第一回のダイジェスト
1.選ばれる建設企業になるために、現在の若手従業員が求めること
建設業界の人材育成の特徴は、技術をしっかりと教育しようとする反面、個人を尊重するコミュニケーションが不足していると感じます。選ばれる企業となるために、明日からすぐに取り組むことができる、コミュニケーションの改善をご紹介します。
2.コミュニケーションの不足が生じる原因とは
コミュニケーションを難しくしているのは、世代間の違いや、指示中心のコミュニケーション、評価や承認の不足かもしれません。若手社員と上司の間で生まれているコミュニケーションの掛け違いが、若手社員の孤立や不満を招いています。
3.コミュニケーションの掛け違いを改善する具体策「DiSC®理論」
自分がよかれと思うコミュニケーションが、実は相手にストレスを与えているかもしれない事実をご紹介します。自分では気づくことのできないコミュニケーションの掛け違いを理解するために、心理学を用いたDiSC®理論はシンプルで、使いやすく、効果があります。
「人を大切にしている会社」が生き残るとはいうけれど、相手は大切にされていると感じていますか?
前回は、コミュニケーションの掛け違いが引き起こす、若手の離職やモチベーションの低下についてご紹介しました。現場のコミュニケーションの不足や、よかれと思って相手に関わっていることがストレスになるというコミュニケーションの掛け違い。これらを逆に考えると、選ばれる会社とは、正しい方法で「人を大切にしている会社」ということもできます。東京建設業協会主催の「早期離職防止セミナー」では、毎年受講者の皆様とこのテーマに沿って話をします。どの企業も「従業員を大切にしている」し、「大切にしようとしている」ことは間違いありません。ですが、その方法は、本当に従業員が望んでいる方法でしょうか、と問いかけると、「手を尽くしているのに、これ以上何をしたら良いのか」と頭を抱えられる方もいらっしゃいます。
正しい方法で人を大切にするということに関して、長年支援をしている企業の社長から、面白い話をお伺いしました。最近、規則を決めて徹底して守ることで組織作りをする手法が流行っているとのこと。私も何冊か本を読んで知っています。面白いのは、適切な規則を作り、徹底させることができたとしても、結果としてうまくいく企業もあり、逆に若手の離職が進む企業があるというのです。その手法を取り入れている企業を見学に行った社長の話では、従業員同士が、一緒に働く仲間の素性も知らないということに驚いたそうです。つまり、規則重視でお互いにコミュニケーションを取ることがなく、どこに住んでいてどんな考え方を持っている人なのか、上司と部下もお互いがどのような人物なのかを深く知ることなく、粛々と仕事を進めている様子に驚いたそうです。その企業では、離職者が多く、次々と採用をして人員を確保しているとのことでした。
私にその話を教えてくださった社長の感想は「社長の考えでまとめた規則で縛ることができたら、経営者としてそんなに楽なことはない。けれど、これまでの経験から、そのままでは本当の意味で人は成長しない、人がついてこないのではないかと心配になった」とのことでした。事実、社長が見学にいった企業は離職率が高く、次々と人を採用して組織を運営しているとのことでした。
お話を聞かせてくださった社長の会社は、私が関わるようになってこの10年で人員が3倍になりました。離職者がほとんどいないどころか、産休に入った女性従業員がほぼ100%戻ってくる組織だということも付け加えておきましょう。規則でまとめる手法が悪いというわけではありません。ポイントは、規則を導入する場合も、マニュアルを活用する場合も、そこに相互理解に基づいたコミュニケーションがあるかどうかで、結果が大きく変わってしまうということなのです。成功の鍵はやはりコミュニケーションであることは間違いありません。それも、一方的なコミュニケーションではなく、双方向での対話を重視することが必要なのです。特に、若手社員に対しては、彼らの好む関わり方を知り、合わせていくだけで、自然と社員が長く働き続ける環境を作り出すことができます。この双方向のコミュニケーションの効果をご説明します。
間違ったモチベーションのあげ方で心の距離が離れていませんか?
