みなさまの会社の若手従業員は定着していますか?活き活きと育っているでしょうか?本コラムでは、昨年好評をいただいた「若手社員を知ると見えてくる 今日からできる若手社員育成の具体策(2023年7月、11月、12月号掲載)」に続き、若手従業員が定着し活躍する組織作りの方法についてお伝えします。若手や人材の定着、育成に課題を感じているという方はぜひ読み進めてください。
「こんなに自分の仕事人生について考えたのははじめてかもしれない」という言葉が訴えるもの
私は毎年、東京建設業協会の「早期離職防止セミナー」で講師をしています。若手社員の離職を防止し、定着してもらうために、まさに侃侃諤諤(かんかんがくがく)と議論をしながら自社の対策を考えていただいています。企業にとって人の課題は経営課題の第一位と言われます。いくら技術をつけても、辞められたら会社は存続できない。あの手この手と対応はしているけれど、一体どうしたらよいのか?セミナーの参加者から切実な悩みの声があがります。そんな時、私が率直にお伝えするのは、「さまざまな業界を見てきて感じることとして、建設業は技術を身につけることを最優先にしているが、同時に働く人の心の成長、内面の充足ができるような教育はいまだ重要視されていないように感じる」という点です。
この傾向は、現場での会話の他に、研修やセミナーに向き合う姿勢にも表れています。建設業では技術の講習会に応募が多数ありますが、コミュニケーションや心のケアのセミナーをすると、応募が少ないとお伺いしました。忙しい中で時間を割くならば、まずは技術を身につけなければならないという意識の表れではないかと感じます。実際、建設業の企業のみなさまに心のケアやストレスの対処法の講座をした際、受講者からは「自分のことをこんなに考えたのは社会人になって初めてかもしれない」「いままで自分のストレスは見ないものとして考えて心を殺してきた」「これからは自分も若手も個人を大切にすることで成長できると知った」といった感想をいただきました。社会的に世の中の流れは、個を重視する風潮になっています。働く上でも個人を大切に、やる気や心を重んじる流れになっている中で、建設業では業務の特性と業界的な傾向から、まだその考えが浸透していないように感じるのです。
個人を尊重し、選ばれる企業になるためにできることとして、労働環境や給与待遇の改善などが挙げられます。中でも、いますぐ手をつけることができ、資金を投じなくても改善でき、その効果が絶大なのは、「コミュニケーションの改善」です。ここまで書いてきた、若手が定着しない、個人を尊重されないという要因はこのコミュニケーションが“掛け違うこと”が大きな要因となっています。建設業の若手と接していると「怒鳴られる」「無視される」「教えてもらえない」というものから、「ストレスを抱えている」「ストレスに耐えている」というものまで、悩みが寄せられます。その数は他の業種に比べても、多いと感じます。みなさまの会社ではいかがでしょうか。上司と部下、職人さんと若手、協力会社の方たちと現場の社員のコミュニケーションはうまくいっていますか?
もちろん、若手の頃は誰しも職場に馴染むことに苦戦したり、教わることに苦労することもあるかと思います。ですが、昨今の若手社員で言えば、上司や同僚との円滑なコミュニケーションが取れないことから、職場に居場所を感じられず、結果として退職するケースが少なくありません。「早期離職防止セミナー」で人事のご担当者のみなさんから聞こえてくるのは、「会社の外の友人と繋がっているから、他社と比べて勝手に不満を募らせている」「転職のCM のおかげで、会社を替えることをポジティブに捉えているので困ります」という意見でした。せっかく育てた社員に意気揚々と辞められては、現場への影響、特に熱心に育てた育成担当者の心のダメージが大きいという意見もありました。
「私たちの世代と違ってわからないんだよね」で済ませてはいけないコミュニケーションの掛け違い
では、なぜコミュニケーションの掛け違いが生じるのでしょうか。研修で経営者や指導者のみなさまと、若手社員双方と接する中で、以下のような要因が見えてきました。
「世代が違う」で片づけるのは楽、それ、いつの時代も使われてきた常套句です
現場にいない立場で偉そうに!と思われたかもしれません。私もコンサルタントという仕事上、初対面の若手にも話を聞いてもらい、行動をしていただく必要があります。ですが、正直なところ、世代が離れれば離れるほど、「わからないな」と感じることは多々あります。ただし、この「世代間ギャップ」は、古代エジプトの壁画にも「最近の若者は……」と記載されていたというほど、脈々と受け継がれてきた常套句。みなさま自身も、そう思われていた時期もあるのです。
特に、コロナ禍以降の若手社員は指示を受けて動く傾向がありますが、押し付けられることは好みません。若手社員が自ら動かないから強く伝えると、気持ちが離れてしまう。上司のみなさまからは、「とにかく、若手をどう扱って良いのかわからない」「腫れ物に触るように接している」といった声すら聞こえます。このギャップ=コミュニケーションの掛け違いが、関係を築く上での障壁となり、若手社員が孤立感を抱える要因にもなっているようです。
