほうが、現場の職人より高齢化が激しい。今後、標準労務費が決まるなか、(建設業は)何で勝負するのか、どんな付加価値を出していくのかがカギ。職人の仕事はロボット化が進んでもなくならない。むしろ技術力を持った技能者は再認識されるのではないか。
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