上司と部下、同僚など、社内の双方向のコミュニケーションが組織にもたらしてくれるものは、ただ、話がしやすいとか、風通しがよくなったというだけではありません。実は、昭和から平成前半にかけては、給与や懲罰による「外発的なモチベーション」が主流でした。皆様もお気づきかもしれませんが、現在では給料が高いからといって従業員が離職をしないかと言えば、そうでもありません。また、反骨精神を産むために懲罰を課したとすると、そのまま離職をしてしまうケースもあります。つまり、会社の環境や制度だけで働く意欲を高めてもらおうとする「外発的なモチベーション」は、現在ではその効果が薄れてきていると言うことができます。特に若手社員は、自身の中でやりがいを感じ、内発的に動機づけられることを求めています。ある社長は、この話をしたとき、「社員がモチベーションをあげるように、良い発言をしたり、行動があったときに金封を渡していた。それは確かに一瞬効果があるものの、なかなか長続きしない。原因は外発的に刺激を与えていただけだったからなんだ」と話してくださいました。ただし、外発的モチベーションが悪いというわけではなく、場合によってうまく使えると効果が上がります。
一方、みなさまにヒントにしていただきたい、「内発的モチベーション」とは、自分自身がやりがいを感じ、成長を実感することで生まれるモチベーションです。これを引き出すためには、若手社員が自分の役割や目標に対して意義を感じられる環境を提供することが重要です。では、若手従業員はどのような点にモチベーションを感じているのでしょうか。一方通行の“こちらがモチベーションだろう”と思う観点ではなく、相手の視点になって考えることができると、正しいコミュニケーションでモチベーションをあげることに成功します。
自分からは見えない相手の内発的モチベーションがわかるDiSC®理論
若手社員の内発的モチベーションを引き出すために有効なツールの一つが、前号でご紹介した、行動特性分析アセスメント「DiSC®」です。DiSC®は、個々の特性をシンプルに読み解くことができ、それぞれの特性の「モチベーション要因」と「ストレス要因」が手に取るようにわかることから、弊社でも多くの企業で組織風土の改善と人材の定着に活用していただいています。
10年以上、DiSC®理論を使って組織改善に取り組んできた私が感じるDiSC®の良さは、まさに、このコラムでお伝えしてきた、「自分が良かれと思って相手にしていた」自分の価値観のメガネを外すことができるという点にあります。前号の分類表を参考に、まずは皆様自身のDiSC®スタイルを読み解いてみてください。イラストの円の縦軸を見ていただくと、ペースが早いでしょうか(話し手になることが多い)、ゆっくり(聞き手になることがが多い)でしょうか。今度は、横軸をご覧にただき、仕事志向(論理的・懐疑的)でしょうか、人志向(受け入れる・共感する)でしょうか。ご自分に当てはまる2軸に挟まれたゾーンのスタイルが、あなたを表すスタイルかもしれません。(自己診断によるものですので、より詳細な診断はDiSC®アセスメントウェブ診断でわかります)。結果は、主導を好むDスタイルですか?または、安定を好むSスタイルでしょうか。または、人を感化したいiスタイルですか?慎重さを好むCスタイルでしょうか。
出典:会社の現場監督合同会社HP |
イラストの説明にある通り、4つのスタイルそれぞれ、モチベーション要因が異なり、ストレス要因も全く違います。ですが、人は自分のモチベーション要因を相手も求めているという「自分のメガネ」で周りを見がちです。特に、DスタイルとSスタイル、iスタイルとCスタイルは対極にあり、モチベーション要因とストレス要因が真逆になります。Dスタイルの上司が新しいことに次々チャレンジすることを好んでも、Sスタイルの部下は安定した環境を好み、新しいこと・チャレンジをストレスに感じることがあります。同様に、iスタイルの上司が多くのメンバーを触発して次々とアイデアを出す時、Cスタイルの部下は、個人で緻密に物事を進めたいと考えるため、次々とアイデアが飛び交う環境をストレスと感じることがあります。どちらも、良かれと思って行動した結果が招いている残念な事態です。皆様の周りで思い当たることはないでしょうか。DiSC®理論を通じて気づいていただきたいのは、「時に自分の常識が相手の非常識になる」という事実です。
DiSC®理論は、自分自身の特性を理解するだけでなく、若手社員の特性を読み解くことにも役立ちます。これにより、若手社員が本当に求めているもの、つまり内発的モチベーションを知るきっかけになり、適切なサポートを行うことができます。
次号では、若手や同僚のDiSC®スタイルに合わせて、どのように関わると、より効果的な関係を築くことができるのか、現場にあった方法をご紹介します。まさに、今日から周りの人とのコミュニケーションが変わる方法です。楽しみになさってください。