必要だから伝えているのに「怖い」と言われる不条理さ
建設業では、他業種に比べて若手に対して教える時期が非常に長いことも特徴だと感じています。「どう考える?」と聞く前に、教えて覚えてもらわなければならないことが山積みです。この教えるというコミュニケーションが、「一方的」「指示命令されている」と捉えられるコミュニケーションの掛け違いが発生します。その結果、「自分の話は聞いてもらえず、怒られてばかり」という若手社員とも少なからず出会います。時に命に関わるようなことを真剣に伝えているつもりでも、伝え方によっては、「怖い」「心が折れる」といった逆効果になってしまうこともありえます。
若手社員にとっては、伝え方が非常に重要です。実は、腫れ物に触るようにする必要もなく、伝えずに済ませようとせず、お互いの好むコミュニケーションを選んでいただくと、相手の反応はガラリと変わります。私は研修の場で、若手社員にも「上司や先輩の好む伝え方」をレクチャーしています。綺麗事ではなく、お互いに尊重しあうことで、コミュニケーションは一方的なものから成長への助言に変わります。具体的な方法をご紹介します。
「DiSC®行動特性分析」で世代間ギャップを乗り越える
相手を尊重するために、みなさんはどのように対応するでしょうか。上記に挙げた若手の視点からみる課題から、「世代間のギャップを埋めるように働きかけ」「教える際の声がけに注意する」ようにしたとしても、抜け落ちていることがあります。それが、「相手が本当にその関わり方を望んでいるかどうか」という点です。
コミュニケーションの掛け違いは、自分が良いと思う対応をするだけでは、永遠に掛け違ったままなのです。面白いことに、こちらが良かれと思って相手とコミュニケーションをとっても、相手がそれをストレスに感じることがあります。例えば、「大勢の前で褒める」「新しいプロジェクトに抜擢して大きなチャレンジをさせる」など、良かれと思ってしたことはありませんか?
このように、「自分がモチベーションに感じること」と「相手がモチベーションに感じること」のコミュニケーションの掛け違いが、大きな溝になっているケースが多くあります。ある上司は大勢の前で褒めることが嬉しいだろうと思い、それを受けている部下は、大勢の前で褒められることをストレスに感じているのです。これは逆のパターンもあります。「みんなの前で褒めるなんて可哀想だから、個別に呼び出して褒めよう」と思っていると、部下は「せっかく褒められるのに、こっそり声がけされるなんて、全然認めてもらえていないようだ」とストレスに感じてしまうという具合です。この違いを理解するために、有効な心理学の考え方がDiSC® 理論です。DiSC® 理論に基づくアセスメント(客観的な評価手法)を用いることで、若手社員がどのようなコミュニケーションスタイルを持っているかを理解し、それぞれに合わせたコミュニケーションを取ることができます。同時に、自分自身がどのコミュニケーションスタイルを持っているかを知ることもでき、相手との違いを客観的に知ることもできます。流行りのタイプ分けではなく、アメリカの心理学者ウィリアム・マーストンが提唱し、40年以上前から全世界のビジネスシーンで使われている、行動特性分析アセスメントの手法です。
このように、個々の特性に合わせたコミュニケーションを取ることで、若手社員のストレスを軽減し、仕事に対する満足度を高めることができます。何より、上司のみなさんが「どう接したら良いかわからない」「なぜ、あのような反応をするのかわからない」というストレスも減らすこともできます。
弊社で長年組織作りの支援をしている電気設備の会社では、DiSC® アセスメントを活用して上司と部下のコミュニケーションを改善し、若手社員の定着率が大幅に向上しました。若手社員が「上司に怒鳴られる」「何も教えてもらえない」と言っていた状態から、4年ほどで「上司がよく面倒を見てくれます」「周りとのコミュニケーションはうまくいっています」と言うように、社風も変化しました。
今月を含めて3回にわたり、東建月報誌上において、このDiSC® アセスメントを使いながら、いかにコミュニケーションを改善するかをご紹介していきます。まずは、DiSC® アセスメントで使う4つの特性をご紹介します。
以下の4つのスタイルのうち、あなたはどれが近いでしょうか。仕事志向(懐疑的・論理的)か人志向(受け入れる)でしょうか。また、ペースが早い(自分から話す、決断が早い)かペースがゆっくり(聞き手にまわる、準備を入念にする)でしょうか。どれか1つではなく、一人ひとりには4つの強弱バランスがあります。ご自身を客観的に振り返ってみてください。詳しく知りたい方には、専門の分析ツールがありますが、行動パターンを予測することも可能です。
出典:会社の現場監督合同会社HP |
次回は、DiSC® 理論を使い、みなさまが部下や共に働く仲間からどのように見られているのかを読み解いていきます。また、若手社員のモチベーションを読み解く方法をご紹介します。DiSC®行動特性分析を知っていると、コミュニケーションの掛け違いが手に取るようにわかるようになります。楽しみになさっていてください。